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26 ほんと、締まらねえ最後だな


 称号の変化を告げるメッセージと共に、俺の身体には冗談みたいな力が漲っていた。

 今まで一般人と同じだったレベルが、【ユリステリアの勇者】によって引き上げられたからだろう。

 そして、呪いみたいに俺のステータスにくっついていた経験値が、俺のレベルを即座に押し上げたのだ。

 俺はそっと、心の△ボタンを押す。


 ──────


【ユリステリアの勇者】 栗原四季

LV:7600000000000000000000000(上限)

EXP:2.09375E+384659


HP:100/100

SP:100/100


STR:23486452686465246758476479

VIT:23875536346645314314132532

AGI:23276656419657465846519986

INT:23576595643146348654464545

DEX:23657481586079574970303790

LUC:12


 ──────


 って上がり過ぎだろ! なんだこの称号!?

 俺の知っている限り『真性・ネイト』で称号を集めに集めた限界が八千兆だっていうのに、これ、なんぼだ?

 一十百千万億兆景垓の一個上、じょ? 七抒? 漢字でてこねえ。

 どうなってんだこの称号。なにさらりと自分の名前とか付けてんだユリス。

 あとそれでもまだ上限にタッチしてるんだけど、俺の経験値もどうなってんのこれ。


「私の愛を込めた称号ですご主人様」

「それ所持品にもこもってるやつだろ」


 俺の記憶が正しければ【ネイトの勇者】は、ネイトに住む人々の願いを束ねた者がどうのこうのってフレーバーテキストだったんだよ。

 その称号より【ユリステリアの勇者】の方が強いんだよ。

 となるとネイトに住む人々全員の願いを足し合わせても、ユリス一人の愛にすら……これ以上は考えるのが怖いからやめよう。


「さて、待たせたなペシュフィール」

「別に待ってない。これでようやく、対等でしょ」


 俺が声をかけると、さっきまで浮かべていた困惑を整理できたらしいペシュが、臨戦態勢に入っていた。

 さて、賢明な皆様は『いや、お前のレベルめっちゃ上がっているから、もう魔王とか楽勝だろ』って思っているかもしれない。

 が、『真性・ネイト』の魔王は、そんなに優しくないんだよね。


 ──────


【前作魔王】 ペシュフィール・トライスティア(桃城信子)

 LV:7600000000000000000000000(LV:7)


