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第39話 消えたヨハネス




 日の出と共に起き出したアルムに、家主の老婆がにこにこ笑って着替えの服を差し出してくれた。


「わー、いいんですか?」


 刺繍の入った薄桃色の上掛けに、白の貫頭衣とゆったりしたズボン。それから簡素なサンダルを借りて、アルムは上機嫌で着替えた。

 風が強いのでスカートは邪魔だと思っていたのでズボンはうれしい。エルリーも同じような服を着せてもらっている。


 ちょうど着替え終えたところで、血相を変えたハールーンが飛び込んできた。


「ヨハネスはいるか!?」

「ふえ?」


 目を丸くするアルムを見て、ハールーンが舌を打つ。


「ダリフめっ……!」


 従者の名を呼んで歯を食いしばるハールーン。そのただならぬ様子に、エルリーも心配そうに彼を見上げた。


「はーるん、どうしたの?」

「ヨハネス殿下がなにか?」


 尋ねられたハールーンは自分を落ち着かせるように二、三度大きく息を吸い、それからこう告げた。


「ヨハネスがいなくなった」

「え?」

「おそらくは、渇きの谷に連れていかれたのじゃろう」


 朝、ヨハネスの姿が寝床にないことに気づいた夫婦がハールーンに報告に来たらしい。夫婦がなにも聞いていないことと争った形跡がないことから、ヨハネスが自分で出ていった可能性が高い。

 だが、ハールーンはヨハネスがおびき出されて連れ去られたと思っているようだ。そして、その犯人が自身の従者であるとも。


「渇きの谷へ行くぞ! ダリフを止めなければ!」


 そう言われて、アルムは面食らった。ヨハネスが夜中に家を出たらしいという事実だけで、何故それがダリフの仕業で渇きの谷に連れていったとわかるのか。ハールーンも、もともとヨハネスを渇きの谷に呼び寄せようとしていた犯人の仲間なのか。それなら何故、今こんなに慌てているのか。


「詳しい話は後でする。今は一刻を争うのじゃ。ヨハネスを助けたければ、わしについてきてくれ」


 ハールーンはアルムと目を合わせて真剣な声音で懇願した。

 アルムは少し迷った末に小さく頷いた。


(ハールーンのこともダリフのこともなにもわからないけれど……マリスとヨハネス殿下を助けなきゃ。ヨハネス殿下になにかあったら動機のある私が疑われる可能性もあるし)


 怨恨から王子を砂漠に葬ったという疑いをかけられてはたまらない。


「では、わしは出発の準備をする。おぬしはシャステルの兵士達にこのことを伏せて王都へ帰してくれ!」

「ふえ?」


 ハールーンはそう言い残して飛び出していってしまった。

 残されたアルムはぽかん、とした後で頭を抱えた。そうだ。兵士達を王都に帰さねばならない。この場合、ヨハネスの口から兵士達になにがしかのねぎらいの言葉と共に帰還の許可を与えるはず。王子がいるのに、兵士達が挨拶もなく勝手に帰るわけがないのだから。

 つまり、兵士達にヨハネスの不在を誤魔化さなければならない。アルムが。


「え~、難しい……」

「あーるぅ、困ったねー」


 こめかみを押さえるアルムの真似をして、エルリーがこつんと自分のこめかみに拳を当てた。




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