純白純情いずれ漆黒
夢を見た。
どこまでも白く広い世界で、裸で横たわっていた。気付くと、私の手足が黒く染っていた。突然世界に、黒い人影が現れた。世界が闇に染っていいく。必死に逃げようとした。
カーテンの隙間から差し込む朝日。
鳥の鳴き声。
苦い匂い。
少し汗ばんだ肌。
シーツとバスタオルがもつれ合うシングルベッド。
その上に伸びる白く細長い脚。
「おはよう。」
白いバスタオルを腰に巻いて、白いマグカップを持って佇む君。白い湯気がモクモクと立ち上る。きっと中身はブラックコーヒー。
「よく眠れた?」そう言いながら、ベッドの端に座る君。
「あっつ!」コーヒーが零れた。白いバスタオルがみるみる黒く染っていく。
「あのさ、もうソフレなんて辞めようよ。結局はこうなったしさ。もう、良いでしょ?1回やっちゃったんだからさ。」唐突に口を重ねてこようとする君。思わず避けた。たくましく日焼けした胸板を押し返す。コーヒーがシーツに零れる。
「は?昨日自分から求めてきたくせに?俺って結局は都合の良い男なんだろ?そんなのおかしくね?」
足を掴まれた。白く細長いのが自慢の私の脚。その脚を掴む手が黒く見えた。ゾッとした。
必死に脚をばたつかせて、股間を蹴りあげた。
「痛っ!この、クソ女!」
素早く起き上がって、部屋に散乱していた衣服を拾う。下着はバックに突っ込んで、白いワンピースだけを着て外に出た。
階段を駆け下りる。ワンピースが風に揺れる。
私はただ話を聞いて欲しかった。体の関係なんて求めてなかった。誰かの胸の中で泣きたかっただけなのに。
必死に走った。ただ、夢で見た白く広い世界を求めて走った。走らないと、闇に追いつかれる。
電話が鳴る。彼からだ。「もしもし。昨日はごめん。思わず殴っちゃった…大丈夫か?…なら良かった…昨日の夜どこで過ごした?…そっか…ちゃんと説明したいから、今日の夜会えないか?…じゃあ、19時にウチに来て。…大好きだよ。」
ピロンッ。
最低だ。彼以外と体を重ねた次の日に、彼と体を重ねる私も。浮気がバレたら、逆上して私を殴る彼も。
もう一度、大人の汚さを知らない昔の私に戻りたい。でも、黒は白には戻れない。私はもう戻れない。
人混みの中、絶望を感じた。周りの景色が黒く霞んでいく。
私の中の世界は、漆黒に染まった。