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04 まるで二次元の美少女キャラみたいだぁ


 フリースペースに現れたメカクレは、早々俺達に謝って来た。


「ごめん。従姉妹の予定が固まったら連絡するつもりだったんだけど、その、急に来ちゃったみたいで」


 ぺこぺこと頭を下げるメカクレに、大佐が気持ちの良い笑顔で応える。


「気にすんな。俺も栗原もこの後予定とかないし」

「ああ。むしろ今日来てくれて助かったぜ」


 大佐と俺の爽やかな返答に、モブ子が眉をひそめる。


「え、この後、五限に必修が」

「モブ子。背景は静かにするんだ。何も無い。何も無いんだ」

「ええ……?」


 そうやって、俺は流れてきたBGMのような声を聞き流した。

 当たり前だ。物語の主人公がヒロインと出会うシーンに際して、必修講義を優先するわけないじゃないか。

 世界の危機で急いでいる時のチャリ泥棒は許されるのと同じ原理だ。ヒロインとの出会いシーンでの遅刻や欠席は許される。

 でも平時のチャリ泥棒は絶対に許さんからな。毎日タンスの角に足の小指ぶつけて死ね。


「あー五限だけど、先生が体調不良で休講になったって」


 と思っていたらメカクレから思わぬ言葉が返ってきた。

 なるほど、これが【主人公】の力か。この後に外せない用事があっても、イベントが起こるならばその用事の方を外してしまう。

 流石は世界に認められた【主人公】であるところの俺だぜ。


「じゃあ、従姉妹を連れてくるね」


 そう言ってすぐにメカクレが連れてきた従姉妹を見た時、俺は素直に驚いた。

 メカクレが、その前髪のせいで分かり難いが相当なイケメンであることは知っている。

 となれば、その従姉妹もと思っていたのだが、想像以上だ。

 日本人離れした妖精のような顔に、日本人離れしたスラリとしたプロポーション、そして日本人離れした金色の髪の毛。

 まるで日本人じゃないみたいな容貌の従姉妹が現れた。


「紹介するよ。えっと、冴木リコリス……さんだ。出身は、えっと、ポーランド?……とかその辺で、血の繋がりがあるのかないのか微妙なんだけど……その……従姉妹だよ」

「冴木リコリスです。よろしくお願いします」


「「なるほど」」


 俺と大佐は、軽く額に手を当てたあと、メカクレに聞こえないよう顔を突きあわせ、ヒソヒソと話をする。


「どう見る」


 俺が主語を省いて尋ねるが、大佐は十全に伝わった様子で答える。


「どう見ても他人」

「しかし従姉妹だと奴は言っている」

「じゃあもう従姉妹ってことで良いだろ」

「オーケー。彼女は冴木リコリスさん。メカクレの従姉妹。問題無いな」


 俺と大佐の作戦会議は終わった。

 たとえどう見ても血の繋がりはなさそうなポーランド人が現れたとしても、俺達は動じない。

 余計な詮索もしない。

 何故ならそんなことで嫌われたら困るからだ。

 そう、俺達の目的はリコリスさんの正体を暴くことではなく、あわよくば可愛い女の子とお近づきになることなのだから。

 それから俺達は彼女に笑顔を向けて言った。


「初めまして。栗原です。よろしくお願いします」

 俺の白い歯がキラリと光る。


「俺も初めまして、鈴木です。親しい人には大佐と呼ばれています」


 大佐のださいメガネもキラリと光る。


「いや、従姉妹って嘘でしょ。どうみても他人でしょ」


 そしてモブ子のナイフのようなマジレスも光る。


 いやいやいや、ちょっとまて。

 俺と大佐がにこやかに自己紹介をしているところで、モブ子がアホみたいなことを言っていた。言われたリコリスさんも、半笑いであった。


「モブ子、ちょっと来い」

「え、なに」

「良いから」


 俺はノータイムでモブ子の手を掴んでその場を離れる。その刹那に大佐へと目配せを忘れない。奴もまた即座に頷いた。

