12 そりゃラブコメ主人公になれるわけねーわ
「それではこれより、第二回『前作主人公とはいったいどういう存在なのか』会議を始める」
「議長、第一回会議の記憶がありません」
「第一回会議はあるよ。僕達の心の中に」
と、クソどうでもいい発言をしてきた大佐をスルーして会議は始まった。
なお、今回集ってもらったメンバーは、前回の『ラブコメ主人公』会議から、メカクレを抜いてモブ子を入れた形だ。
一応メカクレにも連絡は入れてみたけど、あいつは今日もリコリスさんとの俺探しで忙しいらしい。なお、俺達の助けは求められていない。
俺達の誤解(探し物はアニメキャラ)を解く必要性があることと、もしかしたらまた魔族に襲われるかもしれないということを考慮して遠ざけてくれているのだ。さすが気が使える主人公である。
というわけで、メカクレの代わりにモブ子に出席して貰っている。
……なぜモブ子が居るのかだって? 俺も知りたい。
なんか、飲み会やるためにスーパーで買い出ししてたらたまたま会って、冗談で誘ったら「ちょっとだけなら」と付いてきた。
こいつエンカウント率高いよほんと。やっぱモブだから背景素材として使い回されているのかな。週末の街の背景とか、いつだって同じ人いるわけだし。
だが、いくらモブとはいえ、年頃の女の子だぞ。野郎同士の飲み会に混ざるとは危機感が足りてないのでは?
まあいいかモブ子だし。
「とにかく、今回の議題はシリーズ物の作品において『前作主人公』とは、どういった役割を果たすのか、といった部分を話し合って行きたいと思う」
と、缶ビールを握りながら俺は話しはじめるのだった。
時間を少し遡る。
それは、俺が【主人公】を奪われ【前作主人公】という肩書きを埋め込まれた頃。
その理不尽な変化にキレた俺だったが、その後もシステムの声は続いた。
《不活性化していた称号、スキルが活性化しました》
活性化とはどういうことだと思う。
思うが、実を言えば心当たりはあったのだ。
俺は異世界から帰って来たその直後に、一度だけステータスを開いた。そして、約束通り自分が一般人かつ主人公になっているのを確認した。
称号に【異世界帰還者】なるものがあったのは許容範囲と見逃した。
そして、一カ所だけ故意に目を反らしていた部分があった。
それは、もはや数値表示が省略されて久しい、経験値がそのまま引き継がれていたことだ。
経験値がそのままということは、なかったことになった冒険の経験のみは、俺の魂にしっかりと刻まれたままだったということ。
だから、いくら記憶から記録に変わろうと、俺の身体に備わったいくつかの能力は、異世界ナイズされたままだった。
そして、経験が残っているなら、経験に基づく何かも残っていておかしくない。
つまり、いままでそれらは、ただ埋まっていただけだったのだ。
その埋まっている物が、今回の件で活性化してしまった。
俺は恐る恐る、異世界から帰って以来一度も見ていなかったステータスを開いた。
──────
【前作主人公】栗原四季
LV:40(上限)
EXP:2.09375E+384659
HP:100/100
SP:100/100
STR:94
VIT:72
AGI:90
INT:154
DEX:44
LUC:5
称号:
【前作主人公】
【一般人:大学生(理系)】
【異世界帰還者】
【無冠の軌跡】
【英知簒奪者】
【デミ・アドミニストレータ】
【次元裁断者】
【世界分岐点】
【誘神の灯火】
【ごめん頑張ったけど色々消えなかったテヘペロ(by天使)】
スキル:
『鑑定Ⅰ』
『目利きⅠ』
『合成EX』
『自己学習EX』
『魔力操作EX』
『時空断EX』
『時空転翔断Ⅰ』
『セルフトレースEX』
──────
色々言いたいことはあるけど一番許せないのは何か、分かり切っている。
俺の魂ちゃんに【ごめん頑張ったけど色々消えなかったテヘペロ(by天使)】とかいうふざけた称号を刻んでいきやがったあのクソ天使だ。
これ、表面上だけ取り繕って消えたように見せてただけで、中身はずっとこんな感じだったんだろうな。
そりゃラブコメ主人公になれるわけねーわ。だってラブコメ主人公が持ってちゃいけなさそうな称号のオンパレードだもん。
しかも俺の『鑑定』のレベルが低くて、おどろおどろしい称号の数々の詳細が分かんねえ。
分かんねえけど、どれかの効果で俺のレベル上限が固定されていることは分かった。
せっかくだから、少しだけレベル上限の話をしよう。
そもそも、レベルとは何か。
俺の理解としては『魂の位階』であり『身体能力の目安』だ。
そもそも、この世界には生物として決められた能力の基準がある。
人間なら人間の、動物なら動物の、ミジンコならミジンコの限界がある。
その限界が俗に言う『レベル上限』ってやつだ。
先程レベルのことを『身体能力の目安』と言った。
これは、レベルが同じ生物は身体能力の総合値がだいたい同じであることを指している。
人間で例えるなら、職業が格闘家だろうと一般人だろうとオタクだろうと、レベルが一緒ならば身体能力はほとんど一緒だ。戦闘技能は別だけど、身体能力はそういうことになる。
身体を鍛えている人間は、その分の経験が魂に加算されて身体能力が向上する。
