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第27話 忠告と牽制




 砂漠の民は捨てられた子供をみつけると、オアシスへ連れ帰り大人になるまで育てるのだそうだ。

 成長した子供は、ほとんどがオアシスを出ていく。捨てられる子供は後を絶たず、養える人数には限りがあるためだ。


「出ていった者の中には、罪を犯して生きている者もいるのじゃろう」


 ハールーンは一度言葉を切って短く息を吐いた。


「しばらく前に王都で騒ぎを起こして捕まったという者達も、元はそうした捨てられた子じゃろう。子供達の多くはシャステルを憎んでおる。もちろん、ダリフも」


 子を砂漠に捨てるなどという残酷な真似をするシャステルの親と、助け育ててくれた砂漠の民と、どちらを愛するかは想像するまでもない。


「そういうわけで、ダリフの態度は気に入らぬだろうが、許せ。そして、仲よくなろうなどと思うな」


 それだけ告げると、ハールーンはエルリーを膝から下ろして立ち上がり、天幕を出ていった。


「うむ~……」


 アルムは思わず唸ってしまった。


「完全に牽制されたな」

「けんせー?」


 ヨハネスも溜め息混じりに呟き、エルリーが首を傾げる。

 ああまで言われては、砂漠に着いても軽々しく「仲よくしましょう~」なんてやれない。渇きの谷まで案内してもらうのも無理そうだ。


 どうしたものか、と思案していると、エルリーがくいくいと袖を引っ張ってきた。


「なに? エルリー」

「はーるんと仲よし、しないの?」


 エルリーはまん丸い目で不思議そうに見上げてくる。アルムは思わず「うっ」と声を詰まらせた。


 エルリーはハールーンを気に入っている様子だし、アルム達にも仲よくなってほしいのかもしれない。

 しかし、こちらが仲よくなりたくて手を差し出しても、あちらがその手を掴むのは難しいだろう。ハールーンは族長の息子として、民の声を聞かなければならない。そして、砂漠の民は自分達を迫害し子供を捨てるシャステルの民を憎み嫌っている。


 ダリフがアルム達に対してエルリーを捨てるのではないかと疑いを抱いたのも、自身が捨てられた子供だったからだ。

 その恨みは深いのだろう。


「エルリーは、ハールーンが好き?」

「うん! はーるん、好きー」


 純粋にハールーンと仲良くしたがっているエルリーの笑顔を見て、アルムはもやもやした気分になった。これまでに砂漠の民を迫害してきた大人達のせいで、純粋に仲良くなりたいというエルリーの願いが叶わないだなんて。


(本当に仲よくなる方法はないのかな……すぐに信頼されるのは難しいにしても、なんとかして……)


 アルムが頭を悩ませるのを見ていたエルリーだったが、だんだん不満そうな顔つきになって頬をふくらませた。


「もー! なんで、仲よししないの!?」


 急に癇癪を起こしたエルリーがばっと身を翻して駆け出していった。


「えっ、エルリー?」


 慌てて追いかけたが、エルリーは砂漠の主従の天幕に飛び込んでしまった。

 そして、ハールーンの背中に隠れてしまい、アルムが呼びかけても出てこない。


「なにをしたんじゃ、幼子に」

「うう~……」


 ハールーンからは呆れた顔で「拗ねているだけじゃろう。機嫌が直ったら帰す」と言われ、アルムはひとりでベンチまで戻った。

 しかし、その日の夜は結局エルリーは天幕から出てこず、翌朝もまだ怒っているのかハールーンの馬に乗せてもらって出発したのだった。




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