第43話 喇叭とエルリーと破壊衝動
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「地下室の隠し部屋でみつけた喇叭……ね」
大神殿に戻るキサラとエルリーについてきたアルムは、エルリーがみつけた喇叭について聖女達に相談した。
地下が崩壊したのは偶然かと思ったが、アルムを狙って振り下ろされた刃が粉微塵になった時もエルリーは喇叭を鳴らしていた。
「でも、喇叭を鳴らしてもなにも壊れない場合もあるんでしょう?」
「やはり偶然じゃないかしら」
お茶とお菓子をもらってゆったりソファに座っているエルリーを見て、メルセデスとミーガンも首をひねる。
「でも、ただの喇叭とは思えないんです……」
アルムはへにゃりと眉を下げた。エルリーが自らみつけ出し、己のものだと主張する姿を見ているため、あの喇叭がただのがらくたであるとは信じられない。
「まさか伝説の品がそう簡単にみつかるとも思えないけれど……エルリー、ちょっといいかしら」
アルムの訴えを聞いたキサラが、半信半疑な様子でエルリーの前に屈み込んだ。
「あのね、剣が粉々になった時のこと覚えている?」
「うん!」
エルリーは口いっぱいに頬ばったクッキーを飲み込んでから元気に返事をした。
「あの時、エルリーはどうして喇叭を吹いたの?」
「んっとね、あーるぅに当たったらイタイイタイだから『めーっ』って思ったの」
エルリーが答える。
「アルムが痛い思いをしないように『そんなことしちゃ駄目』って気持ちで喇叭を吹いたのね?」
キサラの確認に、エルリーがこくこく頷いた。
「じゃあ、地下が壊れた時のことは覚えている? 壊れる前に喇叭を吹いたことは?」
「んー……あーるぅのとこ行くのに、壁があって行けなかったの。だから、やだったの」
エルリーの話を聞いたキサラは「なるほど」と呟いて立ち上がった。
「おそらくだけれど、エルリーが無意識にでも『なにかを壊したい』と思って吹いた時にだけ、破壊の力が働くのではないかしら」
キサラの意見はこうだ。アルムの元へ行きたくて壁が邪魔だった時、アルムを狙った剣の刃を拒絶した時、いずれもエルリーの感情が高ぶった状態で喇叭を吹いている。
楽しそうに吹いている時にはなにも起きなかったのだから、エルリーが危機を感じたり苛立った状態で喇叭を吹いた場合にのみ、その感情に応じて破壊が行われるのではないだろうか。
「そんな……」
キサラの推測を聞いたアルムはごくりと息をのんだ。
「ということは、もしもエルリーが成長して反抗期を迎えて、青春の衝動に任せて『くだらねえ世の中なんざぶっ壊してやるぜ!』と言って夜の街に繰り出しては喇叭を吹き鳴らすようになったら大変じゃないですか!」
「そんな風になるような育て方はしないつもりだけど……まあ、そうね。危険ではあるわね」
アルムの言う未来予想図を思い浮かべたわけではないだろうが、キサラも眉を曇らせた。
「じゃあ、取り上げましょうか?」
メルセデスが提案するが、アルムはそれは気が進まなかった。エルリーが気に入っている様子なのもあるが、地下通路で正確な場所をみつけ出したのを見る限り、下手な場所に隠してもすぐにみつかるとしか思えない。
それに、まるでエルリーが訪れるのをずっと待っていたかのような喇叭をエルリーから遠ざけたら、なにかよくないことが起こりそうな気がする。喇叭がエルリーを求めて自らの元へおびき寄せようとするのではないか。地下通路の時と同様に。
「でも、どこかに隠すのも……それこそ闇の魔導師に盗まれでもしたら……」
ミーガンが不安そうに言う。キサラ達も同意して溜め息を吐いた。
「これは私達では判断できないわ。ヨハネス殿下が戻ってきたら説明して、ワイオネル殿下と話し合って決めてもらいましょう」
「そうですね」
とりあえず結論はいったん保留にして、アルムはいそいそと帰り支度を始めた。
いろいろあったせいで帰るのが遅くなってしまった。兄が心配しているかもしれない。
(塔を上ったり地下を歩き回ったりして、さすがにへとへとだし、帰ったらベンチに寝っ転がろう)
アルムは疲労の溜まった体を伸ばして「んーっ」と唸った。




