第45話 made in アルム
「ところで、ヨハネス。それはどうするつもりだ?」
不意にそう尋ねられて、ヨハネスは首を傾げた。
「はて? それとは……」
「お前が懐に入れているものだ!」
あさっての方を向いてとぼけるヨハネスに、ワイオネルがびしっと指を突きつける。
ヨハネスは懐の塊を服の上からぎゅっと握りしめた。
「どうするもこうするも、これはアルムが俺にくれたものなので……」
「奪われた守護聖石の代わりにと言って作ってくれたんだろう。安置する場所を決めなければ」
「ご心配なく! 大神殿でしっかりと保管します! 大神殿以上に安全な場所はありません!」
ヨハネスは顔をきりっと引き締めて力説した。彼はアルム製の魔石を自分の部屋に飾っておく気満々である。
これさえあれば、どんなに聖女どもに虐げられようとも元気でいられる気がする。
「魔石は、作った者の望みや魔力の質で効果が変わります。これにどんな効果があるかは調べてみないとわかりませんが、見た目は守護聖石とほぼ同じです。アルムの魔力ですから、もしかしたら守護聖石に劣らぬ力がこもっているかもしれません」
「そうか……」
上機嫌なヨハネスに対して、ワイオネルは深刻な表情で考え込んだ。
「アルムはずいぶん簡単に魔石を作ったように見えた。伝説では、始まりの聖女ルシーアも大聖女ミケルも、魔力と命を削って魔石を遺したとされている……もしも、アルムが命がけで魔石を作ったら、それは世界を揺るがすほどの力を持つかもしれないな」
決して大袈裟とは思えない想像を口にしたワイオネルが、恐れるように語尾を震わせた。
それを聞いたヨハネスはきょとんとした。
アルムが命をかけなければならないような事態を、想像することができなかったからだ。
アルムが命をかけなければいけないほど追いつめられるということは、少なくとも世界が滅亡する一歩手前ぐらいにはなっているだろう。
(アルムは命がけで魔石を遺す必要なんてないさ。命なんてかけなくても、十分すぎるほどに奇跡を起こしているんだから)
ヨハネスはまるで自慢するように「ふふん」と胸を張った。
「そういえば、砂漠の民が収穫祭を襲ったのは、偶然か闇の魔導師にそそのかされて利用されたのか、どちらなんでしょう」
「それもこれから詳しく調べるが、どちらにせよ原因は砂漠の暮らしが過酷なせいだろう。特に、今年は雨が少なかったらしい。今後は食いつめて盗賊に身をやつす前に手を差し伸べよう」
反省を口にするワイオネルがそう言った時、部屋の外から声がかけられた。
「失礼いたします、ワイオネル殿下。先程捕まえた男のことですが」
アルムを襲った男のことだ。連行した騎士に「なにかわかったら報告しろ」と命じていたため、急いで伝えに来たのだろう。
「あの男は砂漠の民の一人でした。収穫祭を襲った仲間が捕まったので、仲間を捕まえた聖女アルム様を恨んでの犯行です。また、聖女アルム様を人質に取って仲間の釈放を要求するつもりだったようです」
「逆恨みか」
ヨハネスは苦い表情で漏らした。
「は。逆恨みですが、砂漠の民はとても結束が強く、仲間を決して見捨てないと聞いたことがあります」
過酷な地で暮らす少数民族は、結束を強くしなければ生き残れないのだろう。
「他にも仲間がいるのか聞きましたが、それはまだ吐きません。お二人もお気をつけください」
「砂漠の民には王宮や大神殿を襲うほどの力はないだろう。街で騒ぎを起こされないように、しばらくは王都の見回りを強化するか……」
ワイオネルが溜め息交じりに言うのを聞いて、ヨハネスもこっそり溜め息を吐いた。
(早く大神殿に帰りたい……できればアルムの顔を見たいが、もう家に帰ってしまっただろうな)




