第48話 一件落着の数日後
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「うーん……むにゃむにゃ……ダークヒーロー……さめ……KAMABOKO……」
「ふはははは!」
「ふにゃ?」
庭のベンチで読書しながら寝落ちしたアルムは、玄関の方から聞こえる暑苦しい笑い声で目を覚ました。
「邪魔するぞ!」
「勝手に入ってくんな!」
「ここにいたかアルム!」
力強い足音と兄の怒鳴り声の後で、大荷物を抱えたがたいのいい男が庭に入ってくる。
筋肉王子ことガードナーはのしのしと近寄ってくると、アルムの向かいの椅子に勝手に腰を下ろした。
「今日はワイオネルに頼まれてきた! 先日の件における働きへの礼の品だ! 受け取れ!」
抱えていた荷物をどかどかとテーブルに下ろされ、アルムは目を丸くしながらベンチから身を起こした。
「なんですかこれ」
「ワイオネルから感謝と愛を込めて贈られた宝石やドレスだ!」
「持って帰ってください」
要らんそんなもの、と迷惑そうに顔をしかめるアルムを見て、ガードナーは胸を反らして大笑いした。
「そう言うと思ってな! ちゃんとアドバイスしておいたぞ! アルムはそんなもの喜ばんとな!」
「じゃあ、これは?」
「王宮御用達の商人に厳選させたおもしろい物語、冒険小説、他国の翻訳小説、鍛えるべき筋肉読本、近隣諸国の文化とグルメの紹介本だ!」
積み上げられた包みは全部書籍らしい。一部興味のない分野も混じっていたが、売ることもできない宝石や着ていく場所のないドレスをもらうより遥かにうれしいプレゼントだ。
このところ、アルムが物語に熱中していたのをガードナーは覚えていてくれたようだ。
一年間一緒に働いていたヨハネスよりも、熱心に求婚してくるワイオネルよりも、無神経そうな脳筋王子の方がアルムのことを理解しているような気がする。
「ガードナー殿下は忙しくないんですか?」
「俺は旧城跡地で瓦礫の撤去を手伝っている! 今日もこの後向かう予定だ!」
なるほど。筋肉を有効に使っているらしい。
先日の出来事の後始末で、現在の王城は猫の手も奪い合いになるほどの忙しさだそうだ。
数日前のあの日、男からウィレムの居場所を聞き出したアルムは、ワイオネルの到着を待たずに兄を助けに向かった。ウィレムは平民街の倉庫に隠されており、キサラから話を聞いたワイオネルが近衛騎士団を率いてダンリーク家を訪れた時には、兄を捕まえていた連中を木の根でぐるぐる巻きにしたアルムが帰ってくるところだった。
「いろいろあったけど、皆無事に済んでよかったです」
ヨハネスの無実も証明されて、彼は大神殿に復帰できたそうだ。それから、あの喇叭については、当面はエルリーが所持していていいことになった。
エルリーが肩から提げている分には喇叭はなんの変哲もないただの喇叭にしか見えず、たまにエルリーが「ぷーぷー」鳴らしてもなにも起こらない。
エルリーから離した場合、また竜が出現する可能性もある。現状、エルリーが持っているのが一番安全なのではないかと判断されたのだ。
(得体の知れない喇叭だけど……エルリーがいい子だから大丈夫だよね!)
エルリーが「世の中を破壊したい」とでも思わない限り、喇叭は脅威にはならないはずだ。
アルムは楽しそうに喇叭を吹くエルリーを思い浮かべて、「ふふっ」と微笑んだ。
終




