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02 ラブコメ主人公になったら何をすれば良いのか

「それではこれより、第一回『ラブコメ主人公になったら何をすれば良いのか』会議を始める」


 俺の言葉に、その場にいる数人が注目した。

 現在地は俺の家。お集り頂いているのは、俺の大学の友人兼サークル仲間だ。

 俺の家に備え付けられているコタツ机(布団抜き)の上には、スーパーで買ってきた総菜とか、さっとつくったツマミとか、後は缶ビールとかが並んでいて飲み会開始間近である。

 が、乾杯のその前に、俺は本日お集り頂いたお題目を告げたのであった。


「議長よろしいですか」

「発言を許可する」

「寝言は寝て言ってください」


 と、俺に向かってそんなことを言ってくる眼鏡をキッと睨んだ。


「そうは言うがな大佐。仮にお前が青春ラブコメの主人公になったとき、同じこと言われたらどう思う」

「そんなことを考えるお前の頭が、可哀想だと思う」


 と、やたら好戦的なことを言って、大佐は自分の眼鏡をクイッてした。

 紹介が遅れたがこいつは『大佐』。特徴は眼鏡だ。

 さっきからまるで真人間のような視点でモノを言っているが、この大佐という眼鏡もガッチガチのオタクである。

 ただ、俺の友人には──というか俺の所属しているサークルには基本的にオタクしかいないため、本当に眼鏡以外特徴のないオタクでもある。そしてウチは眼鏡率も高いのでなんの特徴もないとも言える。モブオタクである。

 彼のあだ名の『大佐』も、別に軍オタだからとかそういうのではなく、このサークルの新入生歓迎会のときの失態が原因だ。

 当時の彼は大学デビューを決めようとしたらしく、新歓ではコンタクトを付けていた。

 だが、自己紹介をする流れに成った際、慣れないコンタクトが嫌な感じにずれたらしく、「私の名前は……あぁ! 目がぁ、目がぁああ!」というコンボを決めた。

 それから今日まで、彼はずっと『大佐』と呼ばれている。本名は忘れた。田中とかじゃない?  多分。


「まぁまぁ大佐、四季がおかしいのは今日に始まったことじゃないし」

「確かに」

「いやメカクレ。それはフォローのようでフォローになってない」


 と、俺はその場にいるもう一人の生暖かいフォローに返した。

 だが、俺に返答する前に、大佐がメカクレの言葉を拾う。


「だがなメカクレ。こいつ夏休み前は『あー異世界いきてえ』的な妄想野郎だったのに、夏休み明けてから急にこんなこと言い出したんだぞ」

「夏休み中に鍵っ子にでもなったんじゃないの?」

「エロゲーに心を洗われたのか」

「…………」


 思わずお約束を返しそうになったが、それに乗ると完全に流れを持ってかれるのでなんとか耐えた。

 でも一つだけ言っとくけどCLA○ADはエロゲーじゃないから。


「というかそういうんじゃないし。俺は別にギャルゲーにもエロゲーにもはまってないし。純粋にラブコメ主人公になったらどうすれば良いのか気になるだけだし」

「そんな純粋な疑問を抱くことに疑問を抱けよ」


 眼鏡かち割ってやろうかこいつ。

 と俺の思考が異世界の蛮族風味になり始めたところで、再びメカクレが間に入った。


「まぁまぁ。とりあえず、良く分からないけどラブコメ主人公って言うからには、まず出会った女の子と仲を発展させていけば良いんじゃない?」


 メカクレの言葉に、俺はふむ、と頷いた。

 再び紹介が遅れたが、この場にいるもう一人の男は通称『メカクレ』だ。本名は冴木玄鵜さえきげんう

 俺にとっては小学生時代からの友人であり、さっきから暴言しか吐かない大佐とは比べ物にならない、親友と言って良い存在である。

 そのあだ名の由来は、良く見れば相当整った顔をしているくせに、いっつも目が隠れるくらい前髪が長いことだ。写真とか撮ってもいっつも目だけ見えないのこいつ。

 他に、俺が何度言ってもクッソダサイ無地のTシャツとジーパンスタイルを変えないし、オシャレという個性の主張から全力で逆走しているのも特徴である。


 そんな無個性な外見と打って変わって、実家はなんか知らん流派の古武術の道場やってたりして、この現代日本で未だに『気』の操作がどうのとか言ってるくらい武術の達人だったりする。なお、俺の異世界生活において、このメカクレから習った『気』の操作の基礎が、アホみたいに有用だったので、俺は古武術を馬鹿にする気は一切無い。

