陽だまりのような人 ~藍~
あれから、鈴珠様が私を看てくれていた。
蒼陽も見舞いに何度も来た。
そんなに来るなら居ればいいのに…
と、思うほど来た。
「あの、蒼陽…陛下の仕事は忙しくないんですか?」
鈴珠様に聞けば、とても忙しいらしい。
「少しの暇でも藍殿に会いたいのですよ。」
そう言いながら私の額に手を当てた。
「もう熱はないようですし、王宮の庭へ少し散歩にでも行かれますか?……陛下?」
見れば蒼陽がいた。
「うん、行こうか、藍。」
蒼陽は私の手を引いた。
私は鈴珠様に頭を下げ、蒼陽と散歩へと出た。
「ねぇ、蒼陽。
忙しい時は来なくても平気だよ?
もう熱も下がったから大丈夫。」
「ダメ。
私が君と居たいんだ。」
そう言って微笑む蒼陽になんだか恥ずかしくなって布を深く被った。
「藍、見て。」
顔を上げると四季の花が咲きほこる庭が目の前に広がっていた。
「綺麗。」
「うん。此処だけは王宮じゃないみたいでしょ?」
鮮やかな造り物じゃない、自然の美しさがそこにあった。
「こんな綺麗なの、初めて見た。」
日の光も当たらないように過ごしてきた。
暗い場所には綺麗な花は咲かない。
ここはなんて明るい場所なのだろう。
「藍が喜んでくれたのなら良かった。」
まるで陽だまりのように優しく笑うこの人は陛下。
見た目だって誰もが羨むような美人で、こんなに優しくて、なんでも手に入るような方なのに…。
「どうして私と"友達"になってくれたの?」
私の質問に蒼陽は言った。
「なってもらったのは、私の方だよ。
私は藍の事をよく知らないし、藍も私の事を知らない。
だけど、私たちは"友"になった。
藍が助けてくれたあの日、私はね、私の居場所であった小鳥が舞い戻ったように思ったんだ。」
「私もね、蒼陽が私に居場所をくれているよ。」
兄を失ってから、居場所なんてどこにもなかった。
そんな私に微笑みかけて名前を呼んでくれる。
蒼陽が笑う。
「こういうのが"友達"って言うのかな?」
「多分…。」
「(クスクス)」
蒼陽が笑うから、私もつられて笑えば、蒼陽が嬉しそうに顔を綻ばせた。
私の顔など見えていないはずなのに、何故嬉しそうな顔をするのだろう。
私は恥ずかしくなってさらに深く布を被った。
「ふふ…そんなに小さくなったら見えなくなっちゃうよ。(クスクス)」
その様子を柱の影から見ていた3人がいた。
「陛下のあの嬉しそうな顔…見ましたか?」
香武が言う。
「えぇ。
藍殿も元気が出てきたご様子で、良かったわ。」
安心したように鈴珠が言う。
「でもさぁ……友達ってあんなんだったっけ?」
誰もが気になったことをすんなり口にした天伶。
「「…………。」」
2人の友情のあり方に頭を悩ます3人であった。