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第2話 ギルドの名前は?

 街の中にギルドが点々としているのは不思議ではなかった。実にありきたりな為に敵視される事もあった。


 ギルド本部の中は一室だけだった。広々としているが隠れながらなにかをするには不向きのようだった。


 ただよいと思ったところは比較的に階数が高くないところだ。この貸室は二階にあり随分と楽して下りられそうだ。


「どう? ここが私のギルドなんだ。なかなかいいでしょ?」


 アルシャは客人用のソファに座り込み自信満々に言っていた。我ながら凄く良い物件を見つけたと思っているようだった。


「お? このソファ、凄く居心地良い!」


 アデスよりも先にスラ坊が言い始めた。いちようアデスとスラ坊は客人なのでアルシャと相対していた。


「ほう。儂のフードとどっちがよいかのう。のう。スラ坊や」


 アデスは少しだけ意地悪な質問をした。思わずスラ坊は危うく黙りそうになった。


「え? うーん? ……アデスのかな!」


 最初に居場所をくれたのがアデスだからだ。この答えに行き着いたスラ坊はなんだか照れ臭そうだった。


「フォッフォウ。嬉しいわい。儂にとってスラ坊は孫のようじゃよ」


 本当に仲睦まじいと笑い声が出る。元気の源は間違いなく信頼関係だろう。


「俺から見たらさ。アデスは祖父ちゃんだよ」


 スラ坊は薄っすらと泣きそうだった。こんなに優しいなんて何年振りだろうか。


「はは。なんとも羨ましい関係なんだ。私には眩しすぎるよ」


 今のアルシャは信頼できる程の仲間に恵まれていなかった。ただ只管に耐えるしかなかった。


「なにを言っておるか。アルシャはもう儂らと仲間じゃからのう」


 アデスの気持ちに揺らぎはなかった。スラ坊も賛同しているようで反論がなかった。


「仲間……か。そうだ。仲間になった記念に、ギルドの名前を決めない? 私達で」


 アルシャにとって仲間は本当に心の底から貴重な人材だった。仲間不足では寂しかった。


「よいのか」


 アデスは自分の事が心配だった。もう後先がないと危惧し始めた。


「いいのよ、だって私達はもう仲間なんだから」


 アルシャの気持ちに嘘はなかった。不思議とすぐに打ち解けられて心が洗われるようだった。


「あのさ! 青の集いが良いな! 俺!」


 スラ坊が急に割り込んできた。スラ坊は自らの色と合わせたようだった。


「ホッホウ。青の集いとな」


 アデスは顎に手をやり感心した。こうも早くに答えが出るなんて思いもしなかった。


「へぇ~。青の集いかぁ。良いね。んじゃそれにしようか」


 アルシャは悪くないと思い決める事にした。本気のようで背中を押されたら即決だった。


「儂も賛同じゃ」


 アデスは顎から手を離しアルシャを見ながら言った。この中に反対はいなかった。


「んじゃ決まりだな! 今日から青の集いが俺達の居場所だ!」


 スラ坊は今日一番の笑顔を見せた。随分と心が晴れたようで自信に満ち溢れていた。


「うむ。スラ坊の為に」


 本当にアデスはスラ坊を孫のように見ていた。その優しい目付きは忘れられない。


「フフ。それじゃあ……」


 アルシャが沈黙を破り最後になにかを言おうとした。


 だけどそこに突然の来訪者が現れた。来訪者は扉を叩く事なく不謹慎な態度で開けた。


 いきなり開けては挨拶もなしに入り込んできた。注目を浴びる来訪者。


「おおう。アルシャ」


 実に失礼な来訪者だがアルシャは顔色を変え急に立ち上がった。


「な!? 今日じゃない筈!」


 アルシャは顔色を変え落ち着かない雰囲気を出していた。まるで金貸しに会っているようだ。


「おう? そうだが?」


 来訪者は見るからに素性の悪そうな恰好をしていた。なにやら嫌な空気が漂い始めた。


「へ? それじゃ今日はなんの用ですか。アルバスさん」


 アルシャはさっきよりは落ち着きを取り戻した。


 来訪者の名はアルバスと言うらしかった。


「おう。今日はな。アルシャ。お前に頼みたい事がある」


 普段のアルバスを知らないが今回はアルシャに頼み事があるようだった。


「なんですか、その頼み事は」


 アルシャは心を構えた。普段は見せない位にアルバスの顔色を窺っていた。


「おうよ。話は簡単だ。とある品を運んでくれないか。まぁ。初依頼って奴だな、要するに」


 アルバスの言う品とはなんなのか。実に気になるがギルド青の集いに初依頼がきた。


「お酒の宅配でしょうか、アルバスさん」


 アルシャは実に冷静な態度を取った。だけど内心は凄くはち切れそうだった。


「おう。それだ。どうやら隣町との間に魔物が巣食うようになったようだな。頼めるか」


 アルバスは一見すると誤解を与えそうな人物だが意外に仲間思いだった。


「アルバスさんにはいつもお世話になっています。手伝わせてください」


 アルシャは心臓を高鳴らせながら言っていた。いつにもなく自分らしくなかった。


「そうか。なら頼んだ。出発は今日の昼だからな。忘れるなよ?」


 アルバスは自分が経営する酒場の宅配業もしていた。それをアルシャに依頼しにきた訳だ。


「解りました。昼ですね。酒場に向かいます」


 アルシャの気持ちが落ち着き始めた。久しぶりにきたと思ったらアルバスはもう去るようだ。


「じゃあな。アルシャ。待ってるからな。……あー忙しい」


 アルバスは振り向き際に愚痴を零し去って行った。なんともぶっきら棒な人だった。


「なぁ? アルシャ?」


 スラ坊はアルバスの姿が見えなくなってから言った。今にもなにかを訊きたそうだった。


「なに?」


 実に素っ気ない態度をスラ坊に見せた。アルシャは踏み込んでほしいとは思わなかった。


「さっきの依頼だけど俺達も行って良いよな?」


 スラ坊はもっと他に訊き出したい事があった。だけど堪え別の事を訊いた。


「もちろん。私だけだと心細いよ」


 アルシャの腕前がどれほどなのかが判らない。だからこそにスラ坊は決意し訊いていた。


「これもなにかの縁。儂らが出来る事はなんでもしようかの」


 アデスが加われば成功は格段に上がるだろう。だけど魔物が狡猾で数が多いと厄介になるだろう。


「有難う。……んじゃあ青の集い。そろそろ動きますか」


「おー!」


 こうしてアルシャを最後に会話は終わった。後は昼までに道具を揃えたりするだけだった。


 果たしてギルド青の集いは掛け声の勢いを維持しつつ無事に初依頼を達成出来るのだろうか。

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