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第33話 聖女の証明




「こいつもあのシャステルの奴らの仲間だぞ!」

「悪者め! とっとと出て行け!」

「悪者じゃないもん!」


 族長の家を後にしたアルムがエルリーの姿を探すと、子供達の前で頬を膨らませて言い返しているのをみつけた。


「シャステルの人間は嘘つきで、うそをつきすぎて舌が裂けてるんだろ?」

「人間のふりをしているけれど、本当は化け物みたいな姿なんだろ! 角が生えてて、体には蛇みたいな鱗があるんだ!」

「違うもん! 角ないもん!」


 アルムは慌ててエルリーに駆け寄ろうとした。砂漠の民がこちらを嫌っているのはわかっているが、幼いエルリーに悪意をぶつけるのは許せない。

 だが、アルムが駆け寄る前にエルリーは力強く言い返した。


「化け物じゃないもん! よーねる殿下はぱわはらやろーで、あーるぅは元ほーむれすだもん!」


 アルムは思わずずっこけそうになった。


(私達のせいで、エルリーが変な言葉ばっかり覚えているんじゃあ……?)


 普段エルリーのそばにいるのは王子と貴族令嬢なので、環境はとてもいいはずなのだが、今のままだともしかしたらあまり上品に育たないかもしれないという予感がアルムの胸をよぎった。

 自分もエルリーの前では言葉遣いに気をつけようとアルムは反省した。


「パワー・ハラーヤ・ローに、モトホー・ムレス……? なんだその強そうな名前の化け物は?」

「きっとシャステルに伝わる不吉な魔物に違いないぜ!」

「いいや、災いを運ぶ精霊かもしれない! そうか、こいつら、俺達に呪いをかけにきたんだな!」


 聞き慣れない言葉に、子供達は戦々恐々とする。


「あー……エルリー、こっちおいで」

「あーるぅ!」


 アルムが手招きすると、エルリーは駆け寄ってきて抱きついてきた。その目は涙で潤んでいる。


「みんな、よーねる殿下とあーるぅのこと、悪い奴だって言うの!」

「うん……そうみたいだね」


 アルムはエルリーの頭を撫でながら苦笑いを浮かべた。


「なんだよ! 悪者じゃないなら、なんでここに来たんだよ!」

「そうだ! なにしにきたか説明してみろよ!」


 子供達がアルムに向かって言い放つ。


「貴様ら……これ以上の無礼は見過ごせんぞ」


 近くにいた兵士が怒りを滲ませて歩み寄ってきた。

 兵士達は少し離れた場所で荷下ろしをしているのだが、エルリーが子供達ともめているのに気づいて様子を見ていたらしい。アルムまで侮辱され始めて我慢が効かなくなったようだ。


「化け物じゃないなら、証明してみろよ!」

「そうだそうだ!」

「そうね。証明してもらいたいわ」


 子供達の声に続けて、冷え冷えした声が響いた。

 アルムが振り向くと、ミリアムが冷たい目でアルムを睨みつけていた。


「聖女は王都から出ないものなんでしょう? こんなところに来るはずがないもの。貴方が聖女だなんて嘘に決まってるわ」


 先ほど、ハールーンがアルムを聖女と紹介したことに納得がいかないらしいミリアムがそう言う。


「証明しなさいよ。あなたが聖女だってことを」




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