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陛下の仰せのままに  作者: rumi
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"陛下専属"の女官 ~蒼陽~

藍がいるとよく眠れている気がする。

(もう目が覚めてしまった。)

隣では安心して寝息をたてる藍。

何故か自然と笑みがこぼれる。

しばらく寝顔を見ていたが、藍がモゾモゾと動き始めた。

もう起きたのか。

私は咄嗟に目を瞑り寝ているふりをしたのだが、目を開けてみれば、藍が静かにそぉっと動いている。

その姿があまりにも可愛らしくて笑ってしまった。

まだ布団にいてと言われても、

一生懸命女官として務めようとしている姿を見ていたいと思うのだ。


私の服に悩む姿もまた可愛く見える。

藍の中ではあの服がいいのだろう。

出しては戻してを繰り返し頭を悩ませているようだ。

(クスクス)

私に似合っていようが似合っていまいが、藍が選んでくれた、ただそれだけで嬉しく思う。

それにしても、

藍の女官姿はとても可愛らしい。

男っぽい格好も似合っていて好きだが、女らしい格好はやはり似合う。

……

まぁ、藍ならどんな格好であっても似合うのだろう。


私の食事を用意する藍。

もう1人分あるというのに、きちんと1人分しか用意していない。

これでは何のための2人分か分からない。

私には遠慮などしなくて構わないのに。

一緒に食べることに応じた藍の小さな呟き声。

私も同じことを思っていた。

誰かと食事をしたのはいつぶりだったか。

それが"友"ともなると初めてで、私は嬉しかった。

向かい合わせに座る藍が微笑むと私の心はあたたかくなった。

1人で食事を摂ることには慣れてはいたが、藍と一緒だと1人では感じることのない気持ちがそこにあった。


藍が私を"陛下"と呼んだ。

呼び名などどうでも良いとは思えなくて藍に問えば、

私は"陛下"で藍は"女官"であると言う。

藍に女官を任せたのは私だが、2人の時は"陛下"ではないし、藍も"女官"ではない。

何故だろう。

"友"だからか…。

藍に"陛下"と呼ばれると途端に壁ができた気がして寂しくなった。

藍が納得してくれたのなら良かった。

今日は公務もないから藍に王宮を案内することにした。

とは言え、素顔を晒すことにはまだ不安があるだろうから、私は藍に布を被せた。

深く被せるのではなく浅く。

藍によく似合う色の布は藍の美しさをより際立たせた。

それから花の留め具を付けた。

町に行った際に

藍に合うと思って買ったものだ。

嬉しそうに微笑む藍に私もつられて笑った。


さて、

藍に王宮を案内すると言ったが…

こんなにも喜んでくれるとは。

初めて見るものばかりなのであろう。

瞳を輝かせ、声を弾ませる藍。

(っとに、可愛いなぁ…。)

着いた先では宮仕たちが剣の稽古をしていた。

私に気付けば皆、手を止めて頭を下げた。

(あ、そういえば…。)

「藍、申し訳ないんだけど、私は少し彼らの稽古に付き合わなくてはならないんだ。

約束していたのをすっかり忘れていた。

部屋に戻っていていいよ。」

剣の稽古を藍が見ていても面白くないだろう。

「陛下、ここで見ていては駄目?」

そう聞く藍が可愛くて頭を撫でた。

「駄目じゃないよ。

危ないから此処にいてね。」

藍をその場に残し、私は宮仕の剣の相手をした。

香武や天伶ほどとはいかなくともなかなか筋が良い者が集まっている。

だが、

「まだまだ。」

キーン!

と音が響く。

「参りました。」

稽古はこの辺でいいだろう。

藍を見れば何やら宮仕と話をして私の元へとやって来た。

「陛下、私の相手をしていただけませんか?」

手には剣が握られている。

ため息しか出ない。

困ったものだ。

藍に剣など握らせたくないのに…。

天伶だけが藍の相手をしたのも面白くない。

「女の子と剣を交わしたくないのになぁ。」

苦笑いを浮かべれば、可笑しそうに笑う藍。

「仕方ないね。」

私は藍と剣を交わした。

驚いた。

こんな小さな身体で私と同じ剣を握りいとも簡単に剣を振るう。

天伶が度肝を抜かれるわけだ。

まるで舞のような藍の剣。

誰もが見惚れる…。

「陛下、隙あり。」

そう言って藍は私に剣を向けた。

笑顔と一緒に。

本当にこの子は…

「(クスクス)参った。

私の敗け。」

「わざとでしょ。」

「違うよ。」

「……。」

腑に落ちない顔さえも愛らしい。

「ふふ、お茶でも飲もうか。」

("友"と交わす剣はいいものだな。)

私は藍の手をとってその場を後にした。



~宮仕たち~

「あの女官は何者だろうか。」

「なんでも新入りの"陛下専属"の女官らしい。」

「陛下専属……。」

藍の剣を見た宮仕たちは

目を離すことが出来なかった。

「まるで蝶が舞うかのようだ。」

「被り物から見える顔もとても美しい…。」

皆が藍の剣に見惚れた。

陛下が女官の手を取り宮内へと戻っていった。

「それにしても、陛下があんなに楽しそうに笑っているなんて。」

「一体2人はどのような関係なんだ?」

「"陛下専属"ときたらそういうことだろう。」

誰もが皆、2人が"友"であるなど思いもしない。

「陛下が男色との噂があったが、やはり嘘であったか。」

それだけは払拭できたのであった。

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