帰宅 ~藍~
私は今、天伶様の乗る馬に共に乗っている。
もうすぐ私の家が見えてくる。
「藍の家が直ったよ。
待たせてしまったね。」
と蒼陽が言った。
今でも此処は私には場違いだと思う。
だけど…
ほんの少しだけ寂しく感じたのは初めてできた
"友達"のせい。
「本当に行っちゃうの?」
「うん。」
「本当の本当?」
「うん。」
「…藍がいなくなってしまうのは寂しいなぁ。」
私も素直にそう言えたらいいのに…。
「私が藍を送っていきたいけれど、暇がなくてね…。
代わりに天伶に送ってもらってね。
すぐに会いに行くよ。
藍も遊びにきてね。」
そう言って蒼陽は私の頭を撫でた。
「うん。大丈夫だよ。
たくさんありがとう。」
蒼陽に別れを告げて、香武様と鈴珠様に頭を下げ、私は天伶様の馬に乗った。
「藍!」
蒼陽が私の手を握る。
「大丈夫?」
胸が苦しくなって声がでない代わりに頷いた。
私は何を戸惑っているのだろう。
帰るべき場所に帰るだけなのに。
私を見送る蒼陽の姿が小さくなる。
蒼陽は今どんな顔をしているのだろう。
"会いに行くよ。"
そうは言っても蒼陽は陛下で忙しい身。
友達でも会うことがなければ私を忘れちゃうのかな。
"遊びにきてね。"
見ず知らずの私を"友"と呼んでくれた。
ただそれだけでは簡単に遊びになんて行けないよ。
私は今、どんな顔をしているのだろう…。
馬の脚がゆっくりになった。
気が付けば家の前。
天伶様は馬から私を下ろすと、
戸締まりはきちんとするように言い、王宮へと戻っていった。
天伶様なりに私を心配してくれているのだろう。
「ただいま。」
静かな部屋から返事はない。
天伶様に言われた通り戸締まりをしっかりとし、短剣を身に付けた。
また独り。
今までだってそうだったでしょ?これからだって…。
今生の別れでもない。
もう会えないわけでもない。
寂しくても"あの日"以上の寂しさなどない。
大丈夫。
独りの寂しさなんて、すぐに慣れる。
私は被っていた布を取った。
(あ…。)
鈴珠様が被せてくれた布。
こんなに綺麗な布が私に似合うだなんて…。
洗濯をして返さなくちゃ。
…。
私はため息を吐いた。
王宮へと足を向ける勇気がない。
王宮に行くには町を抜けなければならない。
もしも布が風で飛んでしまったら?
もしもまた、賊が…。
そう思うと臆病な自分が顔を出す。
自分の身は自分で守らないといけないのに…。
弱い私のままでは、この短剣は飾りにすぎない。
明日は蒼陽来るかなぁ…。




