02.予言
おはようございます。
よろしくお願いいたします。
「俺はガル。お前はリッケンバッカー。」
男が自分と僕を交互に指さしながら教えている。
産まれて数時間がたち、意識がはっきりしてきた。僕はリッケンバッカーという名前らしい。電車にひかれた僕は死んで、この世界でドラゴンに生まれ変わった。異世界転生なんてラノベかアニメの話だと思っていたが実際に自分が転生してしまうとは信じられない。もしかしたら死んだ人はみんなどこかで転生していて周りが気づいていないだけなのかもしれない。
この男はガル。魔法で暖炉に火をつけ、食器を洗ったり掃除をしたりしている。ここは木造の小屋みたいな家だ。広く感じるが僕が小さいからかもしれない。ガルが大きいのか家が小さいのか分からないが、ガルは天井に頭をぶつけそうになりながら料理をしている。
人間だった時の感覚が残っているのか四足歩行に違和感を覚える。何歩か歩いてこてんと転び、また何歩か歩いてこてんと転ぶ。それを何回も繰り返している。羽があるのだから空を飛べるはずだと思い、一度試してみた。一瞬、体が浮かび、足が地面を離れる。足が空気を蹴る感覚とともに、人間だった僕が死ぬ瞬間の記憶が蘇る。恐怖。それに脳を支配された僕は羽を動かすことができなくなり床に落ちる。
大きな物音に何事かとガルが慌てて駆け寄ってきた。ガルは僕を抱きかかえ、体をさする。
「まだ飛ぶのは早いよ。」
ガルは暖かいミルクを皿に入れ僕の前に差し出した。
僕はミルクに舌をつける。甘くておいしい。
ドン、ドン、ドン。
ガルが扉を開けると黒い三角帽子をかぶり黒いローブを着た、いかにも魔女って感じの女性がたっていた。
「久しぶりだな、ガル。」
「いらっしゃい。クリスティーン。」
クリスティーンは帽子とローブを脱ぎガルに渡す。ガルはそれを魔法で浮遊させる。クスティーンは綺麗な長い黒髪を揺らしながら暖炉に近づき黒いヒールのブーツを脱ぐと椅子に腰かけたクリスティーンはすらっと長い足を暖炉の前にのばし、綺麗な足の指を広げたり閉じたりしている。
「それでガル。予言のドラゴンは?」
「この子だ。」
ガルは僕を抱きかかえ、クリスティーンの足元に置く。
クスティーンは杖を一振りし、水晶玉を目のまえに出現させた。目の前で浮かぶ水晶玉に手をかざし、目を閉じる。水晶玉が発光し始める。
どれくらいの時間がたっただろう。水晶玉の光が徐々に弱くなり消えていった。クリスティーンは目をゆっくりと開け、僕を見つめる。僕とクリスティーンの目が合う。クリスティーンは何を考えているのか分からない。
「終わったのか。」
「ああ。」
「どうだ。“その時”はいつ来る?」
クリスティーンは少し考え込み、そして口を開いた。
「昔、闇の魔法使いと黒いドラゴンが世界を破滅に追い込んだ。だが、人々と心を通わせた優しいドラゴンもいた。ドラゴンたちの戦いに私たち魔法使いは手出しできなかった。戦いで多くの魔法使いとドラゴンは死んだ。一頭の赤いドラゴンが闇の魔法使いと黒いドラゴンを倒したが赤いドラゴンも死んでしまった。その数日後、預言者アミルがある予言をした。『闇の魔法使いと黒いドラゴンは再び現れる。赤いドラゴンの卵がどこかにある。卵を見つけ守り、“その時”に備えろ』と。」
「それでドラゴンに詳しい俺が魔法連に頼まれ卵を見つけて守ってきた。卵が孵ったということは“その時”が近いのか?」
ガルが僕を抱きかかえ、クリスティーンの目の前に持ってくる。僕はクリスティーンの目を見つめる。
「私が見られる未来は、ほんの断片に過ぎない。私が見た未来はこの水晶に入っている。“その時”が来るまでこれは誰にも見せられない。見せれば未来が変わってしまう。」
「………。」
ガルとクリスティーンが見つめ合う。
「お前は何も考えずこのドラゴンを育てればいい。ここは魔法連に守られているから安全だ。」
クリスティーンは靴を履き空中に浮かぶ帽子とローブを着て外に出る。杖を一振りすると遠くからものすごい速さで箒が飛んできた。
ガルは玄関までクリスティーンを見送る。僕もガルに付いていく。
「私を信じろ。」
クリスティーンはガルの耳元でそう言い残し箒にまたがり飛んで行った。
魔法連の最深部にある保管庫でクリスティーンは杖をかざし厳重な扉のロックを解除する。かすかに発光し続ける水晶を金庫に入れ扉を閉める。再び杖をかざし、いくつもの魔法をかけて厳重にロックする。
“その時”が来るまで、これが奪われないように。
読んでいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします。