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11 今日は俺の【主人公】の危機だった


 心の中はぐっちゃぐちゃだが、身体的には実に清々しい気分だ。

 実は俺、万が一メカクレ達のイベントに巻き込まれても良いように、変装セットを自前で用意していたのである。


 目出し帽を付けているから顔はまず割れない。そして今日の為に新しく買ったピッチリタイツを装備していて、服装からもバレたりしない。

 まぁ、念の為のその装備を普通の服の下に着込んでいたせいで、今日一日クソ暑かったんだが。身バレ防止のためには致し方ない。

 俺は、まだ、ラブコメ主人公を、諦めてない。


「……さて、今度は俺とやるかい?」


 意識して、めっちゃ低い声で喋る俺。流石に俺もボイスチェンジャーまでは用意してない。

 だから、かっこいい登場(当社比)の割にやたらボソボソ喋っているわけだが、魔族さんは耳が良いらしくしっかり聞こえていた。


「あなた、只者ではありませんね」


 いや只者ですけど。

 【一般人:大学生(理系)】ですけど。

 まぁ【主人公】ではあるけど、こっちとは無関係だし。うん、只者。


「彼らの仲間というわけですか」

「……いや、通りすがりの一般人だ」

「……冗談を」

「ほんとだ。その証拠にお前がそのまま去るなら追いもしない。だが、このまま続けるなら容赦もしない」


 とか自信満々に言っているけど、本音は『逃げてお願い逃げて』なんだよね。

 だって俺一般人だし、さっきは不意打ちで上手く決まったけど、身体能力的にこのままだと厳しい戦いだ。

 流石に魔族さんと情報なしでやり合うのは不味いから、プライバシー無視して『鑑定』も使ったのよ。


 ──────


【四天王】 アウルス・ホップテイル

 LV:210


 ──────


 レベル俺の五倍じゃん。

 しかもレッサー級だと散々馬鹿にしてたけど、相手四天王じゃん。

 いやでも、言うてあのレベルだと俺の常識じゃレッサー級なんだが。というか言って良いのかわからんけど、レッサー級未満なんだが。


 ぶっちゃけレベルひっく!


 もしかして俺のせいで魔族めっちゃ弱体化してる? ネイトの難易度調整入ってる?

 あまりにも『真性・ネイト』が理不尽難易度のクソゲー過ぎて、次回作では初心者も遊びやすくをモットーに開発されてる?


 だって、レベル五倍とか、有情過ぎるだろ。

 あの世界普通にレベル千倍万倍の雑魚がゴロゴロしてたからなマジで。


「……良いでしょう。先程の絶技に免じて、ここは引きます」

「そりゃどうも」


 と、俺が不毛な思考をしていたところでレッサー四天王は退却を決めたらしい。

 だが、その後に不穏なことを言う。


「ですが、覚えておきなさい。あなたは必ず、この私が──」


 このままではいかん、と思った俺は咄嗟に口を挟んだ。


「覚えるとか嫌なんだけど」

「え?」

「普通にもう戦いたくないし、関わる気もないし、なんなら明日には忘れてるけど」

「…………え」


 レッサー四天王、完全に言葉に詰まるの図。

 ちらっと後ろ向いたら、メカクレとリコリスさんも唖然としてやがんの。

 でもでもだって、俺、こっちのストーリー関わる気ないもん。

 今回は止むに止まれぬ事情で見てられなくて飛び出したけど、これ以上はマジで関わりたくないもん。ラブコメ主人公だもん。

 そんな、宿敵認定みたいなのされても、マジ困る。普通に迷惑。


「…………」


 おいレッサー四天王。曖昧な表情で沈黙するなよ。まるで俺が悪いみたいじゃないか。

 というか退却決めたのに捨て台詞なんて残そうとするから、こういう微妙な空気になるんだよ。

 それが魔族のダメなところだぞ。人間はなぁ、そっちが捨て台詞吐いてる間に、背中から刺す算段するような連中ばっかりなんだぞ。

 いちいち捨て台詞吐くんなら相手の反応なんて気にしちゃだめ。吐き捨てるくらいがギリギリセーフだからな。


「じゃ、そういうことで、俺は帰る」

「え、か、帰るのか!?」


 なんで引き止めてんだよレッサー四天王。俺は関わらないって言ってるだろ。

 お前が俺のことをどう評価してんのか知らないけど、敵が消えるならそれで良いだろ。

 だが、俺は反応しない。ここで反応すると帰れなくなるからな。


「ま、待ってくれ!」

「私も、お願いします!」


 と思ってたら、今度はメカクレとリコリスさんも引き止めにかかったよ。

 や、でも、彼らが引き止める理由はレッサー四天王よりは分かる。だって、このタイミングの俺、どう見てもリコリスさんの探し人にしか思えないもん。

 違うって言っても信じてくれそうにない。まぁ、違わないんだけど。

 だから、俺は二人に対してはしっかりと告げる。


「俺は既に一般人だ。もはやなんの力も持っていない。それに俺には俺のやるべき事がある。だが、餞別くらいはくれてやる」


 と、適当なことを言って、俺は二人に引き止められた時用のプランBを発動する。

 さりげない動きで距離を取り、ゴミ箱の裏に隠しておいた『地図』と『丸薬』をメカクレに投げ渡した。


「これは?」

「……地図はいずれ分かる。薬は魔族の呪いに効く物だ」


 地図は異世界ネイトの地理を、俺が分かる範囲で書き出したものだ。つまり時代を気にしなければあの世界の何よりも正確な世界地図だね。地球儀型ならもっと正確なんだけど。

 丸薬は、敵が魔族だと確認した後に、こっそり作製した。

 ……聖水とか入ってないよ。ただ『鑑定』スキルの応用で、ネイトの世界とこっちの世界の道端の雑そ……薬草を照応させて、呪いに効く薬を『合成』しただけだ。

 まだ『鑑定』と『合成』を使った裏技には手を出していないからセーフセーフ。


「じゃ、そういうことで」


 そして俺は、今度こそ捨て台詞もなしにダッシュで去った。

 長々と会話してたらボロが出て、俺の正体がバレる可能性がある。

 謎の一般銀行強盗としては、そんな状況に陥る前に逃走一択だ。

 ついでに魔力で作った剣は消そうと思えばいつでも消せる。この辺が物理剣とは違って良い所だよね。魔力封印されると丸腰になるけど。

 でも、魔力封印される状況なんて、物理でもどうにもならない場合多いからあんま関係ないよ。牢獄とかね。


 いずれにせよ。背中から聞こえてくる「待って!」とか「勇者様!?」とか「なんなのだこれは、どうすればいいのだ」とかを全て無視して、俺は颯爽と立ち去ったのだった。

 明らかに追いかけてくる気配もあったが、俺は逃げ足と気配を消すことにかけては一級品なのだ。称号だけのほぼ一般人やレッサー四天王が追いつけると思うなよ。

 で、俺を見失ったレッサー四天王と勇者達は、なんか意気消沈。微妙な空気のまま解散するところを陰ながら見送って、ミッションコンプリートだ。

 シリアスな雰囲気が明らかに白けていた気がするがそんなの知るか。俺を介入させる展開にしたレッサー四天王が悪い。




 そして家に着いた。無事帰宅できたことに安堵して、隠行を解いた。

 そんな完璧なタイミングで、たまたま玄関から出て来たところのモブ子と遭遇した。


 ──なお、俺の服装は目出し帽と全身タイツであるとする。

 この状況における、一般的な女子の反応を答えよ。


 正解はこうだ。


「馬鹿もほどほどにね」


 モブ子は、どういうわけだか一瞬で俺を栗原四季だと見破った様子だ。

 いやまぁ、家の鍵取り出して開けようとしてるから分かるんだろうけど、もしかしたら合鍵入手した空き巣とかかもしんないじゃん。


「あと、その銀行強盗ルック、似合ってないよ」

「いや似合ってるとか言われるほうが傷つくわ!」

「そうなんだ」


 そのまましらーっとした顔でモブ子は何処かへ去って行った。

 あ、あいつの口止めとかしてねえ。どうしよう。

 まぁ、いっか。モブ子だし。多分言いふらしたりしないだろう。

 これがヒロインだったら、色々と事情を聞かれた上で、この時のことをうっかり誰かに漏らして敵に狙われたりするだろう。

 だが、モブだから安心だ。なんの深堀りもされたりしない。

 なぜなら、彼女は【ヒロイン】ではないから。だから、大丈夫なのだ。



 俺は自分にそう言い聞かせて、家に入った。

 家に入って人心地ついて、さて、なんとか今日のメカクレ関連のイベントを無事に済ませたと安堵した。


 今日は俺の【主人公】の危機だった。

 既にラブコメ主人公にあるまじき『目利き』『鑑定』『合成』『魔力操作』『時空断』などなどのスキルを習得してしまっているけど。

 それでも俺はまだギリギリ一般人だ。だってステータスの第一称号さんもそう言っている。


 とはいえ、ここから普通のラブコメ路線は、確かにちょっと難しいかもしれない。

 一般的な男子の普通なボーイミーツガールをするには、やっぱり俺も歳を取りすぎているし、戦力も重ねすぎている。

 でもあれだ。妖魔とか異能力者とかが出てくる伝奇系エロゲー主人公ならまだ行ける。

 ちょっと生まれつき魔力が操作できて、ちょっと親友から古武術を習ったけど、基本一般人って設定なら、巫女とかそっち系のヒロインに保護される流れもありうる。

 そうだな。俺ももっと寂れた神社とかにヒロインを求めるべきだったんだよ。


 ……でも、命の危険はバリバリありそうなんだよな、伝奇系エロゲー主人公。

 戦闘ありのノベルゲーとか、めちゃくちゃバッドエンド仕込まれてそう。バッドエンド踏む度に謎の道場に飛ばされて説教とかされそう。


 あ、やっぱ無しだな、無し。命の危険はいかん。

 不思議な能力をもっちゃったけど、日常に活かすって方向で展開を練ろう。

 魔力操作で剣とか作れるけど、そういうの忘れて風船しか作れないからバルーンアートしかできない、みたいな微妙能力って設定にしよう。

 よし、方向性決定。俺の【主人公】ロードに一点の曇り無し。

 待ってろよまだ見ぬ【ヒロイン】よ。


 そう脳内で決定し、これからの微妙超能力系ラブコメに思いを馳せようとベッドに寝転がった俺。

 その瞬間であった。




《称号【主人公】は称号【前作主人公】に変化しました》




 どこから聞こえるのかも分からない、くそったれな世界の声が脳髄に響いた。




「ふっざけんなくそがぁあああああああああああああああ」




 ──────




 そして、どこともしれない場所で。



《称号【宿命の果てに辿り着きし運命を背負う者】は称号【■■■■】に変化しました》



ようやくタイトル回収しました

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