 あと、アホみたいに可愛い姉妹がいたり、下宿先のアパートの隣がめっちゃ美人なお姉さんだったり、昔結婚を約束した幼なじみがいたりと、意味の分からない男でもある。

 …………ん? あれ、なんだこのスペック? なんか引っかかるな。CV無さそう。

 ま、まぁ、それでいて俺が引きずり込んだオタク道にどっぷり浸かっているのも事実であるわけだし、その辺ひっくるめて俺の親友に間違いはない。

 だから、俺もその親友の言葉にはしっかり耳を傾けないといけないわけだが。


「というわけで、出会った女の子のことを気にかけてると、ふとした瞬間に再会するから、そういったことでイベントを重ねていけば普通にルート入るんじゃない?」

「お、おう」


 当たり前のように、女の子と自然に出会う前提の話をされた。

 メカクレは、きょとんと不思議そうに俺を見る。


「あれ? なんで引き気味なの?」


 持つ者と持たざる者の差を実感させるような台詞を、ナチュラルに吐きやがって。

 が、言っていること自体はそこまで的外れでもないだろう。

 ラブコメ主人公になるためには、女の子と出会って、その子との仲を進展させなければいけない。

 うん。何も間違ってはいない。間違ってはいないのだが。


『でもそれって無理じゃね? だって四季の周りに出会いのイベント一切起きないし』


 そう応えた声は、パソコンの向こう側から聞こえてきていた。

 今回、飲み会という名義でこの『ラブコメ主人公になったら何をすれば良いのか会議』を開いた俺だが、この会に一人だけ、堂々のチャット参加を決めた奴がいた。

 それがサークルメンバーにして、サークル随一の謎の人物『Kouta』である。

 彼は俺達のサークルであるDTMデスクトップミュージックサークルに属しながら、今まで一度もその姿を見せてない筋金入りのヒッキーだ。

 だが、俺達のサークルの表向きの活動は、パソコンで自主制作音源を作成し、イベントなどで配布することである。つまり、パソコンで音楽を作れる人間なら、部室で顔を合わせる必要など一切存在しない。

 だから、音源だけ提供するスタイルでもサークル参加に支障はない。

 支障はないけど、飲み会っつってるのに機械音声チャットでの参加は色々と頭おかしい。おかしすぎてDTMサークル的には逆にアリになっている。おかしい。


 まぁ、仮にKoutaの存在がおかしくなくても。


「俺の周りに出会いが一切無いことを断定するのはおかしいだろうが!!」

『え、あるの? あの四季に? 初対面の女の子に『異世界行ったら何がしたい?』トークをオナニー全開で敢行して、ドン引きされたあの四季に出会いとかあるの?』

「ねえよ! ねえけどヒッキー野郎に言われたくもねーよ!」


 俺の消し去りたい過去の汚点を突かれて慟哭した。

 だが、このチャット越しの温度のない指摘こそ、ある意味、俺が今日この場に人を集めた理由そのものでもあった。


「……横道に逸れまくったが本題に入ろう。つまりだな、俺が気になるのはどうすれば『ラブコメ主人公的な出会いイベント』が発生するのかってことなんだ」


 俺の問いかけに、三人は神妙に押し黙った。

 そう。無いのである。

 出会いイベントが。

 あの忌まわしい異世界を完全制覇した報酬として確かに【主人公】の称号を持ち帰ったにも関わらず、主人公にふさわしい出会いが一切発生しないのである。


「もう夏休み明けて一週間よ? 俺がラブコメ主人公になってから一ヶ月も経つのよ? なのに、一向にメインヒロインとの出会いイベントが発生しないんだよ?」


 これは全くもって由々しき事態としか言いようがない。

 普通ラブコメ主人公と言えば、ちょっと外出した先で謎の美少女とイベントが発生したり、バイト先に美少女後輩がやってきたり、ちょっとした飲み会の帰りに家出JKをうっかり拾ったりといったアクシデントな出会いがあってしかるべきだ。

 だと言うのに! 異世界から帰ってから俺の生活にそんなイベントは一切ない!

