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第12話 砂漠の王子




 葉っぱの道を順調に踏み越え、馬車はケイナン伯爵領に入った。窓の外に、王都とは少し違った印象の建物や素朴な人々と家畜の景色が通り過ぎていく。雪が積もっている様子はなく、少し風が強いようだ。


 そろそろ日が落ちようかという頃に、一行はケイナン伯爵の屋敷に到着した。荒れ地の丘の上にある屋敷は物々しい雰囲気の古城で、夕闇の中に浮かび上がる姿を見るとおとぎ話に出てくる呪われた城のようだ。


「ようこそおいでくださいました」


 こちらもおとぎ話に出てくる魔法使いのような白い髭をたくわえた老伯爵が一行を迎えてくれた。


「砂漠の方々もすでに到着しておられます」


 老伯爵に案内されて砂漠の王子が待つ部屋へ向かうと、二十代半ばの男性がこちらに背を向けて立っていた。


(これが砂漠の王子?)


 アルムは思わず男を凝視してしまった。


 男はゆったりとした妙な形の服を着ており、見たことのない図柄の刺繍が施された上掛けを羽織っている。頭にも布を被っているためわかりにくいが、ちらりと見える髪の色は黒だ。わずかに見える顔と手は日に焼けている。


 じーっと見ていると、彼がゆっくりと振り向いた。


「アーラシッドの民がシャステルの民に挨拶申し上げる」


 男は頭を下げずに右手の拳を胸に当てて言った。


「砂漠の族長タリマン殿の孫ハールーン殿ですね。お会いできて光栄です」

「ああ、いや……」


 使者の言葉に、男は目を泳がせた。


「私はハールーンの従者、ダリフと申す。我が主は少々旅の疲れがあって、姿を見せることができず――」

「ほう。困りましたな。双方の見ている前で物資の引き渡し書に署名をいただかなければならないんですが」

「ああ。それはわかっている……しばし、待たれよ」


 ダリフはくるりときびすを返すと、アルム達が入ってきたのとは反対側にある扉の前で立ち止まった。

 よく見るとほんの少しだけ開いている扉の隙間に、ごそごそと話しかける。


「おい。もう観念して出てこいよ。お前が署名しないと終わらないんだよ……ああ、それはわかってるって……だから……覚悟を決めろって! ……うん……うん、それは知っているけどよ……」


 どうやら、ほんの少しだけ開いている扉の隙間にちらりと見える人物と話しているようだ。ダリフは「出てこい」と説得しているが、扉の陰の人物は頑なに出てこない。


「早く帰りたいのは俺も同じだ! とっとと署名しろっつの!」


 痺れを切らしたのか、ダリフが扉の隙間に手を突っ込んで、誰かの腕を引っ張り出した。


「わああ~ダリフ! なにをする裏切り者!」

「うるせえっ!」


 勢いに抵抗できずに扉の陰から引っ張り出されたのは、十七、八歳の青年だった。

 赤銅色の髪と目、ダリフのものと形は同じだが、刺繍の量が違う衣服。日焼けとはまったく違う褐色の肌。


(こっちが本物の砂漠の王子?)


 アルムがまじまじとみつめていると、視線に気づいた青年がしゅばばっと素早い動きで扉の陰に隠れた。


「女子がいるとは聞いておらぬ! 無理じゃ!」

「……はあ?」


 アルムはかくっと首を傾げた。



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― 新着の感想 ―
この世界の王族はポンコツしかいないのか? ヨハネスが少しだけマシに感じてきた(笑)
[一言] また違う意味で使い物にならない王子さまか来た? 女性恐怖症なのか、単に他人の目が怖い対人恐怖症なのか? 根性叩き直したらなつかれてストーカーになりそう(笑)。
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