第32話 勝ち残れ。話はそれからだ。
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「エルリー、どこー?」
呼びかけながら、通路の脇で蠢いていたものに光を当てて消す。
「どこに行っちゃったんだろう?」
辺りを見回しながら、こちらへ向かってくるなにかを消す。
「困ったなあ」
溜め息を吐きながら、天井から垂れ下がってきた物体を消す。
「ひとりぼっちで泣いていないといいけど……」
「せめてちゃんと姿を視認してから消してあげようよ。彼らだってこちらをびっくりさせようとして頑張っているんだから」
エルリーの心配をしながら周囲の怪しい気配を一瞥もせずに浄化していくアルムに、セオドアが苦言を呈した。
「でも、今はエルリーを捜さないといけないので、そんなのにかまってられません!」
「せっかく皆から恐れられる邪霊にまで進化したというのに、なんて気の毒なんだ。私は今日、聖女の非道さを目の当たりにしてしまったよ」
邪霊達のこれまでの努力を一瞬で無にするアルムのやり方に、セオドアはふるふると首を振った。
「君は大衆受けするキャラを求めているようだけれどね。最初から人気になるキャラもいいけど、取るに足らない存在だった脇役が長い物語の中で成長して、最終回付近で主人公をもしのぐとんでもない人気キャラに変貌することだってあるんだよ?」
「でも、このくらいの浄化の光で消えているようじゃあ、伸びしろに期待できません!」
「聖女による浄化オーディションに勝ち残れる逸材以外には用はないということか……」
セオドアの嘆きを余所に、その後も容赦のない浄化オーディションで不合格を叩きつけていくアルムだったが、通路の奥から聞こえてきた音に気づいて足を止めた。
「……雨音?」
ざああ、という音は、雨の日に家の中で聞く雨音に似ている。辺りに漂わせている火球で通路の奥を照らしてみると、その先には雨が降っていた。
「おや。地下通路で雨とは、珍しいねえ」
セオドアがのほほんと言うが、もちろんただの雨であるわけがない。
「雨に触れないようにしてください。これは瘴気です」
アルムがそう言うと同時に、雨の中に少女の姿が浮かび上がった。
アルムは無言で浄化の光を放った。だが、少女はそれを水の壁を生み出して防いだ。
「おお。やっと逸材が」
「そうですね。水を操るというわかりやすい能力を持っているのも、初期の敵としては理想的です」
「おめでとう! 聖女オーディション合格だよ!」
「雨と共に現れる『雨女』……主人公のシャークが『雨女』に襲われることで自分の持つ力に初めて気づく第一話……もう駄目かと思った時に能力が覚醒してサメを召喚、『雨女』を倒した彼は己の力を人助けのために使おうと決意する……」
『ちょっと! 誰が雨女よ!』
第一話のあらすじを考えるアルムに、雨の中の少女が激昂して攻撃してきた。矢のように飛んできた水が届かないよう、アルムは結界を張る。
「よし。あとはサメの魔導師をみつければ『第一話 サメヒーロー覚醒』の役者が揃いますね」
「そんなにサメを気に入ってくれたとは、光栄だな」
不意に、闇の中からセオドアとは違う男の声がした。




