プロローグ
じゃらり、と、小さな音を立てて皮袋からこぼれた金貨を一瞥して、男はふっと口の端を歪めた。
「これで、私達に協力しろと?」
男の前にはマントを深く被った人物が座っている。表情は見えないが、口元をきつく引き締めているのがわかった。
「君一人で乗り込んできた勇気は評価するが、我々は金では動かないとお父さんから教わらなかったかい?」
からかうようにそう言ってやると、マントの人物は不愉快さを隠さずに声を低くした。
「シャステル王家の弱体化はそちらにも都合がいいはず」
「まあね」
男は認めて肩をすくめた。
「いいだろう。協力するよ。君の一族とは友好的でありたいしね」
男の答えを聞くなり、マントの人物は席を立って背中を向けた。挨拶もなしに去るその姿に、男の背後に立っていた部下が怒りを燃やす気配がした。
「……あんな浅い計画に協力するおつもりですか?」
「なかなかおもしろそうな話だと思ってな。いい機会だから、光に守られているなどと信じる愚かな民に教えてやろうじゃないか。闇の深さを」
「……使い魔を暴れさせても、浄化されて終わりでは? ジューゼ領では、聖女アルムのせいで――」
失敗した任務の悔しさを思い出したのか、部下がぎりりと歯ぎしりした。
男は笑いながらこう言った。
「ならば、光では浄化できない生きた人間の恨みをぶつけてやろう。連中がのんきに光を崇めている陰で過酷な暮らしを強いられている者達の怒りを」




