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21 ラブコメ主人公である俺が、一番、モブと仲が良かった、だと?

話数を数え間違えてました……1話多かったので今日から3話更新です。


 集団失踪事件。

 まさか現代日本にあって、そのような事件が起こるとは思っていなかった。

 行方不明者は年齢も性別もバラバラな、ここ小金井市在住の人々だ。

 その手口は一切不明。例えば、市内を巡回しているバスの運転手の証言では、バスを利用していた複数の人々が、停まってもいないのにいつの間にか消えていたらしい。

 そのような、不可解な失踪が多数上げられており、全国的なニュースになっている。


 行方不明者の多くは、その家族が警察に届け出を出したのですぐに発覚したが、一人暮らしだったモブ子は発覚までにいくらかの時間がかかった。

 少なくとも、俺がモブ子の不在に気付いたのは、警察が俺の住むアパートを尋ねてからのことだった。



「…………ユリス」


 警察が去ったあと、俺は本棚に向かって声をかける。


「モブ子が居なくなったことに、気付いていたな?」

「はい」

「なぜ言わなかった?」

「そのような命令を受けておりませんでしたので」


 ちっ、と俺は自分自身に舌打ちした。

 ユリスの機械的な監視に融通が効かないことなど、俺自身が一番良く分かっていたことじゃないか。


 メカクレ達と会った晩から、俺はユリスにいくらかのお願いをしていた。

 一つは、この世界に潜んでいるという暫定魔王の居場所の特定。これに関しては随時進行中と答えが出ていた。

 一つは、メカクレ達の監視。メカクレ一行がなんらかの敵と遭遇したりした場合、即座に教えるように言っていた。

 そして最後に、モブ子や大佐など、俺の知り合いの情報収集。こちらは、メカクレ達より優先度を下げて、命の危険がありそうなら教えてくれと言っていた。


「モブ子に命の危険は無いってことか?」

「はい。少なくとも、現在地球上で進行しているストーリーにおいて、現地地球人の殺害許可が出たという話はありません。従って、行方不明者が異世界勢力によって害される危険はないものと判断しております」

「くそっ、命の危険じゃなくて、何かあったら報告しろにしておけば良かった!」


 ドン、と壁を殴った。大丈夫、モブ子側の壁だから文句は来ない。そういう問題じゃない。

 最初は俺も、ユリスにそういった指示をしていたのだが、大佐やモブ子など、かなりの人数の買い物だの公共機関の利用だの就寝だのの『何かあった』の報告が止めどなく溢れたので、命令を変更したのだ。

