剣の腕前 ~蒼陽~
「ねぇ、香武。
藍は一体何をしているんだろうね。」
目の前にいる藍は天伶と剣を交えている。
「藍殿、その被り物があっては前も見えないんじゃありません?」
キーン!
という音が響く。
「いいえ、天伶様。
この被り物で表情が見えないでしょう?」
キーン!
と、また響く。
「なんで剣なの?」
「なんでも身を守るために剣を教えて欲しいと、頼まれたのですよ。」
なるほど、と納得はできるが…
「私を頼ってはくれないのかな。」
「……。」
"友"に頼ってもらえないのは寂しい。
ところで、藍は剣を振るったことがあるのか。
天伶相手に剣を交えるなんて…
キーン!!
一際大きく剣のぶつかる音がした。
藍の剣が下に落ちた。
藍が手を押さえ地面に座り込んだ。
「藍!!」
急いで藍のもとへ駆けつければ、
「あ、蒼陽。
お仕事お疲れさま。」
などと言う。
私はしゃがんで藍の手を見る。
良かった。
「はぁー。心配させないでくれ。…でも、
手の平が赤くなってる。」
血豆ができているわけではないが、藍の小さな手は赤くなっていた。
天伶に目をやる。
「申し訳ありません。陛下。」
頭を下げる天伶を庇うように藍が言った。
「私が頼んだの。
天伶様は悪くないから叱らないで。」
私はため息を吐いた。
「叱らないよ。藍の頼みと聞いたからね。」
ほっと肩を撫で下ろした藍と天伶。
「でも、もう今日はおしまい。手を冷やそう。」
私は藍を抱き抱えた。
「ちょ、蒼陽!
私1人で歩けるよ!」
バタバタとする藍。
「ダメ。足捻ってるからね。」
にっこり笑って言えば観念したかのように大人しくなった。
「剣術を学んだことがあるの?」
「…少しだけ、兄に…。」
藍はためらいがちに答えた。
あぁ、そっか。
「藍の兄上は教えが上手だったんだね。私も教わりたかったな。」
藍は私の服を掴んで言った。
「そんなこと…
ありがとう。
お兄ちゃんすごく喜んでいる気がする。」
言葉では笑っていても、藍が泣いているような気がした。
藍の兄は強くて優しい、そんな兄上だったのだろう。
可愛い妹に剣を持たせたいと望む兄などいない。
身を守る術として剣を教えたのだろう。
私は…
友のすることに反対はしないが、藍は女の子だ。
傷を負えば消えぬ傷として跡になる。
剣術など身に付けなくても、私が守るのに…。
2人が部屋に戻る姿を見送る香武と天伶。
「陛下の目が怖かった…。」
心底ほっとした様子の天伶。
「そりゃ藍殿は陛下の大切な"友達"ですからね。」
微笑む香武。
「でも…あれって"友達"…?」
「……。
やめてください、天伶。
頭が混乱する。」
2人は"友達とは何か"考えるはめになった。