 そして、俺達の会話が聞こえないところでモブ子の手を離す。


「ちょっといきなり掴まないでよ。痛いでしょ」

「馬鹿野郎。お前の手なんかよりリコリスさんの心の方が痛いって分からんのか」

「いやだって、どう見ても血の繋がりゼロでしょ。純正外国人でしょ」

「たとえ遺伝子的にそうだったとしても、大切なのは心の繋がりだろうが。メカクレが従姉妹って紹介して、本人も従姉妹って名乗ってるんだから、もう従姉妹で良いじゃないか」

「いやでも、私が指摘しても本人、半笑いだったし。自分でも無理があるって分かってるでしょあれ」

「それはあれだよ。処世術だよ。そうやって平気なフリが上手くなるくらい、心ない言葉を吐かれ続けてきたって事情が分からんのかモブ子。それだから人間じゃなくて空気なんだぞ」

「いや現在進行形で私、心ない言葉吐かれてるんですけど」


 そう言ったモブ子の表情は、どことなくリコリスさんの半笑いに似ている気もした。

 空気の表情が分かるだなんて、俺も常人離れしすぎたかもしれないな。


「ていうかあんたら、メカクレ君と彼女が従姉妹じゃなかったら困ることでもあるの?」

「あいつらが従姉妹じゃなかったら普通にくっついちゃうじゃん!?」

「ええ……」


 従姉妹だって結婚はできるかもしれないけど、赤の他人よりは恋人が成立しづらい筈だ。

 これが赤の他人だったら、普通にメカクレが独走中になっちゃうじゃん。俺のラブコメ主人公としてのスタートがまた遅れちゃうじゃん。

 だからもう従姉妹ってことで良いじゃん。


「思った以上にくだらない理由で唖然としてるんだけど」

「お前にはくだらなくてもな、彼女居ない歴=年齢の俺達にとって、初めて出会ったレベルの超絶美少女なんだぞ。モブにはこの絶妙な男心が分からんのか」

「絶妙な男心の前に、真正面からモブって言われる年頃の女の子の、ごく普通の女心を勉強してみては?」

「大丈夫。モブ子だって普通に可愛いよ」

「褒めてんのそれ」

「褒めてるよ。女慣れしてないオタクに可愛いって言わせるとか大したもんだぞ。まるで二次元の美少女キャラみたいだぁ」

「いやそれ、褒め言葉じゃないし」


 なん、だと……?

 二次元の美少女キャラに例えられているのに、褒められてないと思うのか女の子は。

 女心難しすぎるでしょ。いや、俺の経験値が特殊すぎるのかもしれないが。


「とりあえずだ。俺達はこれから、あのリコリスさんの探し物、とやらを手伝うらしいんだ。こんなところで関係がこじれても仕様がないから、一先ず従姉妹ってことで良いだろ。な?」

「はぁ。まぁ、別に良いけど。変な詐欺とか気をつけようね」


 ため息を吐きながらモブ子は言った。

 まるで俺達を心配しているみたいな言い方だなと思うが、モブ子にそこまで心配されるような関係性はないと思うんだ。

 さては普通に良い奴だなモブ子。

 まぁいいか。モブより重要なのはヒロインだ。

 俺とモブ子が話を終えて帰ってくるころには、大佐とリコリスさんはある程度打ち解けている様子だった。


「つまりリコリスさんはそのキャラ? の手がかりを追って、外国からはるばる日本に来たってことですね」

「……ええと、はい。そんな感じです」

「ふーむ」


 俺が来る前にある程度事情聴取を終えていたらしい大佐が唸っていた。

 そんな大佐は戻ってきた俺達に気付いた様子で、少し表情を明るくした。


「良いタイミングで栗原。お前にも話を聞きたいと思っていたところだ」

「おい、どうしたんだよ大佐。お前がこんな超美人と普通に会話ができるなんて信じられないんだけど。いったいどういうカラクリだ。ヤクでもキメたのか?」

「うるせえよ」


 最初は友好的な顔をしていたくせに、俺がちょっと冗談を言うと睨んでくる。

 この掌返しの早さが、人間という種族を信じられない根拠なんだけど分かるかな?


