第22話 トニカクアヤシイ
「……る……」
「ん……」
「……るぅ……あ……る……」
「んぅ~?」
「あーるぅっ!」
「ぐふっ!」
突然お腹に加えられた衝撃に覚醒させられ、アルムは激しく咳き込みながら転がった。
「あーるぅ、おっきした?」
アルムのお腹にしがみついたエルリーが、小さな手を伸ばして頬をぺちぺち叩いてくる。さっきの衝撃はエルリーがお腹にダイブしたせいらしい。
それはいいのだが、暗くてエルリーの姿がよく見えない。
塔には明かり取りの窓があるはずだし、そもそも気を失う寸前に天井をぶち抜いて水とサメを外に出した記憶がある。
アルムはお腹を押さえながら上半身を起こして、火球をいくつか生み出して辺りに漂わせた。ついでに、自分とエルリーのずぶ濡れの服を乾かす。
そこは石の壁が延々と続く狭い通路で、自分が床に寝ていたことを知ってアルムは首を傾げた。
「ここは……」
「やあ、聖女様。目を覚ましたね」
のほほんとした声と足音がして、セオドアが通路の奥から壁伝いに歩いてきた。
真っ暗な通路の中を歩けたのか、と不思議に思っていると、
「ふふふ。牢暮らしで暗闇には慣れているからね。少しぐらいなら動けるさ」と怪しく微笑まれた。
「他の人達は?」
「どうやら、この近くにはいないみたいだね」
「ええっ!」
アルムは顔を青くした。
「そんなっ。ヨハネス殿下もいないんですか!?」
「ああ。心配だよね。彼は聡明な王子だし、優秀な神官だ。失うことは王国にとって痛手――」
「ヨハネス殿下になにかあったら私が疑われちゃう! 無事なうちにみつけないと!」
ヨハネスの身を案じるというより、自身に疑いが向くことを恐れるアルムはセオドアに詰め寄った。
「ここはどこなんです? なんで私達とあなただけがここに?」
「ここはおそらく旧城の地下だよ」
セオドアは水にのまれた後、サメに襟首をくわえられて下へ下へと連れて行かれたのだと語った。そのまま意識を失い、この場所で目を覚ましたと。
「じゃあ、どうしてここが旧城の地下だってわかるんですか?」
「旧城の跡地には広大な地下通路がある、って有名な噂なんだよ。城はなくなったけれど、残された塔の中にも地下へ通じる入り口があるんだって。もっとも、我々がどうやってその入り口を通って運ばれたのかはわからないけれど」
暗闇と場所のせいで、ふふふ、と笑う元侯爵が余計に怪しく見える。気を失っていたというのは本当だろうかとアルムは疑いを抱いた。




