"蒼陽"でいれる ~蒼陽~
私の人生は当たり前のように決まっていた。
その全てが当たり前で、私は決められた道の上にいた。
そんな当たり前の日々はいつだって何か足りなかった。
ある日、か弱き鳴き声が聴こえた。
助けを求めるようなその声を辿れば、一羽の小鳥が地べたで羽をばたつかせているではないか。
羽を怪我している。
私は鳥を手のひらに乗せた。
まだ小さな小鳥。
自由に空を飛びたいだろうに…。
私はその日から小鳥の世話をすることにした。
小鳥は日に日に元気になった。
怪我もすっかりよくなり、羽を羽ばたかせては、可憐に鳴いた。
「お前はいいね。いつだって自由で。」
私が話せば、小鳥は鳴いた。
まるで、会話でもしているかのようで楽しかった。
私は"蒼陽"である前に"陛下"だから、誰もが"陛下"として私と話す。
"当たり前"に慣れていたはずが、いつの間にかそれを寂しく感じた。
だから、小鳥と過ごす時は私が私でいられるのだった。
そんなある日、いつものように庭に出ても小鳥はやってこなかった。
名を呼ぼうとも、姿を探そうとも見つからなかった。
「友を失くしてしまった。」
呟いた言葉は私の心の奥深くに沈んだ。
それからの日々は公務に追われ、休む暇もなく私はずっと"陛下"だった。
(王宮にいては疲れてしまう。)
気晴らしに私は外に出た。
香武が共に、と言ったが断った。
私は"蒼陽"になりたかった。
(あの小鳥は元気にしているだろうか…。
私に羽があったなら気晴らしに空を飛べたのにな…。)
気付けば雨が私を濡らし、私の目の前は暗くなった。
私を看てくれた藍は、私を知らなかった。
許可もなしに額を触り、聞き慣れた丁寧な言葉ではなく私に話し掛けた。
王宮では出さないような粥を作り笑ってくれた。
私は、布を被ったこの子が何者であろうが、
嬉しかったのだ。
私を"陛下"と知っても
友になってくれたのだ。
この子は藍で、あの小鳥ではない。
だが思ってしまう。
小鳥には私の気持ちが分かっていたのだろう、と。
「嬉しそうですねぇ、陛下。」
天伶が言った。
「嬉しいよ。私に"友"ができたからね。藍は私の友人。」
「(クスクス)それは良かったですね。
藍殿は鈴珠に任せてきました。」
いつの間にか戻っていた香武が言った。
「うん、ありがとう。
んー。
藍は恥ずかしがっていないかな…。」
「「……。」」
「男の子だし…。」
「「…!?」」
「え、何?」
2人が何か言いたそうな顔をしていた時だった。
鈴珠殿が駆け込んできた。
「陛下!藍殿が…!!」
「!?」
私は藍の元へと急いだ。




