第44話 光の魔力
結界で風を防ぎ、砂漠の真ん中を突っ切っていったアルム達は、いよいよ渇きの谷と呼ばれる地を眼前に捉えた。
「……見えたぞ」
ハールーンが睨みつけるように前を見て言う。
「あれが、わしらを苦しめる瘴気の栖――渇きの谷じゃ」
遠目からだが、地の底から時折瘴気が噴き上がるのが見えた。
「向きを変えて横に進め。あの大岩があるところまでだ」
「このまま谷に行かないんですか?」
「あの大岩の下には地下に続く入り口がある。ダリフ達はそこにいる」
ハーリーンはきっぱりと断言した。
言うとおりに大岩の前まで行くと、ベンチから飛び降りたハールーンが岩の下に隠すように作られた入り口の蓋をずらした。現れた暗い穴にハールーンは迷わず飛び込む。
アルムは念のため鞄から護符を取り出すと、瘴気を引き寄せる体質のエルリーの胸に貼ってからハールーンの後を追った。
地下の通路は真っ暗だ。アルムは明かりの火球を出そうとしたが、その前にハールーンが手のひらを上にして、そこに小さな火球を生み出した。
「えっ?」
アルムは驚いて目を丸くした。
「光の魔力を持っていたんですか?」
しかも、かなり強い力だ。ヨハネスが常に水晶を懐に忍ばせているように、常人は魔力を貯めて集中するための道具を必要とする。道具を使わずに魔力を扱えるということは、聖女並みの魔力を持っているということになる。そんなのは、あの胡散臭い元侯爵ぐらいしか会ったことがない。
「光の魔力を持つのはシャステルの王侯貴族のみとでも思っていたか?」
ハールーンは振り向かないまま、ふっと鼻で笑った。
アルムはハールーンの背中を見ながら考えた、
光の魔力を持つ者は平民の中にも現れるが、始まりの聖女の血を引く王侯貴族にこそ強い魔力が宿る。家庭教師からも習ったし、大神殿でもそう習った。
胡散臭い元侯爵と違い、ハールーンにはシャステルの王侯貴族の血が流れているとは思えない。
「シャステルの王家はかつて、光の魔力を独占しようとして、他国や他民族の光の魔力の持ち主を殺した」
「え……?」
「だから、光の魔力を持つことを決して知られてはいけないと、代々言い伝えられてきた」
衝撃的な言葉に、アルムは思わず足を止めそうになった。
そんな話は聞いたことがない。家庭教師からも先輩聖女からも教わらなかった。
にわかには信じられないが、それが真実なら砂漠の民がシャステルを嫌うのは当然だ。
でも、信じられない。
「信じられないじゃろう。だが、わしの一族にはそう伝わっておる」
ハールーンは静かな声音でそう言った。




