ごめんね ~蒼陽~
鈴珠殿が駆け込んできた。
「藍殿が熱で…!」
私は急いで藍の元へと急いだ。
雨の中、私を助け私が目覚めるまで看ていたからであろう。
おまけに慣れない場所に連れてきてしまったのだ。
部屋に入ると藍は横になっていた。
(この布は?)
藍が被っているの布は白地に刺繍の入っているものだ。
「鈴珠殿、コレは?」
「陛下、冗談も大概になさいませ。
藍殿は女性でございます。」
(…!?)
「それから…、
うわ言のように"お兄ちゃん"と仰っておりました。
陛下、
"友"であるなら藍殿をよく見てあげてください。
この子の笑顔は哀しく見えてなりません。」
そう言って鈴珠殿は出て行った。
なんて私は馬鹿なのだ。
初めて出来た"友"に浮かれ、この子の気持ちを考えていなかった。
兄がいることはあの日、着せてくれた服で分かっていた。
家が壊れていては兄だって困るだろう。
なのに何故、そこまで考えもせずに藍を連れてきてしまったのだ?
浮かれていた、
ただそれだけではない。
あの家には藍しかいない気がしたからだ。
他の者がいる気配など無かった。
そんなのは勝手な憶測にしかすぎないのに…
「ごめんね、藍。」
君は女の子なのに…
藍の顔は目元まで布が掛かっている。
見えている肌は白くて、熱のせいで頬が紅潮している。
それだけでも十分"綺麗"だと思わされた。
「…蒼陽?」
藍が口を開いた。
気が付いたようで良かった。
「藍、私のせいで風邪を引かせてしまったね。
ごめんね。
それから、君を"少年"だと勘違いもして、
壊れた家に藍の兄を置いてきてしまった。
本当にごめんね。
家の方はすぐに直すから、すぐにでも香武か天伶に行ってもらーー。」
藍が布団に顔を隠し、笑いをこらえるかのように言った。
「大丈夫。
熱は蒼陽のせいじゃないし、
私が男と思われたことを否定しなかっただけだし。
"少年"という歳でもないよ。
15歳だし。
それから…
…
兄はもういない。もう随分前に…。」
そう呟いた声はとても哀しく聞こえた。
「だけど、やっぱり家は直してもらってもいいかな。
此処は私には場違いすぎて落ち着かないよ。
でも…直るまでは此処にいてもいい?」
藍が申し訳なさそうに言った。
「うん、もちろんだよ。」
私は藍の頭を撫でた。
「ゆっくりお休み。」
部屋を出ようとしたら藍が言った。
「ありがとう。」
私は笑みを浮かべることができただろうか。
"兄はもういない。"
そう言った藍の哀しい声が頭から離れない。
随分前ということは、ずっとあの家に一人ぼっちだったのか…
藍の寂しさに何一つ気付けてなかった。
友とはこういう時何をしたらよいのだろうか…。
私の様子に気が付いた香武と天伶。
「え、陛下は藍殿が女だってやっぱり気が付いていなかったのですか?」
などと天伶が言い笑った。
「香武は分かっていたの?」
なんとも言えない顔をする香武。
もはやため息しかでない。
私は藍の兄がもういないことを2人に話した。
そして藍の家を直すように命じた。
私ができるのは今はこれしかない。
また藍を一人ぼっちにするのは心苦しいが、
藍が望むのなら…
「「仰せのままに。」」