 分かるかどうか知らないけど、ログメッセージの監視を始めたら、インフォレベルのメッセージが大量に引っかかって慌てて監視レベルを変えた感じだ。


 メカクレ達が、ストーリーに組み込まれて冒険をしているのは、ギリギリ納得していた。

 この俺自身、一般人とはいえ【前作主人公】がストーリーに巻き込まれるのも、気に食わないけど受け入れる。

 だが、モブ子は駄目だ。俺やメカクレ達とは違う。

 積極的にストーリーに関わらないようにしながら、ずっとストーリーを意識していた俺とは違うのだ。

 彼女はずっと、普通に、生活をしていただけなのだ。

 そりゃ、俺と知り合いだったり、メカクレの帰還を目撃したかもしれないけれど、それでも、彼女だけは、モブだけは、ストーリーに関わっちゃいけない筈だ。


「ご主人様、落ち着いてください。思考が乱れています」

「そんなの分かっている」

「では、今すべきことは後悔ではなく、次の一手を考えることでは?」

「黙ってた奴が良く言うぜ」


 ユリスに毒づくも、彼女の無表情に一切の変化はない。

 分かっていたことだ。ユリスは悪くない。むしろ、俺の手が回らない部分まで監視してくれているのだから感謝すべきだ。だから、彼女にあたるのは筋違いだ。


「とにかく、今は──」


 思考を整え始めていたところで、ピンポンと玄関のベルが鳴った。

 警察だろうか。何か尋ね忘れたことでもあったのかもしれない。

 思いながらドアを開けると、そこに居たのは予想外の顔だった。


「大佐?」

「よう栗原。今、大丈夫か?」

「どうした、急に」

「聞いたんだ、その、桃城さんのこと」


 言って、大佐はちらりと隣を見た。

 そうしている間にも、俺の大学の知り合いがぞろぞろと押し寄せてくる。


「その、みんな桃城さんを探したいって集ってくれた人達でさ」


 嘘だろこれ。なんでモブ子みたいな空気を探すのにこんなに集ってんだ。

 それこそ、モブ子と大差ないレベルで俺の認識にいないモブさん方まで大量じゃないか。

 俺の視線に気付いたらしいその他モブの皆さんが、それぞれ声を上げる。


「桃城さんって、目立たないけど、いつも、お世話になってたし」

「居なくなったらやっぱ気になるって言うか」

「桃城さんには良く、ノートのコピー貰ってたからな」

「空気はやっぱり、なくちゃならない物だとおもうのよね」


 良い事言っている風だけど最後の奴。工学部の姫。引き立て役欲しいだけかお前は。

 と、思ったりはしたものの、皆が皆、モブ子を探すために集った連中ってのは間違いない様子だった。


「暇な大学生どもだな。ほんと、大学生にもなって大袈裟すぎるだろ。馬鹿みたいだ」

「そういうお前も、桃城さんのこと探そうとしてたんじゃねえのか?」

「な、なんでそう思うんだよ」


 大佐は、何故か狼狽えてしまった俺にニヤリと笑みを向ける。


「お前は知らないかもしれないけど、モブ子と一番親しくしてたのお前じゃん」


 ば、馬鹿な。

 この俺が、ラブコメ主人公である俺が。

 一番、モブと仲が良かった、だと?


「訂正しろ大佐ぁあああああ!?」

「ほんとお前のキレるポイント分かんねえよ!!」


 大佐はたじろぐが、なんてことはない。これは俺の、ただの照れ隠しだ。




「というわけで、以上がモブ子の行きそうな場所、および失踪当日に行動したと思えるルートだ」


 改めてモブ子捜索隊を俺の家に招き、全員座るスペースは無いものの、俺が知っている限りのモブ子の情報を公開した。

 モブ子の買い物の頻度や、平日、休日の外出先について、頻出する散歩コースやバイト先の情報、その他、俺が知っている限りの全ての情報だ。

 みな、真剣に聞いていたと思っていたが、次第に顔色が悪くなって来ていたのは気のせいか。


「何か質問は?」

「詳しすぎて引く」

「このくらい、隣に住んでいれば自然と分かることだ」


 嘘だよ。ユリス調べに決まってんだろ。

 でも、この場所でユリスを出すとなんかこんがらがりそうなんだもん。ユリスに調べさせたのは俺でもあるし。


「とりあえず、ここで固まっていても仕様がない。何人かでペアになって探索を……どうしたお前ら? 急に俯いたりして?」

「……栗原が、ペアになってとか言うから」

「工学部のオタクめんどくせえな!」


 さっきまでの息のあったモブ台詞リレーはどうしたんだよ! お前等二人組も作れんのか!

