20 とても魔王と戦えるとは思えないレベルなんだけど
「や、やあ、四季、良い夜だね?」
「お、おう。メカクレ、その、服装はあれか。ポーランドで流行っているのかな」
メカクレは明らかに、俺にマズイところを見られたって顔で動揺している。
俺も初期対応に困った。
だって、メカクレさん、めっちゃキラキラした装備一式に身を包んでいるんですもの。
見覚えあるわアレ。一式まとめて捨てた記憶あるし。
「そ、そうなんだよ。ポーランド土産でさ。あ、その、今度またちゃんとポーランド土産持って行くから、な、四季?」
「お、そうだな。その、楽しみにしてるわ」
混乱したメカクレが、ポーランドごり押しに走ったので、俺も乗っかる。
良いじゃないか、ポーランドってことで。現実のポーランドにはめちゃくちゃ申し訳ないけど、俺の精神安定のためにもポーランド一択だよ。
後ろに控えているリコリスさんとか、武士娘とか、幼馴染っぽい人とか、いつかの占い師さんも明らかに物々しい装備しているけど、全部ポーランドの服装だよ。
どっちかというと、どこのコスプレ帰りだよって感じだけどそれもポーランドだよ。
と俺は納得したのに、隣のモブ子ときたら……。
「いやいやいや。おかしいでしょ。ポーランドの民族衣装って言ったら小ポーランド地方のものが一番有名だけど、擦りもしてないでしょ。どう見ても勇者御一行の装備というか」
「黙れモブ子! もう良いだろ! ポーランドの勇者ってことで! お願いだから!」
「ええ……」
そんな現実的な視点でのツッコミなんかいらねえんだよ。
モブ子どうしてお前はそうなんだ。モブの癖になぜそういう細かい所を気にするんだ。
いつもは適当な説明しても『そうなんだ』で流すのに、どうして今回だけは我慢できないんだ。
あれか、ポーランドが好きなのか。だから我慢できないのか。
「……仕方ないか。流石にこれ以上誤魔化すのは難しいよね」
ほら見ろ、モブ子のツッコミでメカクレまで諦めモード入っちゃったじゃないか。
「いやそんなことない! 俺は、ポーランドだと思う。なんか雰囲気が凄いポーランド感出てるし」
「良いんだ四季。俺の事情を察して庇ってくれるのは嬉しいけど、これ以上は君の負担になる」
そんなことないよ。説明された方が俺の負担になるよ。ストーリー的な意味で。
しかし、ここまでか。
この場で真相を知りたくない人間が俺一人となると、強硬に反対するのはおかしい。何か裏がありますよって宣言しているのと同義だ。
「説明、させてくれ四季。俺が、リコリスと出会ってからのことを」
「……おう、聞かせてくれ」
観念した俺と、最初から聞く気だったモブ子に向かって、メカクレは説明を始めた。
当然箇条書きだよ。俺、そこまで詳細な情報は必要としてないからね。
・ もともとリコリスさんの国は『宝物珠』を守護する国だった。
・ その国が、魔族からの強襲を受け、下っぱ騎士のリコリスさんが『宝物珠』を持って逃げることになる。
・ 色々あって古の大魔導士が残した『時空渡りの秘法』で異世界(地球)へ逃げる。
・ また、その『時空渡りの秘法』は、かつて世界を救った勇者のもとに向かうものであり、リコリスさんは世界を救うために勇者を探す。
・ で、メカクレとボーイミーツガール。色々あって『宝物珠』を奪われる。また、勇者も現在は力を失っているため協力できないという。
・ 絶望するリコリスさんをメカクレが励まし、なんやかんや(R-18)あって、元気を取り戻す。
・ 勇者は見つからずとも、メカクレが『宝物珠』を取り戻すと覚悟を決める。二人はネイトに向かうことになる。その時、武士娘とかに見つかり、一緒に行くことに。
・ 異世界ネイトで冒険の日々。魔族の侵攻で勢力図は変わりつつある中。勇者にしか装備できない『聖装備』をメカクレが装備して、名実共に勇者になる。
・ 勇者の登場に息を吹き返す人間達。魔族を押し返しはじめる。
・ そして、リコリスの故郷を取り戻した際に『宝物珠』の真実を知る。それはかつて世界に君臨した『魔王』の力の一部を秘めた物だった。
・ 魔族と人間の戦いが激化。メカクレ達は四天王と激戦を繰り広げつつ、ついに魔王城へ。
・ 魔王との決戦。魔王は『宝物珠』の力を用いるも、なんとか押しのける。
・ しかし、ついに止めとなったところで、なんと魔王はこの地球に逃走。
・ メカクレ達も魔王の後を追ってこの世界に辿り着いた(今ココ)
「だから、この世界には今、魔王とその配下の四天王が潜伏しているんだ」
あーやばいわ。これやばいわ。
何がやばいって、勇者メカクレの冒険がネイトで完結しなかったことだよ。
舞台はネイトから再び地球へ。この【前作主人公】が待っている地球へ。
そう来たかー。これ、俺がストーリーに絡むの、半ば確定だな?
