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第1話 スラ坊の居場所

 スラ坊が街に入りそうになった時、アデスが歩くのをやめ慌てて口を動かした。


「の、のう。スラ坊や」


 スラ坊が街に入らずに転がるのをやめアデスの方を振り返ると不思議がっていた。


「うん? どうしたんだ? アデス?」


「スラ坊や。今のお主は魔物じゃな」


「それがどうかしたのか。……あ!」


 スラ坊は今の自分が魔物である事に気付いたようだった。


 この状態で入れば間違いなく浮くだろう、スライムテイマーならともかく。


「フォッ! フォッ! そこでじゃ。どうかのう、儂のフードの中に隠れては」


 アデスのマントにはフードが付いており頭に被る事もなかった。


 だからこそにアデスは優しい口調で微笑みながら言っていた。


「いいのか」


「ああ。いいとも。可愛い。可愛い。子の為じゃ」


 アデスの言葉を聴いたスラ坊は転がり始めた。そしてアデスの元に来ると転がるのをやめた。


「んじゃ早速――」


 スラ坊は助かったかのような気持ちになっていた。これで街に入れると思った。


 アデスは屈み右膝を地面に付けた。


「ほれ。届くかのう?」


「ちょっと待ってくれ」


 スラ坊はそう言い切ると全身を下に縮こまらせ一気に反発した。


 解放されたスラ坊はアデスの頭の上まで跳んだ。


 見事にアデスの頭上に乗ったスラ坊はそのままの勢いを保ちつつフードに入り込んだ。


「フォッ! フォッ! どうじゃ? 居心地は?」


 スラ坊はアデスの言われるまでもなくフードの中で居心地を確かめていた。


 するとスラ坊は確かめるのをやめ喋り始めた。


「最高だよ! えっへん! 今日からここが俺の居場所だ!」


 スラ坊は威張り散らすかのように言い放った。


 アデスはスラ坊がフードの中で小さく威張っていると思い可愛らしかった。


「ほっほう。そうか。そうか。うむ。では街に入るかのう」


 アデスは屈むのをやめ立ち上がった。


 アデスが歩き始めるとスラ坊がなにかを言いたそうだった。


「ああ。その……有難うな。アデス」


 スラ坊が言い終わるとアデスはより微笑んでいた。


 こんなにも他人から喜ばれるなんて何年振りだろうかと思った。


「なに。お安い御用だ。では……そろそろ街の中じゃ」


「分かった。俺は息を潜めておくよ」


 こうしてアデスとスラ坊は街に入り込んだ。




 街の中は意外にも人がいなかった。


 そもそもアデスが街にいる理由はスラ坊が有頂天になってここまで来たからだ。


 それまでは特に意味はなかった。それがまさかこんなに惹かれ合うとは不思議な事だ。


「なぁ。アデス」


 スラ坊が小さな声量で言い始めた。


 まるで耳元で囁かれているような感じだ。


 アデスは前を見たまま表情を変えずに口を動かし始めた。


「うむ? どうした?」


 訊かれたスラ坊は歯切れが悪く答えようとした。


「……行き先も決めずにごめんな」


 アデスはスラ坊の気持ちに優しく触れるように言い放つ。


「のう。スラ坊や。お主は謝らんでよい。むしろ感謝の宴が必要じゃな。どれ。酒場でもいくかのう」


 アデスはスラ坊が元未成年者だという事を忘れていた。


 しかし今のスラ坊は魔物なので入っている事が他人にばれても大丈夫だろう。


「うう。アデスは優しいな。有難う。アデス」


 もうアデスのとってスラ坊は孫に近かった。


 だからこそに我が子のように接したかった。


「うむ。では――」


 アデスが酒場に向かおうとしたその時、アデスの前に何者か立ち塞がった。


「うむ?」


 思わずアデスが息を呑むような感じで疑問に思った。


「おいおい。そこの爺。さっきからブツブツとうっせぇんだわ。ヒック」


 アデスは息を呑んだが前の人物はどうやら酒を飲んだらしい。


 完全に泥酔状態だ。とはいえあながちアデスの独り言のようにも聞こえる。


 本当はスラ坊と会話をしているのだが普通じゃない人にはもっと通じないだろう。