 ──────


 これが『真性・ネイト』の魔王の基本設計だ。

 相対する勇者の能力が上がれば、それに合わせて魔王も強化される。

 というか、魔王専用装備が能力割合強化の一点ものだから、レベルを上げれば上げるほど差が開く。

 単純なステータスチートで無双しようとすれば、同じだけ強化された魔王に無双される。

 基礎部分で単純に勇者をメタってきているわけだ。創造主の嫌がらせ死ね。

 でも、そういやこいつ普通の格好してるな。

 あの聖装備の上位互換だった魔王シリーズをつけてない。


「お前、魔王装備はどうしたんだ?」

「……捨てた」

「ぶふっ」


 どっかで聞いたようなやり取りをしてしまった。

 俺が噴き出しかけると、ペシュは憤慨したように言う。


「仕方ないでしょ! あんなの着て普通の女の子なんてできないんだから!」

「これを捨てるなんてとんでもない、とか出なかっただろ?」

「……まあね」


 あの時の俺の気持ちの一端でも知ってくれたなら嬉しいよ。


「さて、久々の戦闘だ。スキルの慣らし運転も兼ねて、ちょっと付き合ってもらうぞ」

「馬鹿にしないで。あなたのスキルは全部分かってる。調子に乗っていられるのも今のウチよ」


 言うが早いか、ペシュの姿が掻き消える。

 見えなくても分かる、スキル『時空断』の発動だ。

 俺も同様に『時空断』を発動し、超加速した意識の中でペシュと打ち合った。

 当然のように得物は二人とも『魔力形成』で作っている。


 ちょっと分かり難いと思うが、これが『真性・ネイト』の魔王の基本設計その2。

 相対する勇者が持つスキルを、魔王も取得する。

 これはどんなスキルや魔法でも、たとえユニークスキルだろうと世界の枠組みの中にあるものなら問答無用だ。

 つまり、どんなチートスキルを授かろうと、それと同じ、いや基本的にはそれの上位互換のスキルを魔王も授かる。場合によってはそれをメタるスキルも授かる。

 これの何が酷いって、冒険開始直後だよ。

 チートスキルを貰って勇者が冒険始めようとしたら、そのスキルを最終形態まで鍛え上げた魔王が直々に勇者狩りしにくるらしい。

 別にこっちのレベル上げなくても、初期ステで既に世界最強だからな魔王。

 スタート時点だと、戦力も財力も勇者は持ってないのに、それをどっちも持っている魔王が、さらに上位の能力で襲い掛かってくるとかクソゲーでしょ。


 というわけで『真性・ネイト』では、チートスキルを持っている方がクリアは難しい。

 だからといってチートスキル無しで放り込むと、クソほど強い雑魚に瞬殺される。

 雑魚に対抗するためにチートスキルを持つと魔王に殺される。デッドロックである。


 それでも唯一の救いは、仲間に関しては自由が許される点だろうな。


「ご主人様」

「ユリス、補助全がけ。適宜回復。以上」


 傍らで戦闘を見ていたユリスが、俺の短い指示に応える。

 身体能力が明らかに向上し、『時空断』による剣戟は俺の有利に傾く。

 だが、俺に仲間のアドバンテージがあるように、ペシュフィールにもアドバンテージがある。


「『フレア』」

「ちっ──あー、『フレア』!」


 剣戟の合間に、超高熱の塊がペシュの五本の指から生み出される。俺もそれに咄嗟に対応するが、生まれたのは精々三つ。残りの二つは魔力剣で対応する。

 魔力剣でぶった切った瞬間、高温は強大な爆発を生み出し、俺とペシュが揃って距離を取った。


《魔法『フレア』を習得しました》


「卑怯だぞペシュ! 俺が忘れた技使いやがって!」

「忘れたのはそっちの責任なんじゃないの?」

「くそ! ラブコメ主人公に魔法なんて要らねえんだから仕方ないだろ!」


 そう。ペシュが持っているスキルは、今の俺ではなく最終戦時の俺のものだ。

 俺はほとんどのスキルを忘れたが、ペシュはそんなことはない。

 俺がユリスによってステータスで優位にあれば、ペシュはスキルの数で優位にある。

 ──魔王と勇者の設計逆じゃねそれって思わなくもない。

 まぁ、俺は基本どんなスキルや魔法でもその気になれば習得できるんだが、後出しでは精度に問題が生まれる。相手が既存のプログラム走らせてるのに対し、こっちはその場でコード書いてそのまま走らせているようなものだ。


「さて、まぁ、慣らし運転はこの程度か」


 俺が魔力剣を振りながら、身体の調子を一つずつ確かめる。

 それに対して、ペシュは何か言いたい事がある様子で、臨戦態勢のままながらちょっと言いにくそうに聞いてくる。


「一つ聞いてもいい?」

「なんだよ」

「その、いつも言っているラブコメ主人公がどうのて、なんなの?」

「あ? ラブコメ主人公はラブコメ主人公だろ」

「そうじゃなくて」


 ペシュはそこで言葉を溜めて、真剣な目で尋ねた。


「どうして栗原君は、ラブコメ主人公になりたいなんて、思ったの?」


 真っ直ぐな目で見つめられると、誤魔化しちゃいけない気がしてくるな。

 だが、理由なんてこっ恥ずかしくて言えるかよ。


「俺に勝てたら、教えてやるよ」

「……そう。じゃあ、そろそろ本気で行くよ」


 宣言した後、ペシュの外見が変わる。

 いわゆる第二形態というやつだ。

 だが、そこは年頃の女の子だからなのか、見た目の変化は最小限に。具体的には、頭から超巨大な二本の角が生えてくるだけだ。


 ……ん?


