第44話 後始末
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ヨハネスの無実を証明するに当たって、真犯人である闇の魔導師とロザリンド・ガブリエルのことを報告書にまとめなければならない。
だがしかし、連中の狙いがなんだったのかをそのまま書くわけにはいかない。
守護聖石が狙われていた上に、まんまと奪われてしまったなどと記録に残すわけにはいかないのだ。少なくとも、表の記録には。
幸い、ワイオネルが暗殺されかけたことも、ヨハネスがその犯人として逮捕されたことも、民には伝えられていない。
「ロザリンド・ガブリエルは、父を監獄塔から救い出すために闇の魔導師を雇い、王家に復讐するために俺に刺客を送り、その罪をヨハネスになすりつけた……この内容でそれらしく作るしかないな」
ソファに腰掛けたワイオネルが物憂げに嘆息した。
執務室ではなくワイオネルの私室にて、兄弟二人で事前に口裏を合わせるための話し合いをしている。
すぐに宰相や他の官吏どもが怒鳴り込んでくるだろう。あまり時間はない。
「クレンドールには辺境でガブリエル家を監視していた者を調べさせるか……」
ワイオネルは眉間にしわを刻み込んで呟いた。
そもそも、二年前にガブリエル家の不正を糾弾したのはクレンドールだ。罪状は、隣国へ資金を送ったり情報を流していた国家反逆罪。
セオドア以外の一族の者は辺境の流刑地へ追放。当主セオドアは監獄塔送りで処刑を待つ身の上。
ガブリエル家が没落した時、ワイオネルはまだ国王代理ではなかったため、詳しい報告は聞けなかった。しかし、セオドアが隣国と繋がっていたことは確かで、証拠となる書類もあった。
「……光の魔力を持つ貴族が、何故シャステル王国を裏切るんだ?」
セオドアの動機がいくら考えてもわからず、ワイオネルは眉間のしわを深くした。
「闇の魔導師が協力していたのも不思議ですね……」
ヨハネスもシンの姿を思い浮かべて言った。
闇の魔導師にとっては、光の魔力を持つシャステルの王侯貴族は憎むべき相手のはずだ。
「そもそも、なんのために守護聖石を狙ったのか、残る四つの守護聖石をも狙っているのか、突き止めて阻止しなくては」
そう言うと、ワイオネルは先程のものよりも重たい溜め息を吐いた。
「まったく、戴冠式の準備もあるというのに、時間が足りないな」
「まったくです」
ヨハネスも深々と頷いた。




