陛下は友で、友は陛下 ~藍~
私の家が壊れた。
兄と住んでいた私の家が。
だけど、ちょうど良かったのかもしれない。
一人で住むには思い出が多くて寂しかった。
それにしても…
私を抱えて馬にまたがっているこの人が、陛下…。
見上げていると、彼と目が合った。
「どうしたの?怖い?」
優しく微笑む彼に首を振った。
「さっき"陛下"だって…。」
「たしかに私は陛下だけど、藍の前では陛下じゃなくて、蒼陽だよ。
陛下として友人になったのではないのだから。」
蒼陽はそう言って笑った。
私はそれが嬉しかった。
友達なんていたことなかったから。
蒼陽が初めてできた友達だ。
目の前に見えたのは王宮。
私には縁遠い場所が目の前にある。
(すごいなぁ…。)
着くなり蒼陽は言った。
「彼に湯浴みを頼む。着替えもね。」
("彼"…。顔を隠しているから仕方ないけど。
…困ったなぁ。)
「仰せのままに。」
側近2人のうちの1人、香武様が言った。
「大丈夫だよ。香武は良い側近だから。」
蒼陽は私の頭を撫でた。
(コレは、間違いなく少年扱いだなぁ。)
私は黙って香武様の後に続いた。
王宮内は煌びやかで目を奪われる。
(本当に陛下なんだなぁ。私には場違いすぎる…。)
「藍殿。」
突然、香武様に話し掛けられ、
「はい。」
思わず声が裏返った。
「先ほどは大変失礼をしました。
それから家も壊してしまい申し訳ありません。
それと、
陛下を看ていただいたこと、大変感謝いたします。」
驚いた。
香武様は一見冷たそうなのに、よほど蒼陽を慕っているのだろう。
優しい声だった。
私のしたことが誰かのためになったのなら良かった。
こんなにも慕われている陛下は幸せ者だな。
蒼陽が元気になって良かった。
「あら、香武様。そちらは?」
着いた先で1人の女官に話し掛けられた。
親しそうに香武様に笑いかけている。
「こちらは藍殿です。
陛下の恩人であり友人。
諸事情があり、藍殿には王宮に住んでもらうことになりました。
宜しく頼みましたよ。
まずは湯浴みを。」
「ええ、かしこまりました。
私は鈴珠と申します。此処で女官を務めておりますが、そこにいる香武様の妻でございます。」
(やっぱり!)
2人のやり取りを見ていて、もしかしてと思っていた。
「それでは、彼を頼みましたよ。」
「え、彼とは?」
「藍殿です。
陛下もそう仰っていましたよ。」
香武様は去る様子もない。
私を"男"と思っているから仕方ないけれど…
私は深く布を被り俯いた。
「香武様、ここは私に任せてくださいませ。終わりましたら陛下のところへお連れいたしますわ。」
鈴珠様は私の手を取り戸を閉めた。
「どうしてこの子が男の子に見えるのかしら。
こちらを取っても構いませんか?」
王宮にいる私に拒否をする権利などない。
(人前で布を取ることなどなかったのに。)
"藍は人を惹き付けてやまないのだから、お前を守ってくれる人が現れるまでは、隠すこと。素顔も、心も"
幼い日の兄の言葉が脳裏をよぎった。
私が人を惹き付けることなどあるわけないのに、なかなか心配性な兄だった。
鈴珠様は頷いた私の布を取り、私を見つめた。
そして
息を飲むように言った。
「綺麗…。」