第4話 ゴブリン達との戦い
ゴブリン達は息を荒げる様子もなく歩きながら虎視眈々と狙っていた。
静まる両者の間にあるのは冷徹な視線のみ。
乾いた風の音がまるで始まりの鐘を鳴らしているようだった。
とここで赤いゴブリンが高らかに片刃曲剣を掲げた。
すると前方の三匹のゴブリンが一斉に雄叫びを上げ始めた。
「来るのか!」
アルシャは冷や汗を掻きながらも冷静にゴブリン達を観察していた。
アルシャの勘は当たったようで三匹のゴブリンは勢いのままに走り始めた。
「ほう。来るか」
アデスは乾いた風を浴びるように言い放った。
「やるしかないのか」
スラ坊はアデスのように振舞えなかった。
いくら正当防衛でも戦うは嫌だった。
もっと他に分かりあえる方法を欲していた。
「スラ坊。あいつらに言葉は通じねぇ。ここではやるかやられるかだ」
アルバスの言葉にはどこか説得力があった。
もう正当性を自分自身に言い聞かせるしか他になかった。
これが戦いだとアルバスは己に言い聞かせていた。
「では……先手と行こうかのう」
アデスは前に出ると左手を突き出し魔法陣を壁に出現させるように構築した。
すると魔法陣は内側に集まるように炎へと変わり発射した。
アデスの放った炎が真ん中のゴブリン目掛けて飛んだ。
「グゲ!?」
アデスの放つ炎は真ん中のゴブリンに威圧を与え立ち止まらせた。
このまま真ん中のゴブリンに当たると思われたその時だった。
急に赤いゴブリンが魔法を唱え始めた。
そしてアデス達が気付いた時には真ん中のゴブリンは結界で護られていた。
「え!?」
意外だったと言わんばかりの反応をスラ坊は見せた。
「ほう。これはなんとも」
アデスからしても意外だった。
後方にいる赤いゴブリンはどうやら本当に喋れるらしい。
アデスの放った炎は何事もなかったかのように結界に当たり消滅した。
「喋るゴブリンは……本当だった?」
アルシャの言葉には恐怖が感じ取れた。
ところどころに震えがあり信じられなかった。
あの赤いゴブリンはどうしてああなったのだろうか。
「事はどうあれ倒さないとな。俺たちゃあの世行きだぜ」
アルバスは平然と言い切っていた。
「わ、分かっている!」
アルシャは裏声になりながらも冷静を取り繕った。
そしてアルシャは遂に鞘から両刃直剣を引き抜いた。
もう戦うしかないとアルシャは心に決めたようだ。
「俺も戦うぜ!」
スラ坊はアデスの頭上で二回跳びはねると言い放った。
やる気満々だがアデスからは離れる気はないようだ。
どちらかと言えばアデスを護ろうと奮闘する気のようだ。
「では……参ろうかの」
アデスはゴブリン達を舐めていた。
だけど今回は本気を出すようだった。
これで通じないとなればここで死ぬ事になるかも知れない。
「フォッフォウ。ジュリエッタよ。どうか見守っていてくれ」
アデスの気持ちは一途な想いで溢れていた。
ジュリエッタとの温かい記憶が甦りアデスは微笑みながらも魔法陣を構築し始めた。
今度は三匹のゴブリン達の頭上に魔法陣を構築し魔法を唱え始めた。
今回のアデスの魔法は唱えるのが長く赤いゴブリンは気付き前と同じ結界を三匹のゴブリンに作ろうとした。
だがその前に魔法陣は三匹のゴブリンを追随しいきなり激しい雷が落ちた。
刹那。一瞬の出来事だったが雷は見事に結界を貫通し二匹のゴブリンに当たっていた。
両翼どころか雷は真ん中のゴブリンと言う馬自体の結界すらも貫通しそうだった。
だが真ん中のゴブリンは二重に結界が強化されており貫通はしなかった。
それを見たアデスはかなりの脅威を感じ始めていた。
「ぐぅ。なんという奴じゃ。しかし――」
アデスは急に言い放つと杖の先端を取り外した。
杖の中身は細身の鋭い両刃直剣で鈍い銀色をしていた。
まるで伝説のミスリルで出来ているようだった。
「まさかの。こやつを使う時が来るとは。のう。ジュリエッタよ」
アデスは再び思い出していた。
どうやら思い出の物らしく刀身の冷たさとは裏腹に温かいようだ。
まるで赤子の頬を撫でるような微笑みを彷彿させていた。
「アデス! ここは私に任せろ! 赤いゴブリンは任せた!」
アルシャは既に真ん中のゴブリンと闘っていた。
結界は魔法のみ弾くようで生身を通じるようだった。
アルシャは真ん中のゴブリンと剣をぶつけ合い硬直していた。
「行こう! アデス!」
スラ坊の言葉だ。
スラ坊は最後まで付き合うつもりだ。
たとえ役に立たなくても頑張るつもりだった。
「ああ。行くとするかの」
アデスは魔法だけではなく近接も出来る程に優秀だった。
果たしてアデスは赤いゴブリンを無事に倒せるのだろうか。