第23話 ふたりは海鮮☆
「あーるぅ、あっち。あっち行きたい」
アルムに抱っこされているエルリーが身をよじって通路の奥を指さした。
「あっち? どうして」
「わかんない!」
理由は説明できないがどうしてもそちらが気になるようで、エルリーは手足をぱたぱた動かして訴える。
「どの方向が出口なのかわからないし、とにかく進んでみようか聖女様」
セオドアもそう主張するので、アルムは彼の服も乾かしてやってからエルリーが指す方向へ進んでみることにした。
「あーるぅ、あっちー」
通路を進んでいくと道が二股に分かれていたが、エルリーは迷うことなく行きたい方向を示す。エルリーにとっても初めての場所だというのに何故だろうと首を傾げつつ、アルムは進んだ先で無事にヨハネスと再会できることを祈った。
「キサラ様のことも心配だけれど、ヨハネス殿下には絶対に無事でいてもらわないと……」
「ヨハネス殿下が無事じゃなかったら、どうして君が疑われるんだい?」
隣を歩くセオドアが不思議そうに尋ねてくる。
「動機が! あるんです!」
「聖女に神官でもある第七王子を害する動機が?」
力強い口調で動機があることを認めたアルムは、自分と共にいるのがセオドアであることに「くっ」と唇を噛んだ。
「アリバイを証明しようにも、証言するのが胡散臭い元侯爵では信ぴょう性に疑問が持たれてアリバイが成立しなくなります!」
「ふふふ。心外だね」
法廷で闘うことを半ば覚悟しながらも、アルムはどうも釈然としない想いを抱えていた。
(ヨハネス殿下一人を狙っているにしては、大掛かりすぎる気が……)
ヨハネスの命を狙っているだけなら、アルム達をサメのいる水中に落としたり地下に移動させたりする必要はないだろう。
(そもそも、あれはどういう仕組みだったんだろう?)
あんなことができる闇の魔導師がいるのなら、是非ともお近づきになってダークヒーローにスカウトしたい。
サメを召喚して戦うシャークヒーロー。人気になればサメグッズが飛ぶように売れるだろう。
タコを召喚できるヒーローオクトパスとコンビを組ませて「ふたりは海鮮」をキャッチコピーにするとか、アイディアが思い浮かぶ。KAMABOKOとTAKOYAKIも流行って経済効果が生まれるかもしれない。
利益が期待できればスポンサーもつく。人気ヒーローになれば小説化・舞台化も夢じゃない。
「目指せ! 満員御礼!」
「ん?」
脳内で海鮮ヒーローのプロデュースを繰り広げるアルムは、ついさっきサメに怯えたことをすっかり忘れ去っていた。