 というか、新しい女性と知り合った事実すら一切無い。

 それ以前に女子との触れ合いすらない。

 かろうじて女子とイベントが起きたとすれば、大学の講義中に、どう見てもモブな背景女子に前から回ってきたプリントを手渡されたこと。

 そして、そのプリントを渡してきたモブ女子が、実は俺の部屋の隣に住んでいたこと。

 この世界で時空の歪み的なものを感じた時に窓から様子を窺っていたら、偶然隣に住んでいるそのモブ女子も同じ様に窓を開けていて気まずく目が合ったことくらいだ。

 そんなモブとの些細な背景描写があったとしても、メインヒロインとのイベントは一切発生していないのである。

 俺、主人公なのに。


 そんな俺に、いっそ本気の同情をするような顔をしている大佐。


「いやお前、本気でラブコメ主人公目指してんのか? 異世界はどうしたんだ?」


 眼鏡の奥の困惑の瞳に、俺は問い返す。


「大佐。そうは言うが、異世界に行ってどうするんだ?」

「え、いや、どうするって……最強とか、ハーレムとか目指すんじゃないの?」

「これだから異世界素人は……」

「ええ……」


 困惑の表情を見せる大佐に、俺は言って聞かせる声音で語りかけた。


「あのなぁ。異世界で最強になってどうする?」

「え? いや、それは、知らんけど。とりあえず、チートとか貰ったら、目指すんじゃないの?」

「異世界でチート能力を貰って最強になっても、そのあとの目標がなきゃ意味ないじゃん。魔王倒す為に強くなったとかならまだ分かるよ。だけど目的もなく強くなっても、世界に混乱を招くじゃん普通。いきなりなんの制御もできない核兵器がポンと生まれるみたいなもんだぞ。しかもそんな奴が何故かスローライフとか始めようとするじゃん。そんなん恐怖じゃん。核兵器の発射ボタンもった奴が趣味で農業やってるようなもんだぞ。だったら最初からほどほどにスローライフ楽しめよって話ですよ」

「いやでも、スローライフ守るために、力が必要だったり、するんじゃん?」

「はいその思想がもうスローライフ向いてないー! 自分じゃどうしようもない理不尽の暴力にさらされたら諦めるくらいの覚悟がなきゃ、スローライフなんてできません。力で問題をねじ伏せてスローライフしようとしたら、どうせ最後はその力を頼った権力者とか、その力に反抗する敵対勢力とか出てきた上に、その力で強引に今の生活守ろうとして結局争いに巻き込まれるんだよ」

「お、おう。そう、だな」


 ちょっと無意識に早口になってしまった俺の言葉に、大佐は引き気味に頷いた。

 いやでも、これはほんとの話だよ。


「それと、異世界でハーレム作ってどうする?」

「いやどうすることもないけど、男なら夢見るんじゃない?」

「なんで? 疲れるだけだよ? 戦闘職の男が死にすぎて結果一夫多妻制になっている国もあるけど、基本男女の戦闘力にあまり差がない世界で、自分をいつでも殺せるレベルの女を集めて、痴情のもつれの原因をバラまきながらハーレム作るの? 死にたいの? 死ぬの? 脳味噌下半身についてんの?」

「だ、だからほら、奴隷ハーレムとかあるじゃん?」

「美少女奴隷が簡単に手に入るわけないし、奴隷になるような美少女訳ありに決まってるし、仮に美少女奴隷集めてハーレム作っても女同士の争いがなくなるわけないし。ハイパーギスギスハーレム作ってなんか楽しいのか? 仮に人格完璧美少女集めた最高のハーレム作ってもそれはそれで周りに半端無く目を付けられるよ。基本的人権くそ食らえの世界でそれやったら、権力者に奪われたり集られたり待った無しだぜ? で、それを撥ね除けるためにやっぱり世界最強になるか? さっきの話に戻るか?」


 一人の人間には身に余るほどのチートな能力とか、明らかに過剰なハーレムとか持ってスローライフしようとした挙句、色んな国に目を付けられて最終的に世界の脅威判定されてなんやかんやと争った挙句に星を滅ぼすとか、割と良くある話なんだってよ。

