第2話 ショウガの行方
作りすぎたショウガをどうするか、考えた末に、アルムはぽんっと手を打った。
「そうだ。大神殿に持っていこう!」
朝早くから礼拝堂で祈りを捧げる聖女にとっても、冷えは大敵だ。ショウガを役立ててもらえるに違いない。
そうと決まれば善は急げ。
アルムは大量のショウガを特大の袋に詰め、防寒着の上からいつもの鞄を提げると、特大袋×3を宙に浮かべて家を出た。
巨大な袋×3が浮いて進んでいくのを目にいた通行人がぎょっと目を見張って立ち止まるが、袋の前を歩く少女の姿を認識すると「なんだ、アルム様か」と呟いて何事もなかったように歩みを再開する。
アルムも雪の積もった道をさくさくと歩いて大神殿へ向かった。
王都は今日も平和だった。
***
「こんにちはー……あれ?」
大神殿の内奥、聖女達が住まう聖殿に足を踏み入れると、キサラ達がなにやら忙しそうにばたばたしていた。
都合の悪い時に来てしまったかな、と声をかけるのをためらっていると、アルムに気づいたエルリーが笑顔で駆け寄ってきた。
「あーるぅ!」
「エルリー、皆さん忙しそうだね。なにかあったの?」
見れば、エルリーももこもこと暖かそうな格好をしている。これから外へ出かけるようだ。
「あのねー。ちかごろとっても寒いから、ちゃみのたねにたちまきするんだって」
「うん?」
エルリーの説明に、アルムは首をひねった。
(茶味の種に立ち撒き? 畑に種を撒くの? 茶味ってなに? 豆かなにか?)
「近頃とっても寒いから、民のために炊き出しをするのよ」
エルリーの言葉を正しく言い直しながら、キサラが近づいてきた。彼女もいつもの法衣の上に防寒着を着込んでいる。
「これから皆で王宮前広場へ行くのよ。アルムもどうかしら?」
「炊き出しですか……あっ! じゃあ、是非これも使ってください!」
アルムの背後から出現した特大袋×3に、キサラが目を丸くした。
「おい。廊下に点々とショウガが落ちていたんだが、いったい……」
拾ったショウガを腕に抱えたヨハネスがひょっこり顔を出した。
特大袋の一つに小さな穴があいており、そこからこぼれたショウガが落ちていたのだが、ヨハネスは「またなにか聖女どもの嫌がらせか?」と考えて嫌そうな表情を浮かべていた。
そんなヨハネスと、振り向いたアルムの目が合った。
「アル……」
「うきゃーっ!!」
不意打ちの天敵登場に、アルムは思わず特大袋×3を逆さにして中身をぶちまけていた。
頭上から降りそそぐ大量のショウガに驚いて尻もちをついたヨハネスの「なんでショウガだ!?」という叫びが響き渡った。




