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第一章:始まりの旋律

ガタンゴトンーガタンゴトンー。





聞き慣れたこの音を聞きながら

学校へ行く為の電車の中であたし

米沢 神流 [YONEZAWA KANNA.]は

手すりも使わず両足でバランスを

保ちながら携帯をいじっていた。



国語と歴史と体育以外の科目が全部

鬼やべぇ馬鹿ギャルなあたしの

唯一の自慢はこの生まれながらの

ずば抜けた体力と運動神経。


(※鬼やべぇ=やばいの最上級)


そしてサラサラツヤツヤで

シャンプーのCMに出れるんじゃね?

ってくらい綺麗で長くて左だけに

金メッシュが三本入った茶色の髪。

・・・・が、唯一の取り柄っていうか

自慢?みたいな。



「・・・か、神流・・・助けて・・・。」



今にも泣きそうな声で助けを求めたのは

隣にいる飯島 奈央 [IIZIMA NAO.]。

奈央は控えめで真面目で優等生。

あたしとは正反対のタイプだけど

あたしにとって奈央は

可愛らしい妹のような存在。


愛する渋谷のハチ公

並みに可愛がってマス。



『ん?』



視線を携帯から奈央に変えると

奈央は泣きそうな顔をしていて奈央の

すぐ後ろには五十代のオッサンがいて

オッサンの手は明らかに痴漢行為をしていた。



『何してンの?』



あたしはオッサンの手首を掴み

奈央から引き離してそう質問した。

もちろん、睨みつけながら。



「・・・なっ!なんだね君は!

いっ、今すぐこの手を離したまえ!」



周りの目を気にしながら慌てて言う

ベタな決まり文句に呆れながらも

一切手の力を弱めないあたし。



『あんたがこの子に謝ったら

離してあげてもいーよ?』



「ばっ、馬鹿言うんじゃない!

私は何もしていない!無関係だ!

ちょ、ちょっと触れただけじゃないか!

満員なんだから仕方ないだろう!」



その台詞を聞いてあたしは

勝ち誇ったかのような笑みを浮かべた。



『別にあたし、触れたことに関して

謝れとは一言も言ってないンだけど?』



「・・・・ッ!!!」



『あたしの勝ちってことで

ちゃんとこの子に謝ってよね。

それとも今すぐ降りて交番行く?』



「・・・誰が行くものか!」



オッサンはそう叫んで丁度

開いた扉から走って逃げ出した。



『あーっ!奈央!

あんたは先に学校行ってな!』



そう言い残してあたしは逃げる

オッサンの後をすごい速さで

追いかけ、背中に跳び蹴りを

一発食らわした。



「ぐはあっ!」



『あたしから逃げよう

なんざ一億年早いっ!』



鞄から取り出した縄で男の両手を

縛り、白い紙に「痴漢行為をしました」

と書いて男の額にテープで貼り付けた。


何で縄なんか持っているのかというと

答えは簡単。奈央が痴漢に遭うのは

これが初めてじゃないからだ。

・・・ってか、あの可愛さ故に毎日の

ように被害に遭ってるからね、あの子。



そんなこんなで、とりあえず、あたしは

可愛い奈央を泣かせた&汚らわしい手で触れやがった

痴漢男をいつも通り、交番に連れて行くことにした。




『毎日お疲れ様でーす♪』



あたしはオッサンを交番にいた

若い警官に引き渡して

わざとらしく微笑みかけた。



「またお前か。」



『またお前かとは失礼なー!

あたしは奈央の護衛ギャルとして日々

常に頑張っているんだぞヨッシー。』



ちょっと紹介し遅れたけど

この失礼な男は顔見知りの警察。

名前が吉川だからヨッシーね。



「あー、はいはい。

・・・ってかお前学校だろ?

さっさと行って来いよ。」



『分かってますよーっだ!』



あたしはヨッシーに向かって

あっかんべーをして交番を後にした。



『・・・あ、ヤバ。

今日の一時間目津田センじゃん。』



津田セン(歴史の先生)遅刻すると

いっちいちうるさいからなー。

説教で授業つぶれるくらいだもんなー。



『よし、サボるか。』



そう決断したあたしは持て余した

時間を潰すために学校とは

違う方向へ向かった。


ちなみにサボるのは当然あたしの為だが

クラスの真面目っ子達の為でもあるのだ。



「ん?あ、神流じゃん。

何してんのお前ー?サボりー?悪〜。」



ある目的地へ向かっていたあたしを

引き止めたのは幼なじみの

大野 祐介 [OONO YUUSUKE.]だった。



『あー、なんだ祐か。

そういうあんたこそサボりでしょ?』



「いや、俺は一時間目サボるだけ!