 なぜ詳しいかって言われると、ちょっと面識のあるクソ神の使いからそういう映画ちょいちょい見せられたから。実話を元にしたフィクション映画を。


「とにかく異世界はクソ。力ある者をそっとしておこうなんて理解のある権力者とかいない。大抵は自分の利益になるとか国の利益になるとかそういう基準でしか物事を判断できない連中しかいないから。そもそも異世界人とかいう何の保証も無い人間に対して優しくする奴とか博愛主義極まって人間らしくないし、そんなのに惚れるとか狂気の沙汰だし、そんな人権無視の手段がまかり通るくらい追いつめられた国の王族に、基本マトモな奴なんていないし、マトモな奴がいたら異世界から人間を召喚なんて考える前に止めるし、何が言いたいかって言うと、特にこっちの同意無しで人間を異世界に拉致るような奴は神だろうと人間だろうとサイコバス集団に間違いはないから、そいつらに呼ばれた時点でスローライフとか夢の又夢だし、そんな奴らの近くで最強を目指すなんて、ちゃんちゃらおかしいって話なんだよ分かったか?」


 最初はちょっと引き気味だった大佐。いつの間にかドン引きである。

 というか、他の面々もドン引きである。

 まるで俺が、何かおかしなことをいったみたいな空気を出して引きに引きまくっている。

 いやでも俺は何も間違ったこと言って無い。

 世界の命運がどうとか人類の破滅がどうとか色々と言われたりもするけど、それこそ知った事じゃない。

 その世界の命運くらいその世界で生きてる人間がどうにかしろってんだ。異世界人にどうこうさせようとか発想の源が狂ってる。


「とにかくだ。異世界に行ってチート能力貰って最強ハーレムを目指すなんて考えるくらいなら。この現代日本で女の子と心通わせるハートフルなラブストーリーのが百億倍マシって話だ」

「お、そうだな」


 大佐はうんうんと頷いて、そっと目を逸らした。

 そしてメカクレとKoutaに向かってヒソヒソと小声でなにか話しはじめる。

 普通なら聞こえないところだが、俺はさっと意識を拡張してその会話に耳を傾けた。


「おい、あいつマジで何があったんだよ。相当強烈な異世界系鬱ゲーに脳味噌クリティカルヒットされたのか?」

「いや、うーん。そんな強烈な作品出てたらもっと話題になってると思うけど」

『そんな内容のゲームの話は聞かないな。ネット小説界隈だったらあるかも知れないけど、クソこじらせた栗原を洗脳するような作品だったら、埋もれてるってことはないと思うし』


 こいつらなんか失礼なこと言ってるかと思ったら、ナチュラルに心配してやがる。

 そういう態度を取られると俺も若干、暴走しすぎたかと反省してしまう。

 わざとらしく咳払いをした後に、三人(一人はパソコンだけど)に声をかけた。


「もう異世界とかどうでも良いから青春ラブコメの話だよ」

「いや、青春ラブコメも異世界とどっこいレベルの非現実だから」


 振り出しに戻ったみたいな顔してんじゃねえよ眼鏡。

 現実世界が舞台なだけ、異世界よりよっぽど現実的じゃねえか。まぁ、実際は異世界も現実なんだけどね。現実が非現実だったとも言えるが。


「良いか大佐。俺は何も難しいことを言っているわけじゃないんだ」

「お、おう」

「俺はただ、いきなり血の繋がらない妹が見つかったり、いきなり曲がり角で美少女とぶつかったり、いきなり学年トップクラスの秀才委員長と秘密を共有したり、いきなり空から降ってきた女の子とボーイミーツガールしたり、ただその程度のイベントを待っているだけなんだ」

「現実を見ろよ」


 帰ってきたツッコミは余りにも空々しかった。


「いやでもあれだよ。仮に俺が主人公だとしたらそれくらいのイベントはあって然るべきだとは思わないか?」

「まず、青春ラブコメの主人公は自分の事を主人公だとか思って無いし、思ってたとしてもそれはそういうイベントが起きてからの話だろ。そういうの一切無いのに主人公って言い張っている時点でただの狂人だと気付け」


