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13 お前それ、本当に命が危ない前作主人公の立場でおんなじこと言えんの?


 俺のイメージとして、あるシリーズ作品の中で前作のキャラが出る場合は大まかに二パターンある。


 一つは、次回作のストーリーが続き物、または世界観が同一であり、次回作そのもののストーリーで重要な役割を果たす場合。

 もう一つは、ストーリーや世界観などそっちのけのファンサービスで出てくる場合だ。


 そして俺は、メカクレ達の『ストーリー』における俺が、どっちなのかを未だに計りかねている。

 前回のレッサー四天王イベントが、俺の介入なしでも終わったパターンは、可能性としていくらでも考えられるからだ。

 それというのも『ストーリー』は、厳密に決められたものではない。

 なぞらなくてはいけない最低限度の条件を達成すれば、あとはいくらでも自由に展開が変わるものなのだ。


 あの時は俺が覗いており、いつでも介入できる状態だったから、あの場では俺に介入させる展開に引っ張られた。

 もし、俺が居なければ、レッサー四天王はもっと早く引き上げていた。

 というのが、俺の予想だ。

 つまり、俺はただの『スポット参戦キャラ』であり『ストーリーで仲間になるキャラ』の扱いをされていない。

 あの場の俺は特定条件を満たしたときだけ現れる『隠しイベント』のキャラみたいなものだったのでは。

 俺のお節介が俺の首を絞めてしまっただけというパターンがあるのだ。


 だがしかし、それで今後もストーリーに関わらないと決まったわけではない。

 というかレベル上限固定の現状では、『真の仲間』じゃないけど、何かの役割を与えるのにあまりに最適すぎる。

 レベル上限固定とか、どう考えても途中退場させる気満々すぎるんだよなぁ。

 それこそ、大佐が言ったみたいに『主人公を庇って死ぬ』みたいなムーブに使える。

 レベル上限なかったら、主人公差し置いて勝っちゃうかもしんないけど、レベル上限つけときゃ普通に負けるだろ、みたいなね。


 だから会議が必要だ。

 会議で【前作主人公】らしいムーブを語り尽くして、俺に与えられている『ストーリー上の役割』を洗い出すのだ。

 さっきも言ったように『ストーリー』は厳密ではない。

 俺に与えられる役割を正しく理解して、死なないまでも役割を果たす、という行動を取れば俺はストーリーから解放されると考えられる。

 その対策を怠り、行き当たりばったりで対応すると、最悪死ぬからな。死にたくない。


 ああ、ついでに、どうして俺がそんなにも『ストーリー』を意識し、その内情を知っているのかについては、止む負えなくなったら説明したい。

 今それを説明するのは、俺にとって危険なのだ。

 俺がそれを思い知った出来事を説明するためには、俺が記録の底に封じた連中を掘り起こす必要があるが、それをすると発狂する恐れがある。

 発狂の果てにモブ子を【ヒロイン】だなどと思い込む危険性もあるので、今はだめだ。



「では、上がって来た意見をまとめていくか」


 言って、俺はKoutaに合図を送る。

 パソコン越しの飲み会とか何の意味があるんだと思われるが、こういった会議を行った際に勝手に書記をしてくれるのは助かる。


『箇条書きにするか。『前作主人公のストーリーにおける役割について』の案。


・ 主人公を庇って死亡。主人公に意志を託す

・ 見せ場シーンで死亡

・ ここは俺に任せて先に行け、で死亡

・ 紆余曲折あって敵対していて主人公に殺される

・ 最初から話が分かるキャラとして主人公に協力する

・ そもそもモブとして主人公に関わらない

・ 既に死亡していて装備品だけが残っている(しかも終盤使えない)