「とにかく、リコリスさんの探し物についてはなんとなく分かった」

「おう」

「どうやらリコリスさんは、昔見た事のあるアニメだか漫画だかのキャラクターを調べていて、この日本にやってきたようだ」

「……ふーん?」


 俺が尋ねるような視線をリコリスさんとメカクレに向けると、二人は曖昧に頷いた。

 しかし、このネットが隆盛となったご時世に、わざわざねぇ。


「で、それはメカクレも知らないような作品だったってこと。だよな?」

「ああ、まぁ」


 メカクレの反応は先程からどこか曖昧だ。

 進んで行く話が絶妙に噛み合っておらず、さりとて否定するほど間違ってもいない、みたいな微妙な感じの表情を浮かべている。

 大佐の理解と、実情がずれているのか?


「なぁメカクレ。大佐の言っていること、ほんとに合ってるか?」

「ああ、いや。実を言うと手がかりがほんとに少なくてね。アニメや漫画のキャラって確定してないというか、ただ、そういう作品があってもおかしくないと言うか」

「曖昧だな」


 メカクレにも聞いてみたのだが、そちらもどうにも曖昧だった。

 となるとこれはもう、リコリスさん本人に聞いてみる外ないのではないだろうか。

 そう思ってみたところ、不思議な光景が待っていた。

 肝心のリコリスさんが、話し合っている俺達の方を向いておらず、ただただ、何も無い空間をじっと見つめているのだ。

 まるで、猫が何も無い空間をずっと見つめているフィレンゲルシュターデン現象のように。

 そう思っていたら、その何も無い空間から声がする。


「あの、栗原君、これなに」

「ヒェッ!? 空気が喋った!?」

「失礼だなほんと」

「なんだ居たのかモブ子」


 俺が何も無い空間だと思っていた場所にはなんとモブ子が居た。

 やばいな、こいつ本当に恐ろしいほど気配がない。俺がこうまで感じ取れないとか、こいつが生まれた時、家族は感じ取れたのか不安になるレベル。

 で、さっきの構図はモブ子がひたすらリコリスさんに凝視されていたということね。


「いえ、あの、失礼ですがお名前は?」


 そんなリコリスさんは、モブ子の顔をじっと見つめたままそう尋ねた。

 モブ子は怪訝な表情をしながら返す。


「はぁ、桃城信子ですが」

「ももしろ? ……ああ、はい、あの、分かりました」

「そういうあなたは、リコリスさん、で良いんですよね?」

「は、はい」


 不思議な感じだ。俺の目から見て信じられないほどの美少女と、普通に可愛いモブ子が熱い視線を交わし合っている。

 お互い、お互いの顔から目を反らせないみたいな。

 え、もしかして、リコリスさんってそっちの趣味? 

 そんな百合の花咲き乱れるような趣味を、お持ちのお方だったりするの?

