第34話 ヨハネスとオスカー
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北東の空に大量の水が浮いていると報告を受けた瞬間、ヨハネスは拳を握って「よっしゃあ!」と叫んだ。
「アルムだ! 行くぞ!」
奇跡が起こる場所にはアルムがいる。ヨハネスはそう信じ込んでいた。
一目散に向かおうとするヨハネスを、オスカーが慌てて引き留める。
「お待ちください。闇の魔導師の仕業かもしれません!」
「もしもそうだったら捕まえればいい! 聖女には及ばなくとも、俺も光魔法の使い手だ。闇の魔導師ごときに遅れはとらない!」
普段はキサラ達に歯が立たないヨハネスではあるが、聖女を除けば王国で一、二を争う光魔法の使い手であると自負している。であればこそ、大神殿内でももっとも聖女に近い場所で働くことを許されているのだ。
ヨハネスはオスカーを振りほどこうとしたが、それをガードナーにたしなめられた。
「光魔法の使い手だからこそ、闇の魔導師の恐ろしさをよく知っているはずだろう。マリスを人質に取られていることを忘れるな」
「む……」
筋肉に関わること以外では至極まともなことを言う異母兄に、ヨハネスは顔をしかめたものの言い返すことができなかった。
「……わかった。護衛も連れて慎重に近づこう。もしも闇の魔力の気配を感じたら、その時はマリス嬢救出を最優先に動く」
「では、俺は伯爵が目覚めるのを待って話を聞こう。その後で追いかける。オスカー殿はどうする?」
尋ねられたオスカーは一瞬迷う様子を見せたが、ヨハネスについて行くと答えた。
「魔力を持たない私では、役に立たないでしょうが……」
「そんなことはない。ここはキラノード小神殿の守護下にあるのだから、神官長のお前が責任持ってマリス嬢の無事と闇の魔導師の捕縛を見届けるべきだ」
ヨハネスはうつむくオスカーにそう声をかけた。
金で位を買った無能な神官はすべてクビにしたいと考えていたヨハネスだったが、オスカーは領民を守るために自ら大神殿まで足を運んだ。親が金で位を買ったとしても、神官の自覚を持って務めを果たそうとしている者もいると知り、考えを改めていた。
「行くぞ。キラノード神官長」
オスカーと数人の護衛を連れ、ヨハネスは北東の方角へ馬を走らせた。