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第30話 出迎え




「その娘を救うために、渇きの谷に行きたいということか」


 話を聞いたハールーンは顔色を変えることもなく冷静に受け止めた。


「ハールーン! こんな話を信じるな」


 ハールーンとは違って、ダリフは疑いを隠すことなくこちらを睨みつけてくる。


「聖女でもないたかが貴族の娘ひとりのために、シャステルの王族が動くはずがない! 我々に罪を着せてアーラシッドの民を隷属させようとでも目論んでいるのだろう!」


 ダリフはハールーンの前に立って、穢らわしいものから守るような態度で主を背に庇う。もはや嫌悪感を隠すことすらしない。


「そんな……ヨハネス殿下は確かにパワハラの前科がありますけど、隷属なんて……」

「俺は反省したんだ! もうあんなことはしない! そもそもアルム以外にはしない!」

「いや、私にもしないでください」


 アルムは顔をしかめて溜め息を吐いた。


 ヨハネスは警戒するダリフの背後のハールーンに「とにかく」と声をかけた。


「俺達がここまでついてきた理由を言っておきたかっただけだ。この話は他言しないように頼む」


 ハールーンからの返事はなかったが、伝えるべきことは伝えたと話を打ち切ろうとした時、にわかに辺りが騒がしくなった。


「殿下! オアシスの方から何者かが向かってきます」


 兵士の報告に立ち上がって目を凝らせば、二頭の動物がゆったりと歩いてくるのが目に入った。


「おうまさん?」

「いや、あれはおそらくラクダという生き物だ。俺も見るのは初めてだが」


 エルリーの疑問にヨハネスが答える。見たことのない動物の登場に、アルムも興味津々で目を凝らした。二頭のラクダには小さな人影が乗っている。


「おーい! 兄上様ーっ!」

「ご無事で!」


 顔が判別できる距離まで近づいたところで、ラクダに乗ったふたりがこちらに向けて手を振ってきた。


 年の頃十三、四の少年と少女だ。褐色の肌と赤い髪、ハールーンとよく似た服を身にまとっている。

 外見と発言からして、ハールーンの弟妹だろう。

 アルムは彼らがハールーンの元まで来られるように、張っていた結界を解除した。


「そろそろお帰りになる頃じゃないかと思い、様子を見にきました!」

「さぞ、お疲れになったでしょう」

「お前達……っ」


 弟妹に労われたハールーンはぶるぶると震え出した。


「たったふたりでここまで出迎えに来るだなんて……っ、兄が不甲斐ないばかりに、幼いお前達に心配をかけさせてしまったな! わしがもっと頼りがいのある兄だったが、年端もゆかぬ子供のお前達にこんな苦労などさせなかったのに……許せ!」

「年端は行っています、兄上様! ミリアムは十三です!」

「なんで十年前から僕達に対する認識が変わらないんだろうなあ、この方は……」


 幼子にかけるような言葉と共に涙を流す兄を見て、弟妹はげんなりとした表情を浮かべた。察するに、いつものやりとりなのだろう。



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