 もう面倒くせえから、俺が適当にペアを指定してやったら、それはそれで嫌がるのも面倒くせえわ、勝手にしろ。

 で、ペア作りにやたら時間がかかったところで、ようやく全員がペアで探索を始めた。

 そうやって、さっきまでの人口密度が嘘みたいに伽藍とした家の中。


「…………俺が、余った」


 ええ、何故か、見事に俺だけ余ったよ。

 安牌だと思っていた大佐が、真っ先に違う人と組んだのが想定外でした。


「大丈夫ですご主人様。私がおります」

「お前と組みたくなかったから落ち込んでるんだよなぁ」


 隙間女の言葉を受け流しつつ、俺はもう一度考える。

 実際、大佐達の協力が得られたというのは嬉しい誤算だった。

 もともと、俺の作戦では時間がかかる筈だった。


 この場で一番問題なのは、ユリスの監視が生きているにも関わらず、モブ子が消えたという事実だ。

 ユリスは嘘を吐かない。ユリスが観測していたモブ子には命の危険は発生しなかった。

 だから、ユリスのログにはモブ子が消えた瞬間などの決定的な情報が残っていない。

 そのあたり、ユリスは驚く程に融通が効かない。機械的だ。

 基本的に、ユリスは俺という個人以外に感心がないので、モブ子の足取りで俺に報告する指令のなかった部分など、欠片も記録していないだろう。


 情報がないならば、その場所は足で見つけ出すしかないのだ。

 そのため、まずユリスと一緒に聞き込み調査を行い、モブ子が消えた痕跡を探す。

 そしたら、その周辺一帯をユリスにサーチさせて『魔王一行』の隠れ家を探す。

 で、隠れ家を発見できたら、その時に対処を考える、というものを想定していた。


 この最初の調査が、人海戦術で行えるのならばありがたい。

 大佐達はみな地球人だ、例に漏れず、許可が無い限りは異世界人に殺傷されることはない。

 その許可はそうそう降りないと知っているから、安心して探索を任せられる。

 一番危ないのは【前作主人公】である俺なのだから。


「で、Kouta。情報収集の調子はどうだ?」


 パソコンに向かって尋ねると、聞き慣れた機械音声が返ってくる。


『まだ何もヒットはなし。とりあえず、聞き込み情報は順次集ってくるから、定期的に共有する。焦らずに待つべし』

「了解。頼んだ」


 基本的に引きこもりであるKoutaは、モブ子探索には出ていない。が、こいつはこいつで俺達に協力してくれるらしい。

 なので、ネットでの情報収集と、現地に向かった人々からの情報を集めて、まとめて共有する仕事に着いてもらった。こういうのが一人いるとほんと助かる。


「それで、俺は」

『やること無いんなら、待機してなよ。何かあったときの集合場所は栗原の家なんだからさ』

「大学生のたまり場とか、俺の家も終わったな」

『同情する』


 半分以上冗談だが少し本音だ。

 大学生のたまり場とか、酒の匂いが絶対抜けない場所になるわ。

 そして今すぐにやることもなくなった俺は、Koutaとの通信もそこそこに独り言を呟いた。


「…………しかし、こう来たか」


 場の雰囲気を壊す必要もなかったからその場では何も言わなかった。

 だが、普通に考えて、同級生の一人が行方不明になったからって、自分たちで探し出そうなんて思うか? 横の繋がりが希薄な大学生が? たった一人のモブのために?


 思わないだろ。思うわけないだろ。

 恋人が消えたとかじゃないんだぞ。


 だけど現実にはこうしてたくさんの人間が集まっている。

 魔が差した──いや、正義が差したかのようにふとそんな行動を良しとしている。

 一人一人の自由意志で、同級生を助けるための行動を選択をしている。


「…………分かりやすすぎるくらい、都合が良いんだよくそったれめ」


 そうだ。彼らは俺を助けにきたわけじゃない。

 ストーリーの目に見えない強制力が、俺をこの状況に絡め取るために、ここへと集めさせたのだ。

 前作主人公の俺に、このストーリーの中でどうしても何かをさせたいように。

 そのストーリーで俺が何をするのかを、見て楽しむかのように。


「上等じゃねえか。頼むぞ皆の衆」


 俺はそんな展開に、ニッと笑みを浮かべてやる。

 ストーリーのくそったれなんて知るか。俺は元からモブ子を探す気だったんだ。

 せいぜい利用させて貰おう。

 

 果たして俺の言葉は、どこへともなく消えて行く。

 無事でいろよ、モブ子。


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