第24話 伝説の守護聖石
「あーるぅ、あっち……ここ!」
分かれ道にさしかかるたびに「あっち、あっち」と指示してきたエルリーが、通路の途中で「ここだ」と主張した。
「え? ここって……」
アルムは戸惑って周囲を見回した。
石で造られた天井と壁があるばかりで、他になにもない通路の真ん中だ。
「エルリー、なにもないよ?」
「んーん。ここ!」
エルリーが横の壁を指さす。もちろん、なんの変哲もない石の壁だ。
この壁になにか気になる部分があるのかと、アルムは近寄って壁を凝視した。
特に変わったところがあるようには見えず、手を伸ばして壁を触ってみた。
「なにもな……」
壁を押して確かめていた手が、ある箇所に触れた途端にずっ、と沈み込んだ。
「えあ……うきゃあっ!」
壁の一部が回転扉になっていて、押した勢いのままアルムは壁の向こうに倒れ込んだ。
「いてて……」
「わあ、すごいね。こんな隠し扉があったなんて」
セオドアがエルリーを抱っこして扉をくぐってきた。
アルムは手のひらサイズの火球を出して辺りを照らした。
そこは広い隠し部屋だった。古い書物やがらくたのような物が積み上がっているのが確認できる。物置部屋だろうか。
「お嬢さんはどうしてこの場所を知っていたんだい?」
「んーん。知らないの」
エルリーがふるふる首を振る。
知るわけがない。エルリーはついこのあいだまで、生まれた地で監禁されていて外の世界を知らなかったのだから。
それなのに、エルリーがこの場所を探し当てたということは、この中になにか気になるものが――エルリーの強い魔力に干渉するものがあるのかもしれない。
(ヨハネス殿下の安否も気になるけど、エルリーがなにに反応したのかも気になる)
アルムは積み上がったがらくたを見上げた。
一見すると特別に価値がありそうな――金銀財宝のような――物は見当たらない。わざわざこんな隠された場所に仕舞わなくともよさそうな物ばかりだ。
「せっかくみつけた隠し部屋だけど、ここには守護聖石はなさそうだね」
「守護聖石?」
アルムが問い返すと、セオドアはエルリーを床に下ろしながら説明した。
「特別な魔石――始まりの聖女が遺したと言われる五つの魔石のことさ。王国のどこかに隠されていて、王族と大神官だけがその場所を知るという、王国の伝説だよ」
「へー」
そういえば、聖女になったばかりの頃にそんな話を聞いたような気もする。
「ただのおとぎ話と信じていない者も多いけど、私は守護聖石は本当にあると信じているんだ。いくつになっても夢と希望を忘れてはいけないよね」
セオドアがきらきらした笑顔を向けてきたが、この男の口から「夢」とか「希望」という単語が出ると胡散臭さが倍増する気がした。




