雨の日の出会い ~藍~
降りしきる雨の中…
道端に人が倒れている。
(どうしよう…)
この雨の中置いていくわけにはいかないし…
見て見ぬふりなどできない。
そんなことをしたならば、
"お前をそんな子に育てた覚えはない"
と、兄に怒られる。
そして何より、私の家は目の前にある。
この人を持てるような腕力は私にはないから仕方がない。
ズルズル…
引きずらせてもらった。
ひとまず床に寝かせて、乾いた布で体を拭いた。
(この人どっかの偉い人かもしれない。)
繊細な刺繍が施された召し物を脱がせて、兄の物を着せた。
「よいしょっと…!」
布団に寝かせるだけでも小柄な私には一苦労だ。
それにしても…
(なんて綺麗な顔をしている人なのだろう。)
そっと手を伸ばし前髪に触れてみた。
…ん?
「!?」
彼の額に手を当ててみれば、熱がある。
だから倒れていたのか。
濡らした布を額に乗せると少しだけ楽になったのか、呼吸が落ち着いてきた。
(良かった。)
苦しそうだけど、きっと熱が下がれば大丈夫。
私は彼の熱が下がるまで看続けた。
誰かのために何かをしたのはいつぶりだったかな。
きっと兄がいてくれたら全てが手際よくて、あっという間に熱なんて下がっちゃうのに。
不甲斐ない自分。
私にもっと知識があったら…
力さえあったらあの時も…
気持ちが落ち込みそうになり顔を洗った。
そして素顔を隠すかのように布を被った。
「…此処は?」
微かに声が聞こえた。
戸を開くと彼が目を覚ましていた。
ほっと肩を撫で下ろし、彼の額に触れた。
「ちょっとごめんね。
…良かった。熱は下がったみたい。私の家の前で倒れていたんだ。」
彼は驚いた顔をして私を見た。
無理もないよね。
不審者に見えているに違いない。
「そっか、ありがとう。」
と、フニャッとした笑顔を見せた。
歳は私とそんなに変わらなそう。
ぐぅぅぅ
彼のお腹が鳴った。
「アハハ、鳴っちゃった。
私は帰ることにするよ。」
彼が起き上がろうとするのを私は阻止した。
「病み上がりなのだからまだ此処にいるといい。
温かいものでも作ろうか…嫌じゃなければだけど…。」
「ありがとう。」
彼はまた笑った。
こんな不審者じみてる私に笑いかけてくれるなんて、変な人だ。