これは、トレーニングによって魂が経験を詰む事で、肉体に影響が及んでいるということなのだ。筋肉の超回復なんかは、それを世界に落とし込むためのシステムだな。
つまり人間は、筋トレをすれば、レベルも上昇しているのだ。
しかし、どれだけ鍛えても人間の肉体には限界がある、それがレベル上限になる。
普通は人間がどれだけ身体を鍛えても、熊の身体能力を凌駕することはない。
一般人はレベル40が上限みたいだし、そこに至るにも相当な苦労がいる。一方熊なら、恐らく生きているだけでレベル100くらいにはあっという間に到達してしまうだろう。
ここで言うレベル100とは人間から見たクマの身体能力であり、クマからみたらそれがレベル20とかになるはずだ。
こと地球においては、それが基本のルールとなる。
だが、異世界においてそのルールが厳密に適用されると、どうあがいても人間など魔族に勝てなくなる。
それでは異世界に人間を引っ張ってきた神様が困るので、異世界には最初からレベル上限を突破する手段が用意されている。
それが『称号』だ。
この『称号』をどれくらい積み重ねているかが『魂の位階』の目安になる。
例えば【一般人】がドラゴン退治の偉業を成して【ドラゴンスレイヤー】となれば、その偉業に沿う形で魂の位階が上がり、肉体の器が作り替えられる。
つまり【ドラゴンスレイヤー】になれば、それに相応しい分だけ『レベル上限』も上昇するということだ。
これは【ドラゴンスレイヤー】に限らず、【狩人】とか【戦士】とか【格闘家】とか、とにかく色々な『称号』に言えるし、それらを積み重ねることでレベル上限はどんどん上昇する。
この『称号』を一段一段積み重ねて高みを目指すことが強くなるために必要だ。
なお、当然だが、いかに『称号』を集めようと、魂の経験がなければレベルは上昇しない。
だから『称号』を得て、それに見合う経験を積む事で初めて、レベルという『魂の位階』と『身体能力の目安』は上昇するのだ。
異世界で筋トレを行うよりも、モンスターを倒した方がレベルは上がりやすいのは、ひとえにその方が【称号】を得やすく、また魂の経験を積みやすいからなのだ。
とまぁ難しく考えればもっと色々と設定されているみたいなのだが、異世界で強くなるには『称号』を集めて経験値を貯めろってことだ。
筋トレをやり続けるのでも最終的にレベルは上がるし強くなるけど、戦闘技能は習得できないし上昇するステータスが脳筋寄りになるから、あまりオススメはしない。
あ、ついでに地球ではモンスターを倒して経験値取得とかできないから、素直にトレーニングするのが一番だぞ。
ストリートファイトで戦闘技能は磨かれるかもしれないが、魂の経験値の蓄積は筋トレとそう変わらんだろうし。
で、俺のステータスを見た所、どう見てもヤバげな称号が並んでいるのに、レベル上限が一般人固定のままだから、何か抑制する称号があると考えられるわけだ。
十中八九あのふざけた称号だろうけどな。
もしくは、地球では称号によるレベル上限突破のシステムそのものが実装されていない可能性もある。
その場合はその場合で、言い訳みたいなふざけた称号を刻んでくれたことに文句しかないわけだが。
とりあえず、もう一度ステータスを確認したことで俺の方針は決まった。
【前作主人公】という称号から、俺が異世界ネイトのストーリーに組み込まれたことはほぼ間違いない。だってそうじゃなきゃ『前作』って付ける理由ないし。
死ぬほど避けたかった状況に陥っているので、ちょっと発狂しそうだけど、一周回って落ち着いている。
ネイトじゃこの程度は日常茶飯事だ。あそこは勇者を苦しめるために存在する世界だからな(俺調べ)。
そして、ストーリーに組み込まれたということは、俺の命の危険が高まっている、というのが今の現状だ。
現時点で敵のレベルが200を越えているのに、俺のレベルはもう上限なのだ。
まだ勇者メカクレや田舎騎士リコリスの倍くらい強いが、そんなもん時間の問題である。
だって俺はこれ以上強くならない。
もし今後、仮にストーリーが進んで異世界ネイトに行くことになったら、俺は速攻足手まとい確定だ。
俺は置いていけ、これから先の戦いに着いて行けそうにない、という自己申告をしておく。
だから、俺の命題は、第二段階へ進んだ。
ここからラブコメ主人公に復帰する道は一旦諦める。
ここからは、どうやって【前作主人公】として怪我なく自然にフェードアウトするかを考えなければいけない。
故に、今回の『前作主人公会議』が開催されたのである。
「あーい、前作主人公っていったら欠かせないのあるでしょ」
時間を会議まで戻すと、ビールを喉に流し込んだ大佐が意気揚々と発言した。
「敵の攻撃から主人公を庇って致命傷を負い、意志を託して死亡するイベント」
「お前には失望したぞ大佐ぁあああああああああ!」
「うぉおおおおおお!? なぜキレるっ!? ほがぁ!」
俺は涙目で詰め寄り、大佐の鼻の穴に指を突っ込む制裁を加えた。
そっちは面白そうに言うけどこっちは死活問題なんだよ。
大佐の発言については、絶対に認めるわけにはいかないのだ。
だって俺も同じようなこと思ったもん。
【主人公】に比べて【前作主人公】って明らかに死の危険度高過ぎるでしょ。