「なぁ、お前のその角、一本欠けてない?」

「ここの魔王に一本上げたの。契約の対価としてね」

「なるほど、つまり、お前の第二形態も不完全ってわけだ」


 こいつはこいつで、締まらない最終決戦だな。

 これが一応、前作から続く因縁の決着シーンだって分かっているんだろうか。

 かたや安物の暗殺者ルックに身を固めた勇者で、かたや角が一本欠けたモブっぽい魔王ときたもんだ。

 能力だけはどっちも、この世界を軽く滅ぼせそうなのが頂けない。


「ほんと、締まらねえ最後だな」





 そう言いつつ、俺は『刹那時空断』を発動させた。

 これで『俺の勝ち』だ。





《スキル『刹那時空断』を習得しました》


「え?」


 直後、俺の動きが全く目に入らなかったらしいモブ子のとぼけた声。

 一瞬遅れて、残っていたモブ子のもう一本の角が根本から切断された。


 そう『不意打ち』で戦闘終了である。


「が、ああ、あああああああああああああああ!」

「回復!」


 角を切断された痛みにモブ子が悲痛な叫びを上げたところで、俺の声に応えてさっさとユリスが回復をかけた。

 そして後には、落ちた角を拾った俺と、角を失って戦意喪失したモブ子が残る。

 角は魔王の魔力の源であれば、それを失えば戦力は当然低下する。

 それこそ、こうまで綺麗に切ればきっと、一般人と変わらない程度にまで。


 俺も臨戦態勢を解くと、対するモブ子は恨みがましい目で俺を見ている。


「さっきの技、何?」

「『刹那時空断』。『時空断』の上位技。簡単に言えば『時空断』を幾重にも重ねがけして『時空断』の何倍もの火力とスピードを出す。以上」

「私、知らない」

「そりゃ、最終決戦でも意図的に『覚えない』ようにしてたからな」


 そうそう、俺が『真性・ネイト』でどうやってモブ子を倒したか教えておこう。

 あの時俺は、魔王戦の後に『時空渡りの秘法』を使うつもりだったので、それを仲間達に見せないために一人で戦った。なんでかって? 見られてコピーされたら困るから。

 それはつまり、仲間というアドバンテージを自ら消し去ったということである。

 こんな状態で、自分の上位互換である魔王とどう戦うのか。


 簡単だ。

 それまでの冒険では有用な『スキル』を封印した上で、戦闘中に適宜『スキル』を生やしながら、終始戦闘を有利に運んだのだ。

 さっきの戦闘では後発でスキルを使う俺が不利だったように、俺がスキルを覚えながら戦えば後発で不利になるのは魔王のほうだ。

 そして駄目押しとして、俺は戦闘の後に『全てのスキルを出し切った』とモブ子に伝えていた。


「こんなこともあろうかと、切り札になるスキルを十や二十隠し持っておくのは『真性・ネイト』の基本だぞモブ子」

「卑怯! 卑怯者! クズ勇者! 勇者の風上にも置けない! 服装からして陰の者!」

「最後は許さんぞ貴様!」


 まるで俺が好きでこんな服装しているみたいじゃないか。

 違う。俺はあくまで、人目を避ける為にこんな服装をしていただけで、決して好きでやっていたわけじゃないんだ。


「馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿! どうして、どうして私の角を折っただけなの……」


 暫く言いたい放題口汚く罵ってくれたモブ子が、最後にそう呟いた。

 もしかしたら、モブ子は心を殺して、本気で俺を殺すつもりだったのかもしれない。しかし俺はモブ子の戦闘不能を狙っただけだ。

 それが、何故かと言われたら答えは一つだ。


「だって、魔王の力を失ったら、お前は一般人に戻るしかなくなるだろ」

「えっ?」


 モブ子は、俺の返答にきょとんとした顔を見せる。

 鼻頭が痒くなるような気分を味わいつつ、俺は更に重ねた。


「とにかく、これで俺とお前の因縁も決着だ。俺もお前も何の憂いも無い一般人。後は、勇者に任せておけば良い」


 魔王の角は力の象徴だ。モブ子は、たった今、魔王の力を失った。

 そして、俺もまた前作の因縁を片付けた以上、勇者のままでは居られまい。

 あんな啖呵を切って【ユリステリアの勇者】になったんだからな。

 ああ、なんか恥ずかしいわ。あれだけ言って、結局俺は、一人の女の子を一般人に戻すためだけに戦ったんだからな。騙し討ちで勝ったけど。


「いや、あの、私の角、確かに私の力の源なんだけどさ」

「ん?」

「時間が経ったら、普通に、治るけど」

「…………」


 一人の女の子を一般人に戻せてなかったわ。

 え、ちょっと待って、うそ、まじしんどい、恥ずかしい、死にたい。

 待って、俺、さっき決め台詞的な感じで決着とか言っちゃったんだけど。

 ここは空気呼んで一般人になっとけよ、ボケがぁ!


「…………ユリス! 俺の称号、もう戻して良いからな!」


 俺は照れ隠しもあって大声でユリスに語りかける。

 先程の戦闘にも、俺の気持ちを汲んでか極力手出しをしなかったユリスが、俺の言葉に応えて無表情で頷いた。


「では、申請を取り下げておきますね」


 先程の俺の叫びをまとめて、どっかの創造主だか誰かに届けていたのがユリスらしい。

 彼女の言葉に従うように、その直後、聞き慣れたくもないシステムメッセージの声が。


《称号【ユリステリアの勇者】は称号【ユリステリアの伴侶】に変化しました》


「戻ってねえんだが?」

「ちゃんと訂正しておきましたご主人様」

「訂正できてねえんだけど!? 間違っているんだけど!?」


 確かに勇者ではなくなったが、同時にどう考えてもおかしいものに変化していた。

 その後も不服そうなユリステリアに何度も称号の却下を出す。

 だって【ユリステリアの虹】とか【ユリステリアの愛】とか【ユリステリアの比翼連理】とか【我等愛情永久不滅】とかふざけた称号ばっかりなんだもん。

 そこから【前作主人公】に戻すのに無駄な時間を食ってしまった。

 あと、それらのふざけた称号のほうがレベル上限高いのが納得いかなかった。



 おかげでモブ子のレベルさらに凄い事になっているわ。マジヤバい。宇宙がヤバい。



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[一言] ここまでトンでもLUC12しかねえw
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