・ 仲間になるけど前作に比べて弱い

・ 敵だと強いのに仲間になると弱い

・ 最初は強キャラだけど終盤かませになる

・ ていうか前作キャラが出しゃばってくる時点でクソ

・ シリーズの狂キャラが隠しボスとして出るならアリ

・ 前作キャラが出て来て主人公を食うと萎える

・ 百害あって十利くらいしかない


 こんなところかな』



 いや自由に発言しろっつったけど、後半とか適当すぎる上に【前作主人公】ボロカスじゃねえか。

 俺が何したってんだよ。俺だって好きで【前作主人公】やってるんじゃねえんだよ。

 あと死亡するルート多過ぎるだろ。

 死亡するか仲間になるしか基本選択肢がないじゃねえか。

 と、俺が真摯に結果を受け止めている横で大佐が笑う。


「でもこれ、一番ウケるのは既に死んでいて装備も使えないってパターンだよな」

『分かる。装備も中盤結構使えるけど、終盤てんで使えないとかね。いやお前前作で同じ敵バッタバッタ薙ぎ倒しとったやん、みたいなパターンあると腹立つよね』

「最強武器託されたりすると、それの性能で世界観崩壊したりするからな」

『議論スレ発狂ですねウケる』


 ウケてんじゃねえよ!

 どうすんだおい、もしかして俺やっちゃいました?


 メカクレに投げ渡した地図に、俺が捨てた聖装備の場所記入しちゃったんですけど!?


 完全に装備託した感じになっちゃってんだけど、それでメカクレに『うわこの装備使えなっ』とか思われたらちょっと傷つくんですけど。捨てた装備だから良いけど。

 それ以前にこの会議でもちょっと傷ついてるしな。

 俺の唯一の希望だった『そもそもモブとして主人公に関わらない』ルートが既に失敗に終わっているのが拍車をかけるね。


「あ、私からも提案」


 と、俺が失意の中でビールを口に含もうと思ったとき、いきなり目の前から声がした。とっさに身構える。


「誰だお前!?」

「桃城ですけど!?」

「なんだモブ子か。全然発言が聞こえ無いから帰ったのかと思ってたけどまだ居たとは」

「前から思ってたんだけど、どうやったら動いてないのに視界から消えるの?」


 モブ子のジト目を俺は受け流した。そんなん俺が聞きてえよ。なんでなの?

 ついでに、動いてないとは言っているが、気付いたらつまみの皿が増えてたりしたから、普通に台所使ってなんか料理してたと思われる。

 使って良いとは言ったけど、普通に人んちの台所で料理するとか、なかなかやるなこいつ。

 まぁ、同じアパートだから台所の使い勝手そう変わらんけど。


「で、どうしたんだモブ子」


 俺は言って、視線でモブ子に続きを促した。


「前作主人公の一番かっこいいムーブと言ったら、やっぱり前作から続く因縁を一人で解決するために奔走してて、時に協力し、時に対立して、主人公達と交錯するパターンじゃない?」


「ほう」

『なるほど』

「なかなかやりますね」


 前から、俺、kouta、大佐である。

 全員が、上から目線で後方腕組み強者ムーブである。

 だが、モブ子の提案は悪くないな。


 何故なら、それであれば前作主人公側の命もある程度保証される。

 例えばRPGをプレイしている時に、主人公とは別のサイドの物語が、陰で進行しているとしよう。

 その陰側の物語の裏主人公が、ストーリーも進まずにいきなり死んだら、おかしいだろ。

 つまり、陰側の物語がある程度進むまで、そして表側がそれに追いつくまでは、俺の命の保証もあるということだ。

 そして偶然にも、俺はメカクレ達と遭遇した際に、それっぽいことを言った気がする。

 つまりメカクレのストーリーでは、俺の役割は『俺には俺のやるべき事がある』みたいな感じで処理されていてもおかしくない。


「よしモブ子。その案を採用しよう」

「採用ってどういうこと?」

「俺は、俺のやるべき事をこれから探して行こうと思うんだ」

「本格的にどういうこと!?」


 とにかく、俺は俺のほうで強引にストーリーを押し進めることにしよう。

 魔王や四天王と戦うのは死の危険がMAXだから、適当な目的を設定してそれを解決するために奔走する方針だ。

 しかもこの方針の良い所は、厳密にはその目的を達成する必要がないことだ。

 適当なところで主人公にバトンタッチする、フェードアウト作戦がありうるのだ。

 というか俺の戦闘力なんて今後メカクレ達に抜かれるのが確定しているので、キリの良い所でさっさとバトンタッチしないと危険が危ない。


「さて、それじゃあ前作主人公の目的はどんな感じが良いだろうか。俺としては過去の因縁とかどうでも良くて、普通の恋愛を追いかけて、女の子と仲良くなるのを目的としている感じがマストなんだけど」

「いや、主人公が世界の危機の為に戦ってる裏で、前作主人公が女のケツ追いかけてたら幻滅通り越して怒りが湧くわ。却下で」


 俺の第一希望は、大佐の心ない一言で却下された。

 お前それ、本当に命が危ない前作主人公の立場でおんなじこと言えんの?

