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【書籍化】廃公園のホームレス聖女  作者: 荒瀬ヤヒロ
第三部 囚われの王子と聖女の大冒険
136/198

第39話 聖女アルムの贈り物




 ***





 旧城跡地の門の前に集まった群衆は、はっきりとした説明もせずに自分達を押しとどめる騎士にいきり立っていた。


「なにがあったか教えろ!」

「危険なんじゃないのか!?」

「俺達に隠すつもりだな!」


 不信と不満が最高潮に達して群衆の怒りが爆発する寸前、人々の頭上に巨大な透明の箱のようなものが出現した。

 突如、空中に現れたそれの表面には、国王代理である王子ワイオネルの姿が映っていた。彼はどこかの森にでもいるのか、背景にはたくさんの木々が見える。


 息をのんで見上げる人々の前で、映像の中のワイオネルが口を開いた。


『皆の者! 騒がせてすまない! 聖シャステル王国第五王子、国王代理ワイオネルだ!』


 王都中にワイオネルの朗々たる声が響いた。


『現在、私は旧城の跡地に立っている! ここには長らく監獄として使われていた塔のみが遺され、王都の中に広い敷地を有しているにもかかわらず活用されてこなかった。そこで、滅多に使われることのない塔を取り壊し、この場所を有効活用すると決めた! 轟音と土煙を伴う塔の崩壊に驚いた者は多かろう! 安心してほしい! 塔は無事に取り壊し完了した!』


 人々はざわざわとざわめきながらワイオネルの話を聞いていた。塔が崩れたのはどうやら国王代理の指示のもとだったらしいと判明して、民の間に蔓延していた不安が少しだけ和らいだ。


「さっきの土煙はそれでか」

「いや、しかし急な話だな」

「ちょっと待てよ。塔の取り壊しはわかったが、サメはいったいなんだったんだ?」


 国王代理のお言葉とはいえ、にわかには信じられずうろたえる群衆に、ワイオネルがさらに告げる。


『そして、皆が目撃したサメについてだが……あれは「イリュージョン」だ!』


「い、イリュージョン?」


 ワイオネルの姿を見上げる人々はぽかんと口を開けた。


『知っての通り、私は先日成人の儀を終えた。無事に成人を迎えられた感謝のしるしに、聖女アルムの協力を得て、ちょっとした余興を計画した! 楽しんでもらいたい!』


 ワイオネルの口から出た「聖女アルム」の名前に、人々は先程まで感じていた恐怖から解放され緊張を解いた。


「なーんだ。聖女アルム様のお力か」

「アルム様の魔力で幻影を見せてもらったのか」

「確かに、アルム様ならそれぐらいできそうだな」


 なんで聖女の見せる幻影がサメだったのかは謎だが、収穫祭でも巨大な木の根を自由自在に操って悪者を捕まえていた聖女アルムだ。幻影を見せるぐらい朝飯前だろうと王都の民は思った。


『では最後に、聖女アルムから王都の民へ贈り物だ! 皆、受け取るがいい!』


 その言葉の直後、ワイオネルの背後の木々にみるみるうちに赤い実がなり出した。まるまるとした実は次々に木から離れて宙に浮き上がると、空を見上げる人々の元へ一斉に降り注いだ。


「あっ、リンゴだ!」

「リンゴが飛んできた!」

「きゃー、こっちにも来る!」

「そっち行ったぞ! キャッチしろ!」


 聖女印の空飛ぶリンゴを捕まえるのに熱中し出した人々からは、恐怖と不安が完全に消え去っていた。





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