「おっと。これは失礼した。儂の独り言のせいとはのう。このとおりじゃ。許してはくれんかのう」


 どう考えても昼間から泥酔している輩の方が迷惑だと思うがアデスは一礼し続け実に紳士だった。


「おい。やめろよ。俺が小さく見えるだろうが」


 もう既に小さいのだが謎の男は歯にも着せぬ物言いだった。


 謎の男の言葉を聴いたアデスは一礼をし続けた。


「ちぃっ! 無視かよ! ヒック! この野郎!」


 最後の言葉を頭突きと合わせるように謎の男は動き始めた。


 そして当たる間一髪のところで。


「させない!」


 急にスラ坊の声がするとアデスのフードから跳び出してきた。


「ふご!?」


 謎の男の顔にスラ坊がくっ付いた。と同時に跳ね返りスラ坊はアデスの頭の上で止まった。


「な、なにしやがる!」


 謎の男は顔を触りつつも愚痴を零した。


「それはこっちのセリフだ!」


 スラ坊の体勢が元に戻ると口走り始めた。


「うん? って……魔物が喋ってやがる!? な、なんだよ!? おい!」


 謎の男が今にも叫びながら逃げそうだった。


「これ以上は俺が許さない!」


 スラ坊は本気だった。なんとしてでもアデスを護りたかった。


「ふわ? よく見たらスライムじゃねぇか。気味が悪い」


 謎の男が最低な事を言った。アデスは聞き捨てられなかった。


「最後の一言……謝って頂きたい」


 アデスは侮辱を許さなかった。もう既にアデスはスラ坊を家族だと思い始めていた。


「なに? てめぇ。野生のスライムみたいになりてぇのか」


 謎の男は駄目だ。もう完全に泥酔していた。


 謎の男の脳裏に野生のスライム狩りをする人達が映った。


「どんな魔物でも意志を持っていれば尊厳は失われる」


 そう分かってほしいと言わんばかりの説教だった。


「ああーん? それがどうした? やるならさっさとやろうぜ! なぁ? 爺さん?」


 説教や説得を振りほどくように謎の男はそう言い終わると一気にアデスに近付こうとした。


 その次の瞬間――。


「あ! こっちです! こっち!」


 急にアデスの後ろから女子の声がした。聴いた限りだとだれかを呼んでいるようだ。


「く。……憶えていろよ。たく。スライム風情が」


 そう言い切ると謎の男は名乗らないで街の奥へと逃げていった。


 謎の男がいなくなると次に女子がアデスの後ろまで行き待っていた。


「うむ? だれもこないようじゃが」


 アデスは女子の方に振り向くと遠目をしまだだれかが来ると思っていた。


「あはは。それはね。私の嘘だよ」


 どうやら謎の女子はいない人物を作り上げていたようだ。なんとも器用な女子だ。


「助けてくれて有難う」


 スラ坊がアデスの頭上に乗り素直に言った。もう感謝してもし切れなかった。


「え? 喋れるの? 驚いた」


 謎の女子はスラ坊の声を聞いて驚いた。普通なら聞こえてこない筈だ。


「フォッフォウ。儂の名はアデス。こやつの名はスラ坊だ」


 アデスがスラ坊の代わりに自己紹介した。すると謎の女子は微笑んだ。


「そう。私の名はアルシャ。ここだとあれだからギルドに行きましょうか」


 謎の女子は自らをアルシャと名乗りアデス達をギルドに連れていこうとした。


「ほう。ギルドとな」


 アデスは酒場に行く予定だったがギルドでもいいかもと思い始めた。


「そう。私が創ったギルドでまだ仲間がいないんだ。名もまだ決めていない」


 アルシャはギルドの創設者だった。だけどまだ名は決めておらず仲間もいなかった。


「助けられた恩を痣で返す程に儂らは腐ってはおらん。そのお誘いに乗るかのう。フォッ。フォッ」


 アデスの気持ちは完全に酒場からギルドに変わっていた。スラ坊も嫌な雰囲気を出していなかった。


「アデスが良いんなら俺もいく」


 スラ坊の気持ちは晴れ晴れとしていた。アデスと共にする喜びを感じ始めていた。


「よし。それじゃいこう。付いてきて」


 こうしてアデス達はアルシャのギルドに向かう事にした。これがアルシャとの初めての出会いだった。

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