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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある村人の話

作者: 白井

 ある村に、言葉を喋れぬ子どもがいた。

 子どもは周囲から罵られ、蔑まれる日々を過ごしていた。

 村には娯楽が少なく、弱者をいたぶることが数少ない楽しみの一つだった。

 言葉を喋れぬ子どもは、村では丁度いい生け贄だった。

 彼には家族がいたが、決して子どもに救いを与えなかった。

 

 子どもはやがて成長し、村で一番力のある男となった。

 村の人間たちは彼をいたぶることを随分前にやめ、男を頼るようになっていた。

 男は村人の頼みに素直に応え、村に欠かせない存在となることで立場を変えていた。

 

 ある日、村に悪い病が流行った。

 身体が固く強ばり動けなくなるもので、多くの村人が罹った。

 そして病が去った頃、村は身体が動かないもので溢れたが、動ける者も動けない者も協力することでなんとか村を維持していた。


 それから暫くして、村の何人かが殺され始めた。

 いずれも、身体が動かない者ばかりが連日狙われた。

 

 そんな日々が数日続いた後、生き残った者が現れた。

 彼女は犯人を尋ねられ、酷く怯えながら言葉の喋れぬ男の名を挙げた。

 生き残りは男の母親だった。


 村人はすぐに男を呼び、なぜ殺したのか尋ねた。

 男は酷く困惑した表情で首を横に振った。

 それから村人が何を聞いても、男は困惑するばかり。

 痺れを切らしたある村人が、男を幼い頃の蔑称で呼んだ。


 すると男は笑顔になり、ようやく頷いた。

 村人たちはその仕草を見て、動機は幼い頃の復讐だと考えた。

 力強く育った男を恐れた村人たちは、そのまま男を集団で殺してしまった。

 男を殺したことで、村には再び平和が訪れた。


 殺された男にとって、動機は復讐ではなかった。

 弱い者が虐げられるのは、彼にとって当たり前のことだった。

 彼はただ、村の一員として動けぬ者を殺したのである。

                                 

 男はこの時本当の意味で村の一員となってしまったのだ。

 他者を蔑み、虐げる者の仲間となって死んだ。

 

 私は長く男の友だった。

 一緒に文字を考え、二人にしか分からないことも多かった。

 友は真の村人になることを選び、私は選ばなかった。  


 そして私は老いた。

 私が老いても、村は変わらず在った。

 これまでもこれからも、娯楽の乏しい村でやることは変わらない。

 あの時村人になることを選ばなかった私も、今は村の一員となった。


 村だけは変わらず、ここに在った。

                      


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