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第3話 炊き出しと援助物資




 炊き出しのメニューはスープとミルク粥だったのだが、急遽ショウガ湯が加わることになった。


 ショウガの提供者として、アルムも責任を持って手伝うことにした。キサラ達が集まってきた民にスープと粥を振る舞う横で、エルリーと一緒にショウガを配り歩いた。


「ショウガ湯です! どうぞ!」

「どーじょ!」


 アルムが手渡すと、人々は「ははーっ」だの「ありがたやありがたや」などと言って受け取る。


「……ちくしょう。俺のアルムから手渡ししてもらえるだなんて、うらやましい!」

「ほらほら殿下! 手が止まっておりますわよ!」


 アルムの前に並ぶ人々の列をじとっとした目つきで睨むショウガ刻み係ヨハネスを、キサラが叱責した。


 一時間ほど炊き出しを続けると、広場に集まる人の波が大分落ち着いてきた。


「アルムも少し休憩するといいわ」


 交代で休憩を取ることにして、アルムとエルリーはキサラと一緒に少し離れた場所に移動した。


 もこもこの防寒着を着て帽子を被っているとはいえ、ずっと外にいるとやはり冷えてくる。体を温めるためにショウガ湯を飲みながら、アルムは広場を見渡した。


 広場の半分、大神殿寄りの西側部分で炊き出しが行われているのだが、もう半分の東側部分には馬車が何台も停まっている。


「たくさん馬車がありますけど、あれも全部炊き出しの材料ですか?」


 大半がぎっしりと荷を積んだ荷馬車で、どうやら食材を積んでいるようだ。あれを全部炊き出しに使うとなると、一日では終わらないだろう。


「ああ。あれはおそらく援助物資だと思うわ」

「援助物資?」

「砂漠の民へのね」


 砂漠の民とは、王国の東に広がるハガル砂漠に住む少数民族のことだ。

 砂漠の民は追放された罪人の子孫とも言われており、王都の民からの印象はよくない。

 国王代理ワイオネルはその現状を改善したいと考え、食料援助をきっかけに交流を始める道筋をつけようとしているらしい。


「出発は正午と聞いていたけれど、遅れているみたいね」


 キサラが小首を傾げて言った。荷馬車の周囲には待機中らしい兵士達が立っている。


「あーるぅ、あの人達にもしょーがゆ、あげよーよ」


 兵士を指さして、エルリーがアルムのスカートをくいっと引っ張った。

 寒空の中、立ちっぱなしの兵士のことが心配なのか、エルリーは眉をへにゃりと下げてアルムを見上げてくる。

 そこで、アルムはショウガ湯を載せた盆を持ったエルリーを連れて馬車に近づいた。


「あのー」


 兵士に声をかけようとしたその時、一台の馬車の積み荷から瘴気がぶわっと噴き出した。


「なっ……瘴気だと!?」

「何者かが積み荷に呪具を入れたのか!?」

「くっ……積み荷を守らねば!」


 慌てて馬車から離れ瘴気に触れないように距離を取った兵士達だったが、積み荷が瘴気で穢されるのを黙ってみているわけにはいかない。

 なんとか積み荷を降ろそうと再び馬車に駆け寄る。


 王宮前広場は騒然とした雰囲気に包まれた。ほんの一瞬だけ。


「ほいっ」


 気の抜けた掛け声と共にアルムが浄化の光を浴びせると、瘴気はあっさり消え去った。


「これでよし、と。ほら、エルリー」

「うん! えと、しょーがゆ、どーじょ……」


 アルムはエルリーが自分でショウガ湯を渡せるように励ます。エルリーは盆を持ち上げて一生懸命に喋ろうとした。

 だが、その声は湧き上がった歓声にかき消された。


「今日も聖女アルム様が街を救ったぞ!」

「さすが聖女アルム様だ!」

「聖女様万歳!」

『聖女様! 聖女様!』


 いつものごとく盛り上がる群衆に苛立ったアルムは、ぐるりと振り向いて怒鳴った。


「エルリーの声が聞こえないでしょうがーっ!!」


 アルムの怒りに応えるように、広場に積もった雪の下の石畳が割れ、地面から飛び出したショウガが一斉に群衆に襲いかかった。


「いてっ!」

「あたっ!」

「ぎゃっ!」


 ぽこすこぽこすこぶつかってくるショウガに、人々はたまらず退散し、後にはショウガの山が残された。


 炊き出しで消費した分を上回る量のショウガを回収するのに、特大袋×5が必要となったのだった。





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[一言] >「……ちくしょう。俺のアルムから手渡ししてもらえるだなんて、うらやましい!」 貴様の物ではあるまい。そして貴様は海賊ではあるまい
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