 大佐の反論にぐうの音も出ない。

 いや、確かに言っていることは分かるんだけど、でも俺主人公なんだよ。ほんとだよ。だってステータスにそう書いてあったもん。

 なお、俺はこの世界に帰ってきたその日から、ステータスやそれに関連した事柄には一切触っていない。大した意味はない。この世界の普通の人間はステータスなんて知らないので、それに合わせているだけの話である。当然、他人のステータスを参照することもしていない。

 そもそも、他人のステータス盗み見るとか、プライバシー的にお行儀悪いし。


「栗原。分かったらお前はさっさと現実に戻ってこい。どんな鬱ゲーやったのか知らないが酒飲んで忘れようぜ」

「そ、そうだよ。イベントなんて起きなくても生きていけるよ」

『あと、良かったらこっそりタイトル教えてくれよ。やってみたい』


 こいつらの中では、俺が鬱ゲーにメンタルをやられたってことに決定したらしい。

 甚だ不服だが、気遣いは素直に受け取っておこう。というか、気心が知れた友人と、命の危険とか毒物混入とか詐欺詐称混じりの会談とかなく、普通に酒が飲めるとか幸せすぎる。

 とりあえず青春ラブコメは一時忘れて、今はビールに溺れようではないか。


「んじゃ改めて乾杯!」

「「『乾杯!』」」


 随分とのびのびになってしまった乾杯をする。喉を駆ける冷えたビールが最高だ。

 ほんと、日本に戻ってきてからというもの、酒が美味くて泣きそうになる。

 それから、飲み会の話題はなんだかんだと、俺が最初に言った『ラブコメ主人公』の話になり、各々が適当な意見をだらだらと述べて行った。


「にしても、さっきの栗原が上げた出会いイベントとか、工学部で夢見過ぎだよな」


 大佐が機嫌良さそうにメカクレに語りかけている。なにが夢見過ぎだファ○ク。

 一方のメカクレは「そ、そうだよね。あるわけないよね」と曖昧な表情を浮かべている。

 ……まただ、なんだこの、違和感? まるで『え、それくらいあるよね?』みたいに言いたそうなこのメカクレの空気。


「あーそういえば、ちょっとお願いがあるんだけど」


 俺が心にひっかかりを覚えているところでメカクレが言った。


「実は、僕の……遠い従姉妹が東京に遊びに来てて、良かったら皆にも紹介したい、んだよね」


 ふーん? と受け流しながら、深く考えずに返す。


「そりゃ別に構わないけど、なんで俺達に紹介を?」

「えっと、ちょっと探し物があるみたいなんだけど、僕じゃ力になれそうになくて。それで趣味の違う皆にも協力して欲しいというか」

「なんか趣味系の探し物? じゃあ久々に秋葉行く? それとも池袋のほう?」

「いや、それは……とにかく詳しくはまたその時で。大学で待ち合わせる感じでお願い」


 いまいち要領を得ないメカクレの要望だったが、特に断る理由もなかった。

 全くなんの報酬も提示できないのに、病気の母親のために、超凶悪なモンスターが蔓延る山の特別な薬草取って来いとかいう異世界の幼女に比べれば、何の問題もない。

 しかも、本当は母親超元気で、幼女にただで集めさせた薬草転売してやがったからな。クソ人類が滅ぼしてやろうか。


「とりあえず俺はオッケーだ。詳しく決まったら連絡くれ」

「ありがと四季」


 と、俺の記憶から消し去った筈の感情が沸々と湧き上がってきたところで、慌てて蓋をし、メカクレの要望を受け入れたのだった。




「ところで」


 と前置きを一つ挟んで、大佐が言った。


「その、従姉妹って可愛いの?」

「え、うん。多分」

「ほうかほうか、ふふ。俺も大丈夫だぜ」


 やべえな、客観的に見るまでもなく最高にゲスい笑顔を浮かべてやがる。メカクレもドン引きだ。Koutaは顔が見えないから知らんが多分ドン引きだ。

 馬鹿め、俺も全く同じ事を思ったが、ここは好感度を考えて黙っておくのが正解なんだよ。親戚の口からマイナス評価が洩れたら最悪からのスタートだろうが。

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