第6話 魔術師団の陰謀
アデスとスラ坊は牛車の荷台にいた。
アルシャは外でアルバスの横を歩いている。
最後のアルバスは荷物を届ける為に牛車を動かしていた。
「――い! 起きろよ! なぁ!」
スラ坊がアデスの頭上ではなく樽の上で言っていた。
「う?」
既に赤いゴブリンは樽と結び付けられており身動きが取れないでいた。
赤いゴブリンは目を覚ますと顔を上げた。
辺りを見る訳でもなくただ単にスラ坊の方を力なく見始めた。
「起きたか。だがゆっくりもしておれん。訊きたい事が山ほどにある」
アデスは慌てていた。
なぜならもし魔王が復活していればまた勇者の存在が必要になってくるからだ。
凱旋をし英雄扱いをされたが実は魔王は封印しただけで終わっていた。
封印が解くにはアデスの存在が必要だが今の時代はアデス並みが腐るほどにいた。
「無駄だ。俺様の代わりなどいくらでもいる」
喋らないのなら仕方がないがギルド本部に送るしかない。
そこでなにをされようが知った事ではないが出来ればここで吐かせたかった。
アルシャ曰くギルド本部以上は残忍な人が多く殺しかねないとまで言っていた。
それを聴いたアデスは確かに一大事だと思ったがなるべく殺したいはなかった。
「なぁ? どうしてお前は喋れるんだ?」
スラ坊は単刀直入に訊いた。
それを言ったらスラ坊自身も喋れるのだが。
「け! お互い様だな! だがな! 俺様は雇われの身だ! 知っている事なんてたかが知れているぞ!」
赤いゴブリンはまるでスラ坊に唾を吐き付けたような感じだった。
雇われの身という事はまだ別に主犯格がいると言っているも一緒だった。
アデスとスラ坊は目線が合いもう一度赤いゴブリンを見始めた。
「雇われたのか。一体誰に?」
アデスは冷静な態度で訊いた。
全ては脅威から護る為だ。
下手をすればまた旅に出る事になる。
「うるさい! ……あ」
うるさいと言っているが最後にはお腹が鳴っていた。
どうやら赤いゴブリンはお腹を空かせているようだ。
それを感じ取ったアデスは懐からなにかを取り出そうとしていた。
「う。無駄だ。俺様はこれ以上に口は割らない」
赤いゴブリンはそう言いながらもそっぽを向いた。
一方のアデスは考えを変えたのかと思えそうだったが懐から包みを取り出した。
「フォッフォウ。お腹を空かせては可哀想だ。どれ。これを食べるとよい」
そう言ってアデスは包みを開けた。
中身は質素な干からびたお肉だった。
なんともいつでも腹ごしらえが出来るようにとアデスが持っていた。
「はは。アデス。それって」
スラ坊はやや引いた。
確かにいつでもどこでも食べれそうだけど譲る物なのか。
だが赤いゴブリンは腹減りに耐え切れずに唾を飲み込んだ。
「ほれ。食わんか」
アデスが誘惑している。
どうやら食べる気になったらアデスが食べさせるようだ。
さすがに今の赤いゴブリンに自由を与える訳にはいかなかった。
「ゴクリ。……ひ、一口だけなら」
赤いゴブリンは唾を飲み込みあっけなく食べる事にした。
アデスは微笑みスラ坊は飽きれていた。
なんて単純な奴なんだとスラ坊は思った。
「ほれ。フォッフォ。お主も儂らも食べ物は一緒だの。それだけで繋がった感じはせんかのう?」
赤いゴブリンは噛めば噛む程に味わい深い干からびたお肉を食べ始めた。
本当にお腹が空いていたのか赤いゴブリンは軽く味わいながらすぐに呑み込んだ。
「う」
赤いゴブリンは干からびたお肉を初めて食べた。
その結果はまだ判らない。
赤いゴブリンは下を向きなにかを言いたそうだ。
「う? なんだ?」
スラ坊は思わず聞き入った。
だが不思議な事に場の雰囲気に暗雲はなかった。
果たして赤いゴブリンの味の感想はどうなのか。
「美味い!」
赤いゴブリンは急に顔を上げ両目を光らせたかのように言い放った。