だって歴史とか意味ワカンネーし。

それに歴史なんて全部が全部マジ話な

訳じゃねーんだから覚えても意味なくね?」



あー、確かにそれは言えてるな。

教科書に書いてある程度のことなんて

ほんの一部でしかない訳だしそれが

本当かどうかも分からないんだから。


歴史は数学とは違ってどんなに

調べても本当の正解なんて見えない。

・・・自分の目で見ない限りは、だけど。



『あんたってただの不良

馬鹿じゃなかったんだねー。』



「あ、あのなァ、誉めるのか

貶すのかせめてどっちかにしろって。

ってかこれからどこ行くんだ?お前。」



『・・・お祖母ちゃんのお墓参り。』



お祖母ちゃんと仲が良かったお寺のお坊さんに

渡すものがあるから来て欲しいって言われたから

そのついでに・・・ね。



「・・・そっか。

じゃあ、久々に俺も行く。」



『へー、珍しいじゃん。

どういう風の吹き回し?』



「別に?単に暇だからってだけ。」



『わー、明日は豪雨かなー。

槍が降ってくるかなー。』



小馬鹿にするように笑って

道の途中にあった畑に咲いていた

白、ピンク、赤、三つの色の

コスモスを何本か貰った。



「あー、そうだなー。

明日槍が降ってお前の頭に突き

刺さることを密かに願ってるよー。

・・・ってか取っていーのかよソレ。」



『これだけいっぱい咲いてるんだし

お墓に供える為に少しくらい貰った

って罰は当たらないっしょ。』



「ま、そーだな。」



それからしばらく歩いて長い坂道を

体力と足の速さだけが取り柄の

あたしは軽々と登ってお寺に

たどり着いた。


そしてあたしはお花に水をあげていた

お坊さんに挨拶をして小さくお辞儀をした。



『どうも、お久しぶりです幸久さん。』



小さくお辞儀をしてあたしは

お祖母ちゃんの墓石の前にさっき

摘んだばかりの淡い色のコスモスを

そっと置いた。



紹介し遅れたけどお坊さんの

名前、幸久さんっていうんだ。

お祖母ちゃんは歳のわりに最期まで

ユッキーって呼んでたけどね。



「おや、神流ちゃん、祐介くん。

久しぶりですね。それにしても

また学校サボったんですか?」



幸久さんはあたし達が学校を

サボったことは怒らずに

笑って出迎えてくれた。



『いやー、ちょっと痴漢男を

捕まえてたら一時間目始まる

時間になっちゃって・・・。』



「ははは、神流ちゃんは本当に

美和子さんによく似てらっしゃる。」



美和子っていうのはお祖母ちゃんの名前。

お祖母ちゃんのお父さん、つまり

曾お祖父ちゃんがつけたんだって。



『そうですか?』



「えぇ、美和子さんも

神流ちゃんくらいの時は毎日のように

危険を省みず悪い人を捕まえてましたよ。」



『あんなに女の子らしくしなさいって

うるさかったお祖母ちゃんがそんなことを?』



「えぇ。」



「すげーな遺伝って。

お前の馬鹿力と素早さは

あのばあさんから来てたのか。」



バコッ!



『それで、渡したいものって何なんですか?』



いちいちうるさい祐を一発殴って

あたしは何もなかったかのように話を進める。



「ああ、実は神流ちゃんが

十七になったらコレを渡すように

美和子さんから頼まれていたんですよ。」



幸久さんは何の変哲もない一本の

木刀とダイヤモンドのような

クリスタルのような透明で綺麗な

宝石のぶら下がっているネックレスを

取り出してあたしに渡した。



『コレは一体何なんですか?

ってかあたしまだ十六ー・・・』



「何言ってんだよ。

今日はお前の誕生日だろ?」



『へ?今日何日?』



「九月四日。」



・・・そんなバナナ。


・・・じゃなかった、そんな馬鹿な。

自分の誕生日忘れるとかどんだけ

時間忘れしてんだろ、あたし。



「私の口からは何とも・・・。

・・・時が来ればきっと分かりますよ。

例え何があっても時代に流されず

自分の信じる道を行きなさい。

そうすればきっと幸せになれる。」



そんな意味深な言葉だけを残して

幸久さんはお寺に戻ってしまった。



「何なんだろうな、今の。

幸久さんらしくなかったっつーか

何か今日の幸久さんなんか変じゃね?」



『・・・そーだね。』



コスモスを供えてあたしは

素っ気ない態度でただ一言

家に帰る、と祐に言って祐の

引き止める声も無視して

お寺を後にした。




さっきの幸久さんの言葉が何度も

リピートされて頭の中を駆け巡る。



『何があっても、って

一体何が起きるって訳・・・?』



落として無くさないように

ネックレスを首にかけて

何の仕掛けも無さそうな

木刀をじっと見つめた。



『大体、お祖母ちゃんは何で木刀なんか・・・。』



・・・そう小さく呟いた時だった。

たくさんの桜の花びらが突然吹いた

強い風で舞い、あたしを包み込んだ。



『わああっ!何!?』




何でこの季節に桜の花びらなんかー・・・。




そう言おうとしたが急に眠気に

襲われてあたしは意識を手放した。




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