第5話 父と兄の追い駆けっ子とガールズトーク
ダンスの先生が少々立ち直る事が難しくなってしまったので、母のもとに行って誕生祭の確認しようとするといつも通りに一緒にいた侍女のマリアとサンが中庭にいる人物に気づく。
「エルゼ様、あそこに帝王様とアルド様が・・・」
「あら?アルド兄様はこの時間は鍛練の時間じゃ?」
「あ~、アレだと思いますよ?いつもの・・・」
すると、遠くに見える二人の姿が急にブレたと思うと、二人は高速で動きだした。
「・・・サンが言うことが正しいみたいね。」
「凄い追い駆けっ子ですよね・・・」
「アルド様の侍女達も大変な思いをしてると話を聞いた事があります。」
眺める私達は苦笑いしながら、
「まぁ、お父様から逃げるのは無理だと思いますよ?」
「帝国最強はブラスト騎士団長ではなく、アウスワルド帝王閣下だと言われていますからね、実際はどうなのかは知りませんが・・・」
「実際は互角らしいわ、模擬戦やテストでの勝敗も全部同じで決着がつかないって、前にお母様とサーシャおば様が仰ってらしたわ。」
「後、帝王様と騎士団長が本気で手合わせをすると後始末が大変だと、筆頭家老の一人が言ってましたね。」
そんな帝室の噂あるあるを三人で話あっていると、
「あら?捕まったみたいね・・・」
「今日の訓練は5倍・・・というやつでしょうか?」
「それは後で確認しておくわ、さぁそろそろお母様の所に行きましょ?」
「「かしこまりました。」」
お父様が息も切らさず長兄を捕らえたのを見届け私達はお母様の元へ再び歩きだした。
お母様の研究室に着いた私達は、先程の追い駆けっ子の様子をお母様に伝えた。
「そう、あの子まだ抵抗してるのね。」
「?何かアルド兄様が嫌がる面倒な事でもあるのですか?」
「あの子はもう学校に通っているからね、お見合いをしないといけないのよ。」
「あ~、なるほど・・・それでお父様やブラスト騎士団長が出てきても逃げようとするのですね・・・」
アルド兄様の行動に納得すると侍女のサンが、
「アルド様のお相手は誰なんですか?」
それを見た同じ侍女のマリアが、
「こら、サン?そう言った事に踏み込むのは不敬よ!?」
とサンの事を嗜めていたが母が、
「いいわよ別に、その内知れ渡るんだし、何よりこういう話は女子の特権よ、例え息子の話であってもね。」
「お母様、流石にアルド兄様が哀れなので・・・」
あっさりな母に苦笑いしつつ、一応でも兄を擁護しようとしたが、
「だってあの子のお見合いの相手、西にある隣の国の可愛いと評判の姫様よ?マルシーム王国王家の三女のメアリーゼ フォン マルシーム姫よ?」
大物の相手に流石にどうしようもなかった。
マルシーム王国は我がルルージェ帝国の友好国でお互いに貿易を盛んに行っており、一部では関税の撤廃を行うなどの共同政策を実施したりもするかなり近しい相手だ。
「そんな友好国からのお見合いの打診を受けた以上、帝室の一人として、帝位継承権を持つ一人として逃げるなんて言語道断だわ。」
いつも以上にアルド兄様に対して母はドライだ。
基本的に母は回りくどい事を嫌う、貴族や帝室である以上ある程度は仕方ないと思っているが、帝室や貴族の責任を後回ししてまでそう言った事に気を使う事は絶対にない。
「あの人がアルドを更正出来ない場合は私にも考えがあるわ・・・」
そして、何より父よりも母の方が容赦はないのである。
最初は優しいのだ、最初は・・・ミスをしたって別に怒ったりはしない、危なかったりすれば話は別だけどそこまでじゃない。
母は怠惰というモノをトコトン嫌う。
特に貴族、帝室の義務を放棄などしようものなど想像もしたくないぐらいに怒ると怖いのだ・・・
アルド兄様が前にお母様に説教されている所を見てしまったが・・・アレを受けて、反抗するアルド兄様の蛮勇には感心してしまう。
「お兄様は一体何が気に入らないのでしょうか?」
「それを聞いても全く答えないのよ、あの子は・・・アウスは何か知ってるみたいだけど、教えてくれないし!?」
アルドお兄様がお父様に立ち向かってもお見合いしたくない理由か~
「以外と単純に好きな子がいるとか?」
私がそう言うと・・・
「えっ・・・?」
母が固まっていた。
「いやだって、私やリリィはお母様と同じ女ですので好きな人が出来たり、気になる相手の事を話たりしてもそんなに気にならないじゃないですか。お母様やサーシャおば様の初恋の話だって聞いたりもしてますし・・・」
お父様達との馴れ初めまでバッチリ聞き出しているので我が両親の赤裸々な出逢いはバッチリ把握しているし、当時を知る人にこっそりと話を聞きに行ったりもしている(リサーチは私の親友二人です)。
「これでお父様にこの手の話を振れというのは正直ちょっとってなりますよ?仮にお父様に意中の人の話なんてしたらどうなるか分かりませんし・・・だからアルド兄様はお母様に理由を言わないのではないのですか?」
とりあえず私やリリィにそんな人がいたら間違いなく謁見は確定である。
公式、非公式はともかくとして・・・
ただ、母は私に言われて得心がいったようで、
「なるほど・・・それは盲点だった、明日からその線で少し探りを・・・」
私はお母様のその様子を見ながら、頑張って抵抗するここにはいない兄に心の中で謝意を送るのだった。
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