 眼鏡だからって、人の心をないがしろにして良いってわけじゃないんだぞくそが。


『ていうか、前作主人公が前作と全く関わりない因縁追いかけてちゃダメでしょ』


 外側目線仲間のKoutaも大佐に同調している。

 いや、俺だって言い分は分かるよ。うん。

 命をかけて世界を救った勇者が、次代の勇者と別れて行動するっていうなら、そりゃ世界を救うのと同じ規模の何かを追いかけないといけないってことくらい。

 でも、その世界を救うのが全くやりたくない義務的な仕事で、それから解放されたと思ったのにまたそれをやれとか言われたら誰だって逃げたくなりますよ。


「さっきから気になってたんだけど」

「ん、モブ子か? どこからか声だけが聞こえてくるが」

「いやあなたの目の前で喋ってますから」


 いつの間にか目の前に居たモブ子が俺をジト目で睨んでいた。

 が、俺を睨むことの無意味さに気付いたように、言葉を続ける。


「さっきから気になってたんだけど、栗原君が言う『前作主人公』は前作でどういう動きをした人なの? それによって、その人の今作での動きも変わると思うんだけど」

「……それはだな」


 モブ子の質問に、言葉が詰まる。

 どういう人間だったか。俺は異世界ネイトのストーリーにおいて、どういう動きをしていた人間なのか。

 それは、情報量が、多過ぎる。

 軌跡をなぞることすら億劫なほどに。


 臆病だった。輝いていた。傷だらけだった。何度も間違いを繰り返した。涙と笑顔が側にあった。たくさん失った。恥辱に塗れた。何度も壊された。騙され続けた。怒り続けた。汚れ続けた。捨て続けた。それでも拾うことを辞めなかった。疑った。信じた。大切にした。


 それでも、最後に選んだ。

 それを、前作の【主人公】の軌跡とするなら。



「最後の魔王に、止めを刺すことができなかった【主人公】……かな」



 俺の言葉は、どうしてだかしんと静まった室内に響いた。

 全員が酒を飲んで、頭が幸せになっていたはずなのに、俺の言葉をしっかり聞いていた。


「それは……」


 モブ子が、そんな俺に声をかける。

 そして、大佐が拾うように、続けた。


「どう考えても、止めを刺せなかった魔王の行方を追っている、以外の選択肢が無い件について」

『むしろそれをしないで何をしているんだってレベルだし』

「その魔王が今作でもラスボスになっていておかしくないレベル」


 大佐とKoutaとモブ子が、それぞれ意志を統一していた。

 しかし、俺はそれだけはないと分かっているのだ。なぜなら。


「しかし、魔王は時空の狭間に消えたので、今作には何も関わらないのである」

『後出しで重要な設定開示すんのやめろ。そもそもさっきからいったい何の話なんだよ。お前が脳内で作ってるラノベの次回作の設定か?』

「違うわ! 一作目も作ってねえのに次回作の設定考えてたら完全に痛い子だろうが!」

『いや、普通にラブコメ主人公がどうのとか言ってた時点で痛い子だから安心しろ』


 俺の発言に、やや設定厨の気があるKoutaがわりとイライラしていた。

 いや、自動音声ソフトの声だから本当にイライラしてるのかは知らないけどな。




 しかし、ネイトの魔王はもうあの世界に居ないのは確かなのだ。

 そうでなければ、俺がここに帰ってこれているわけがない。

 となると、リコリスさんがやってきたネイトはいったいどういう状態なのか。

 せめてできる範囲で確かめないといけないかもしれない。

 今のストーリーでメカクレ達が倒すべき『敵』はいったい何者なのか。


 それを見極めない限り、俺が本当にストーリーから離れられる日は来ない。かも。



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