問題は俺の生死がどっちに転ぶかくらいさ、ハハハ。
「とても、信じられない……ね」
「それでも桃城さん、これが、真実なんだ」
「…………」
事情を聞いたらしいモブ子は、深刻そうな顔で俯いてしまった。
まぁ、俺達に今は関わっていないにしろ、この近辺に魔王と四天王が潜伏しているんだ。
気になるのは仕方ないだろう。
ぶつぶつと、独り言のように何かを呟いている。
「魔王……魔王?」
「モブ子、そんなに心配しなくても」
「そうじゃなくて、そもそも魔王ってなんなんだって思って」
心配なのかと思ったら、なにやら学術的な興味に目覚めただけだった。
そんなモブ子の言葉を拾って、メカクレが言う。
「魔王は、もともと千年以上前に猛威を奮った魔族達の王らしい。その過去の戦いで救世主である勇者『ラスト・ブレイブ』によって次元の狭間に封印されたものが、再び現れたとか」
……ん、マジで?
いや、そのふざけた名前の勇者は、俺が最後の周回だと思って二秒で考えたものだけど。
次元の狭間から、出て来た? いや、そんな筈は……だって……。
「ということは、その魔王は、次元に関する能力を持っているってこと?」
「あ、うん。だからこそ、この僕と繋がっていたこの地球に、次元移動で逃げ去ったみたいなんだ」
魔王が、次元を移動する能力を……?
いや、しかし、そもそも千年以上の時を経て、魔王がネイトに戻る? そんな展開有り得るのか?
そもそも、魔王の力を封じた『宝物珠』ってなんだ。俺はそんなもの知らないぞ。
いったいどこの誰が作ったものなんだ。
「さっき話に出てた宝物珠って奴はいったいなに?」
奇しくも俺と同じ疑問を持ったらしいモブ子の質問。
それに対して、メカクレは静かに答える。
「かつての魔王の力を封じたものとしか。魔王はその宝物珠から圧倒的な魔力を引き出していたようだ」
「…………ふーん?」
モブ子はそこで、また何か考え込むように俯いた。
いつもは適当に設定を受け流すだけのモブ子なのに、ほんと今回は食いつきいいな。
とはいえ、疑問をなげかけ続けるモブ子が黙ったところでメカクレが言う。
「説明はこんなところで良いかな?」
「あ、おう。それで、これからお前達はどうするんだ?」
「一度僕の家で身体を休めてから、魔王を探そうと思う」
「……大丈夫なのか?」
俺は悪いと思いつつ、もう一度『鑑定』を発動させてメカクレのステータスを見た。
──────
【ネイトの勇者】 冴木玄鵜
LV:258
──────
その、一般人の俺と比べたら圧倒的に強いけど、とても魔王と戦えるとは思えないレベルなんだけど。
少なくとも俺の知っている魔王はLV:8000000000000000だぞ。八千兆だぞ。
だが、勇者はにこやかに笑う。
「大丈夫さ。僕達は一度勝っている。こんどこそ、止めをさすだけさ」
「……分かった。大学ではポーランド旅行に行ったって誤魔化してあるからな」
「ありがと四季。それじゃ、またね」
言ってメカクレは、にこりと笑い去って行く。
その後に続いて、やたらと雰囲気が殺伐とした美少女達も、ペコリと頭を下げて去って行った。全員、メカクレよりやや弱いくらいかな。
……もしかしたら、彼らのストーリーは『真性・ネイト』ではなく『ネイト』の続きなのでは?。
いやでも、リコリスさんの語った逸話はまぎれもなく、俺の『真性・ネイト』でのものだった筈。
あの世界そのものが、魔王が消えたことで落ち着いたとか? 魔王の存在そのものが、あの世界の生き物の強度を著しく上げる要因に設定されていた?
そう考えると、魔王以外の生き物の弱さは説明が付く、が魔王は別だ。
そもそも、あいつらが戦っている魔王とは何者なのだ。
重ねて言うが、俺が戦っていた魔王ではないと俺は確信している。
かの魔王が、再びネイトを蹂躙するとは思えない。
「……モブ子、とりあえず今日は帰ろうぜ」
前作主人公の癖に、今作の流れが何も分かっていない俺は、同じく今作とは全く関係ないモブ子に声をかける。
モブ子は、メカクレ達が去ってからもずっと何かを考え込んでいた様子だったが。
「そう、だね。帰ろうか」
「安心しろよ、きっとメカクレ達がなんとかしてくれるって」
「……そうだよね」
モブ子は、なんとか作ったみたいな笑顔で言った。
俺は何度か彼女を励ますように肩を叩き、帰路に着いた。
モブ子を含めた複数の人間達が、ここから謎の失踪をしたのは、それから数日後のことだった。
完結までの残り話数のキリがいいので、
明日は3話更新、明後日にエピローグ含めた4話更新して連休中に完結したいと思います。
久しぶりの投稿ですが思ったより読んでくださっている方がいてホッとしました。
ありがとうございます。
最後までお付き合いいただけると幸いです。
※追記
話数を数え間違えてました。今日から3話更新にします。次話も投稿しました。
次々話は明日のお昼あたりに予約しておきます。