 いかん、いかんぞそれは。何がいかんって、その、あれだ、とにかくいかん。非生産的だ。

 モブ子はどうでも良いけど、こんな美少女がそれだなんて、我々の業界ではいかんよ。


「えーと、そんなに見つめられると困るのですが」

「あ、すみません」


 モブ子が困った顔で言ったところで、ようやくリコリスさんが目を逸らした。

 超絶美少女に見つめられていたにも関わらず、モブ子の反応はそれだけだ。

 いやモブ子、お前本当に普通だな。なんだそのつまんねえ反応は。俺が脳内で騒いでたのが馬鹿みたいじゃん。


「とりあえずリコリスさん。その、リコリスさんが探しているらしいキャラについてもう一度聞いてみても良いかな」

「あ、はい」


 俺の声に、リコリスさんは正気に戻った様子でこちらを向いた。

 それから、少し切り出しにくそうに口を開く。


「その、これといって、はっきりしたことは分かってないのです」

「まぁ、子供の頃に見たアニメとかってそういうことありますよね」

「なので、曖昧にはなるのですが、特徴や、その逸話などなら」

「はい」


 逸話? 覚えているエピソードとかかな。

 なんだか物々しい言い方ではあるが、ひとまずは聞いてみてからだな。


「その方は、勇者として世界を救った方なのです」

「へぇ。今時珍しい直球というか。もしかしたら、ゲームとかそっちなのかな」


 大佐が言っていたせいでちょっと偏っていたイメージを修正する。

 その間にも、リコリスさんは話を続けていた。


「その方は、勇者の居場所が知れると魔の者に周囲が狙われるのを嫌い、手に入れた聖なる装備をわざと脱ぎ去り、どこにでも紛れられるような服装を好んだと言われています」


 なるほど、理由はともかく行動自体は気が合うな。

 世界に一つしかない聖なる装備とか、目立って仕様がないし、なにより村人とかいう連中は勇者の情報を平気で魔族に売り渡すからな。即身バレに繋がる聖なる装備なんてしないにこしたことはない。


「また、とある村で病気に苦しむ母を助けたい、と願い出た幼子のため、凶悪な魔物のはびこる山から、無償で特別な薬草をとってきたり」


 おいおい大変だな。だけど、それが報われたのなら勇者さんも本望だろう。俺の場合、似たようなことがあっても転売だからな。


「他には、邪教に脅され、罪を犯そうとしていた人を助けるため、罠にかかったフリをして単身邪教徒の本部に乗り込み壊滅させたり」


 おいおい本物の勇者だな。俺なんて騙されてデリバリーされた上に、邪教潰したら周りの村に何故か恨まれたりしたのに。

 まぁあいつら半分グルみたいなところあったしな。


「その方の最後の決戦の折には、それまで互いを助け合っていた、聖女様やエルフの姫君、龍神族の巫女達を置いて、単身魔王城に向かい、相打ちとなってしまったとか」


 ……………………。

 ん?

 聖女? エルフの姫君? 龍神族の巫女?

 ……おかしくね? なんか、覚えがあるような。

 今までの話と、仲間達……ん? ん?


「あの、つかぬことお聞きしますが、その勇者様の仲間の聖女って、どんな人ですか?」

「聖女様ですか? 確か、もとはとある王国の王女様でしたが、神託を受けて教会の聖女となり、勇者様と出会ってから共に旅をしていたと。お名前は失伝しておりますが、肩書きは確か……」


 頭の中を探るようにしているリコリスさんに、俺は祈っていた。

 頼む、頼むから、俺の知っている肩書きは出てこないでくれ。

 せっかく、せっかく日本に帰ってきたんだぞ。

 やめろ、やめてくれ。俺は平凡なラブコメ主人公なんだ。

 ただ、ちょっとばかし異世界を冒険したことがある一般人になったんだ。

 だからお願いだ。そんな、そんな繋がりが今更生えるなんて、頼む、頼む神様。



 頼むから、【月虹の聖女】だけは!



「あ、そうです! 【月虹の聖女】です!」




 いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

 いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。




 お目当ての記憶を掘り出したリコリスさんは、すっきりとした表情を浮かべている。

 だが、反対に俺のテンションはどん底をぶち抜いて、そこから血液がするすると抜けて行くような下がりっぷり。

 というか、まさかだけど、さっきから話している勇者って。


「もし、もし少しでもご存知であれば教えて下さい。世界を救った勇者様、ラスト・ブレイブ様のことを」





 その勇者、俺だよ!!



初日投稿はここまでになります。

あとはできるだけ毎日投稿していきたいと思います。

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