第34話 崩壊を告げる音
「闇の魔力を持ちながら闇から生まれた悪を討つダークヒーローを演じてもらうに当たって、細かい設定を打ち合わせしたいんですが」
「ふむふむ。私は演技力には自信があるよ。牢番の演技も完璧だっただろう?」
「ええ! 闇に怯える演技も、全部自作自演だったんですね」
「ふふん。私の部下の演技もなかなかだよ。暗殺者役を見事にこなしてくれたからね。実に有能な男だよ」
「暗殺って……もしかしてワイオネル殿下を狙ったのって」
アルムとシンの会話が続くと、だんだんとレイクのこめかみに青筋が立ってきた。
「ええい! もう帰りますよ! 頼まれた仕事はやったんだ。長居は無用です」
「ええ~? 残念だけど仕方がないな」
レイクに胸ぐらを掴まれて口を尖らせたシンは、アルム達に向かってぱちりと片目をつぶってみせた。
「それじゃあ、後はお手並み拝見」
そう言うと、シンとレイクの姿がぱっと消えた。
「ああ~! サメの人が逃げた!」
「残念だったね。きっといつかまた会えるよ」
主役に逃げられて嘆くアルムの肩に手を置いて、セオドアが慰めてくる。
アルムはがっかりしたものの、気を取り直してエルリー捜しを再開することにした。
***
サメの人に逃げられた後、エルリー探しを再開したアルムだったが、延々と続く石の壁に嫌気がさしてきて思わずぼやいた。
「はあ……何か吹っ飛ばしていいものいないかなあ。綺麗さっぱり消し去ってスッキリしたい」
「危険人物みたいな台詞だね」
セオドアの胡散臭い笑顔もずっと変わらなくてうんざりしてきた。
「エルリー、どこにいるのー?」
「……あーるぅ?」
かすかに、エルリーの声が聞こえた。
慌てて辺りを見回すが、小さな姿はみつからない。
「エルリー?」
「あーるぅ!」
声を頼りに捜すと、ひび割れた壁の隙間から声が聞こえていることに気づいた。その隙間を覗くと、分厚い壁の向こうにちらりと小さな影が動いているのが見えた。
「エルリー、ちょっと待っててね。今、そっちに行くから」
そう言ってみたものの、ここからどういう道順をたどればエルリーの元に行けるのか見当もつかない。手っ取り早いのは壁を壊すことだが、崩壊の危険性がある上に、壁を吹き飛ばせば向こう側にいるエルリーが危ない。
(どうしよう……)
アルムは壁を睨んで眉根を寄せた。
***
「あーるぅ……むー!」
大好きなアルムの元へ行きたいのに、こちらへ来てほしいのに、分厚い壁が邪魔で手も伸ばせないことがエルリーはたいそう不満だった。
胸に溜まった不満な気持ちが重苦しく、どうにかして吐き出したくてたまらなくなる。
エルリーは無意識に握っていた喇叭の持ち手を引き寄せた。そして、大きく息を吸うと思いっきり喇叭に息を吹き込んだ。
ぷあーんっ!
と、軽い破裂音が響いた。
次の瞬間、ずん、と下から突き上げるような振動が通路を揺らした。それと同時に、壁にも床にもビキビキと亀裂が走る。
ばきぃっ、びしっ、とひび割れる音が立て続けに響いて、通路の崩壊が始まった。




