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第38話 捨てられた子供


 月の光の下、立つ人物の姿が露わになる。

 ダリフが不敵に口角を上げ、ミリアムが彼の後ろに隠れた。


「マリスをさらったのは貴様らの仕業か?」


 ヨハネスは距離をとり身構えながら尋ねた。


「こっちとしては聖女アルムをさらったはずだったのに、本人が現れるから仰天したぞ」


 ダリフがそう言って肩をすくめる。

 ヨハネスは彼を睨みつけながら考えた。ダリフはずっとハールーンに同行していた。王都にきてマリスをさらった実行役の仲間がいる。マリスを捕らえているのはその連中だろう。

 ミリアムが協力しているということは、ハールーンも――


「言っておくが、ハールーンはなにも知らない。あいつはこの件になにひとつ関わっていない」


 ヨハネスの思考を読んだようにダリフが言った。


「そんなこと信じると思うか? 妹が関わっているなら、当然兄も仲間だろう」

「違うわ。兄上様はこんなこと許さないもの」


 ミリアムがダリフの後ろから顔を出してヨハネスの疑いを否定した。それから、悲しげに目を伏せて、自嘲のような言葉を漏らした。


「それでも、私にできることはこれぐらいだもの。すべて終わった後にオアシスから追放されたとしても、後悔などしない」

「ミリアム! お前達、なにをしている!?」


 ミリアムの言葉に被さるようにして、少年の声が響いた。視線を動かすと、メフムトが駆け寄ってくるのが見えた。


「ミリアム、これはいったいどういうこと――だっ!」


 かけつけたメフムトは、妹に問いただすふりをしてヨハネスに襲いかかった。短剣の柄で後頭部を殴られそうになったが、間一髪で避ける。


「弟の方はグルかよ……!」


 舌打ちしながら後ずさったヨハネスだったが、メフムトは短剣を抜いて切りかかってくる。それを交わしながら、ヨハネスは頭の中で集落に戻る算段をつけた。


(懐から水晶を出し、光を放って目くらましをする。たいした時間は稼げないが、怯んだ隙に走れば――)


 水晶を出すタイミングを計っていたその時、後ろ足が沈んで体が傾いた。


「!?」


 地面のくぼみに盛られた砂に足を取られたのだと気づくのと、ヨハネスの周囲が瘴気で包まれるのとはほぼ同時だった。

 瘴気に視界が閉ざされる寸前、こちらに手をかざすダリフの姿が目に入った。


(……っ、そうか、それで)


 瘴気に力を奪われて意識を失う直前に、ハールーンから聞いた話が頭をよぎった。ダリフは砂漠に捨てられた子。シャステルを憎んでいる。


 闇の魔力を持った子供は、砂漠に捨てられた時どれだけ絶望しただろう。砂漠の民に拾われオアシスに迎え入れられた時、どれほど救われた気持ちになっただろう。


 想像する間もなく、ヨハネスの意識は闇に閉ざされた。






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