「フォッフォウ。そうか。そうか。これでお主と儂らは仲間だのう」
アデスは初対面であるにも関わらず赤いゴブリンを疎遠しなかった。
むしろ食で繋がれると本気で信じているようだった。
「え? いいのか? こんな事で仲間だなんて」
スラ坊は納得のいかない様子だ。
だが一方のアデスはもう既に赤いゴブリンを仲間だと思っていた。
すると赤いゴブリンはいきなり涙を流し始めた。
「うおおおおお。俺様はただ優しくしてほしかっただけなんだよう」
赤いゴブリンはどうやらこうなる前に人間に対して興味を抱いていたようだった。
だけど見た目が見た目だけに周りから気味悪がられて避けられていた。
「なのに! なのに! 俺様は! 人間を憎んで襲っちまったよう! ああ!」
赤いゴブリンは声を高らかに上げ言い放った。
本当は人間と仲良くしたかった。
本当にそれだけのようだった。
「そうか。今日からお主は儂らの仲間だからのう。安心せい」
アデスは成り行きで赤いゴブリンを仲間に引き入れた。
決して計算尽くめではなかった。
「もう! あいつらの言いなりにはならねぇよう! 俺様を改心させてくれ!」
赤いゴブリンの言うあいつらとは誰の事なのか。
アデスはさっさと訊いて見る事にしたようだ。
「よいか。訊くぞ。お主の言うあいつらとは誰か。そしてあのお方とは何者だ?」
アデスは今度こそ聴きたい事を赤いゴブリンは言うと思った。
スラ坊もまた今ならいけると思い込んでいた。
果たして赤いゴブリンは全てを白状するのだろうか。
「あいつらってのは――。ひぃ!?」
赤いゴブリンが白状しようと言い始めたが途中にある事に気付いた。
気付いた瞬間に怖気が走り背筋が凍った。
「うん? どうした?」
アデスは気付いていない、後ろに何者かがいる事を。
「ふぅ。お喋りは禁物ですよ」
アデスの後ろから何者かの声がした。
慌ててアデスとスラ坊が振り返るがそこには誰もいなかった。
「フフ。こっちですよ。こっち」
この時にようやくアデスは異様な雰囲気に気付いた。
恐る恐る赤いゴブリンの方を見た。
するとそこには目付きの細い男が立っていた。
マントを羽織りフードを被らずに堂々としていた。
「う」
それだけではなかった。
なんと赤いゴブリンが首から血を流していた。
このままでは赤いゴブリンは死んでしまう。
「なんて事を!」
アデスは早急に回復魔法で傷口を塞ごうとした。
だが目付きが鋭い男の威圧に敗け一歩も動けなかった。
「困りますね、僕達の秘密をばらされては」
謎の男は殺す為に入り込んできたようだ。
どうやって入り込んだのかと言えば瞬間移動だった。
「でも死にましたか。フフ。では僕はこれにて」
謎の男はそう言い終わると手から閃光を放った。
「う! 待て!」
アデスが声を上げた頃には既に謎の男は閃光と同じで消えていた。
「く! どうすれば!?」
アデスは混乱していたがスラ坊は比較的に冷静だった。
「なぁ! アデス!」
故にスラ坊はそう言った後に樽の上から落ち這いながら赤いゴブリンに近付いた。
「気付いてくれたか。ぐ。……俺様の最期の言葉を聴け。いいか。魔術師団には気を付けろ。奴らは魔王復活を企む者達だ。ぐ……は」
赤いゴブリンは最後の力を振り絞りアデス達に伝えてくれた。
「ああ。聴いたよ、確かに」
スラ坊はまるで瞑想しているようだった。
「安らかに眠ってくれ。お主の事は忘れんよ」
アデスとスラ坊は心に決めた、赤いゴブリンの言った通りに魔術師団に気を付け魔王復活を阻止しようと。
きっとさっきの謎の男も関係しているのだろうと思いアデス達は警戒する事にした。
その為にもまずはこの状況をアルシャ達に報告し誤解にならないようにしなければと思ったアデスとスラ坊だった。