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第36話 砂漠の夜




 砂漠というと暑いというイメージばかり持っていたが、夜になると意外なほどに寒かった。アルムはごおおーっという風の音を聞いて、そのあまりの激しさに少しばかり恐怖を覚えた。


 アルムとエルリーは集落の中の老婆がひとりで住んでいる家に泊めてもらうことになった。ヨハネスは別の家に案内されていた。兵士達も散り散りにどこかの家に世話になるそうだ。


 老婆は無口だがアルムとエルリーを敵視する様子はなくにこにこしている。


 砂漠では日が落ちるとすぐに寝支度を始めるようで、普段よりずっと早い時間に寝床に入ることになった。ただし、彼らは日の出と共に起きるのだろうから、睡眠時間はさほど変わらないのかな、とアルムは思った。


(明日は、渇きの谷へ行く……マリスをさらった犯人は姿を現すだろうか)


 聖女をさらい、渇きの谷に光の魔力を持つ王子をおびき寄せる。

 普通に考えれば、渇きの谷の浄化をさせたいのかなと思い浮かぶ。

 だが、それならまずさらった聖女に浄化をさせて、それでも駄目だったら王子を……という流れにならないだろうか。そもそも、聖女の方が遙かに魔力が強いのだから、聖女に浄化できないものはヨハネスにも無理だ。


(……ヨハネス殿下は……なんのために呼び出されて……)


 まだまだ眠くならないと思っていたが、山越えの疲れでも溜まっていたのか、それとも風の音しか聞こえないせいか、眠気はわりとすぐにやってきた。



 ***



 兵士達の泊まる場所の手配を終えたダリフが家に戻ると、ハールーンが寝ずに待っていた。


「ダリフ。聞きたいことがある」

「なんだ?」


 ダリフは床にあぐらをかくハールーンの前に腰を下ろすことなく立ったままで尋ね返した。ろうそくの炎に照らされて、ハールーンの瞳がゆらりと揺れる。


「誘拐の件、お前はなにか知っていないか?」


 単刀直入な質問に、ダリフはぴくりと眉を動かした。


「……なにを馬鹿なことを。その娘が誘拐されたとかいう日、俺はお前と共に伯爵領を目指して馬上にあったじゃないか」


 ダリフは軽く笑い飛ばしたが、ハールーンは真剣な表情を決して崩さなかった。


「本当に関わりはないな?」

「……俺がシャステルの小娘を誘拐してせしめた身代金を、お前が受け取ってくれるならいくらでも誘拐に手を染めるが」


 少しおどけた調子で言うダリフ。ハールーンはしばしの沈黙の後で「……それならいい」と呟いた。




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