第26話 アルムとエルリー
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「ア、ル、ム」
「あー……るぅ」
「アールームー。アルムだよ」
「あるぅ」
ガードナー達が捜しにきてくれるのを待つ間、暇だったのでエルリーに話しかけたのだが、相変わらず自分の名前を名乗った以外では一言も喋ってくれなかった。
それならばと思い、アルムの名前を呼んでほしいとお願いすると、エルリーはあっさりと口を開いた。ただ、「アルム」と発音するのが難しいのか、どうしても「あーる」か「あるぅ」になる。
「ア、ル、ム!」
「あ……あるるぅ」
「うーん。もういいか、それで」
妥協しながら、アルムは湖のほとりに発生した瘴気をベンチに座ったまま浄化した。
先ほどから周囲で何度も瘴気が発生している。どうやら、エルリーの闇の魔力の影響で悪い気が活発になっているようだ。遠くで発生した瘴気もエルリーに引き寄せられてくる。
「護符を新しくしてあげないと駄目だなあ」
服に縫いつけられた護符を見て、アルムは首をひねった。この子があの森の中の小屋で暮らしていたのだとしたら、この封印を施したのはジューゼ伯爵ということになる。ジューゼ伯爵がエルリーの父親なのだろうか。
とすると、あの男は何者だ。伯爵は何故あの男にエルリーを引き渡していたのだろう。
あの男がエルリーの父親ということはないはずだ。だって、エルリーが泣き出した途端、なんの躊躇もなく幼子を放り投げたのだから。
それよりは、ジューゼ伯爵の隠し子だと思った方が頷ける。
「でも、伯爵にもマリスにも全然似てないんだよなー」
マリスも伯爵も茶髪で茶色い瞳だ。金の髪と緑色の瞳を持つエルリーの容姿とは似ているところがない。
ただ単にエルリーが母親似という可能性もあるが、するとやはりエルリーを連れて行こうとしていたあの男はなんなんだ? と同じ疑問に戻る。
「あ……あるるぅ」
考え込んでいるアルムに不安になったのか、エルリーが両手でアルムの服をぎゅっと握った。じっと見上げてくる丸い緑の瞳に、アルムの胸がきゅんと鳴る。
(やっぱりこの子可愛い! 絶対に綺麗な服を着せよう! 護符がなくても闇の魔力を抑えられるようにできればいいんだよね)
やりたいことができて、アルムは足をぱたぱた動かしながら闇の魔力を抑える方法を考えた。
エルリーはだんだんと薄暗くなっていく空を不安げに見上げ、アルムにぴたりとくっついた。




