窓際共
処女作となります。
手前事ですが、トカゲが好きです。
トカゲって、首をかしげるんですよ、何がトリガーかは分かりませんが、かしげるんです。確かに。
今年の春は例年より太陽のやる気が低いようで、変温動物には厳しい環境となっていて、その変温動物がみられないということは、恒温の私も厳しい環境だという、負の連鎖が、この狭い界隈で起こっております。
フトアゴヒゲトカゲ、アルマジロトカゲ、レオパードゲッコー、どうぞよろしく。
超常現象
(ちょうじょうげんしょう)
英語 paranormal phenomena パラノーマル パノマナ)
とは、現在までの自然科学の知見では、どうにも説明できない現象達のことである。
人体発火、心霊現象、何故かひとりでに動き続ける岩…。
噛み砕いて説明すれば、どの研究者も確実な説明のすることができない未だ未知の現象群が、これだ。
まるでこの世の全てを分かりきってしまったかのように、この世で一番偉いかのように、ふんぞり返って傲慢に振る舞う人類への、まるで挑戦状ともとれるこの数々の不思議現象達は、一個体、一生命、一探求者としての私らを、いままでも、そしてこれからも、長く強く魅了してやまないのだ…きっと…。
きっと!そう!これは人類VS神々の知恵比べエンターテインメントであり、私らはこの謎を解き明かすことによって新たな人類のステージへたどり着くのである!つまりだね、不思議なことを不思議だなぁと思う感性!これこそが…大事!そう!大事であって!手の届きそうで届かないこの歯がゆさが胸をくすぐって…見てろよ神よ!今に存在を解明してやるからな!という…だね!あの……推考な目的を持って挑戦し続けなければならないのだよ!人類の進化のために!
___そう思わんかね!藤崎クン!?」
「まぁ。」
「今日も力出てきませんなぁ藤崎クゥン!」
気温、18℃。
まだ冬の寒さが残る初春、二人の男女は、二人だけになったその空き教室で、かれこれ数時間、長々と語らっている。
語らっているというには些か、男女の発言比率は女性に大きく偏っているみたいだけれど。
時計の短針は5をそろそろ越えようかという時間で、まだ明るかった帰り道は、教室の蛍光灯が勝るか勝らないか、という暗さの塩梅に変わっていた。
藤崎君、と呼ばれた男性は、ツーブロックマッシュ、黒髪、やや細身、目方170㎝に、学校制服のブレザーを着用した風体で、容姿端麗とまではいかないが、目は二重、鼻筋は通り、陰鬱ながらもよくみたら以外と可愛いじゃん、といったレベルの…中の上程度の外見はしていた。
その藤崎青年は、それまで熱く昂り、重火器よろしく己の弁を諤々語っていた女学生には全く、ほんと全く、可哀想になるほどちらりとも見ず、一冊の本に読み更けている。
相づちは打つため耳は傾けているらしいが、教室の、木と鉄パイプでできた昔ながらの椅子に礼儀正しく足を揃えて座ったまま、微動だにしない。
もはや彫刻か、果てには死人か?というその様は、彼女に対してだけでなく、彼のデフォルトの生態である。
それにより、クラスメイトからつけられた栄えあるあだ名は『石像』だった。
その藤崎青年改め石像青年が、なんらかの行事により渋々活動せねばならない際には、勿論一部のかしましいクラスメイト達から『うごくせきぞうだ!』とバカにされるのだが、まぁ、これは、伝わる人にだけ伝われば良い。
ここまで石像青年の恥態と悪口を書き連ねたけれど、何が言いたいのかと言えば、石像青年は、お気付きであろう、謂わば窓際族、ボッチなのである。
もう半年が経とうかというクラスにはまるで馴染めておらず、それどころか、高校生活においてなるべく一年次迄に形成しておかなければならない仲良しグループへの加入すらままなっていない。
けれども、良いか悪いか、それを良しとしているのが、この藤崎青年なのである。
彼は独りが苦でない性分だった。
そういう人種である訳だから、勿論友達が出来ようが出来まいが関係がない。
ボッチであることに抵抗がない。
他人の目に興味がない。
世捨て人である。
さて、そんな藤崎青年に気が触れたかのように話しかけ続けるこの物好きな女は果たして一体なんなんだと。
無条件に愛してくれる男の理想の具現か?
もしくはイマジナリーフレンドか?
気になり様々な考察を飛び交わせている頃だと思うけれど、名を高山遥と言う。
目方身長160センチ、身長相応なバストと、少し気の強そうな整った顔立ち、長い髪をひとつ結びで結い、藤崎青年と同じブレザーを着ている。
スカートはやや長めで、下には厚めのデニールのストッキングを履いていた。
ぶっちゃけ美少女に一歩足をかけている、垢抜ければ間違いなく美少女なこの高山遥だが、さて、じゃあ、なぜこんな娘が石像なんかとつるんでいるのか、と、ふと疑問に思ったことだろう。
けれども、なんら不思議なことではないのだ。
彼女もまた、石像と同じく悲しき窓際族の内の一人なのである。
彼女の趣味は読書だ。
それだけならいい。
もしかすると深窓の令嬢なんて呼ばれて、高嶺の花子さんで、今すぐその窓から飛び出していたかもしれない。
が、実情は、かなり片寄った偏食読書家で、手に取る書物の内容は、超常現象や未確認生物、未確認飛行物体等、非科学的な、オカルトに近い、一般的感性からすればちょっと理解しがたいものばかりなのだ。
故に、素材の良さを度外視して、クラスの男子からは敬遠されている。
無理もない。
端から知らずに見ればどう考えても地雷であるし、よく分からない薄気味悪い本を読み更けているだけでも少しばかり恐ろしいのに、突拍子もなく、ヘッヒヒ、と、魔女か悪魔かその類いを彷彿とさせる奇怪な笑い声をあげるもんだから、そんな彼女の姿は、同姓異性隔てなく、クラスメイト全体から、悲しいかな俗に言うメンヘラのように写ってしまうのである。
彼女の名誉のために一応補足しておくと、修学旅行の夜、「あの高山って奴、顔はちょっとかわいくね?」と男子部屋で話題に上がるくらいには、とりあえず人知れず人気がある。
ただ、ボッチであることに変わりはない。
高山遥はそんな女子生徒だ。
彼女が藤崎青年とつるむようになったのは、凡そ1ヶ月程前。
たまたま藤崎青年が休み時間中新しく読み始めた本が、ゴリゴリのオカルト系だったもんだから、今までクラスメイトにはおろか、全人類へ己の趣味話をふることのできていない、ここ数十年飢えに飢えた雌狼、フラストレーションの塊と化したオカルトガールこと高山は光陰矢のごとし藤崎青年へアタックし…
「君ィ!オカルトが好きなのかい!?(大声)」
と、第一声でこうけしかけた。
このときばかりは石像青年はうごくせきぞうとなり、目をぱちくりさせ、意気揚々をもはや通り越して、鼻息荒く、蒸気機関車のようなあばれうしどり(高山)を席についたまま見上げると、流れと勢いで
「えぇ、まぁ…人並みには」
と、言ってしまった。
言ってしまったのだ。
それがうごくせきぞうの、運の尽きだった。
十数年生きてきてはじめての同族を見つけたひとしおの感動に浸るいたいけなあばれうしどりは、もう止まることを忘れてしまった。
蒸気機関車のブレーキは、この返答を境に壊れてしまったのだ。
あばれうしどり の アストロン !
「いやぁそうか!君はオカルトが好きか!かくいう私もオカルトが好きでね?いや、オカルトといっても霊的怪異的な物に限らず、未確認生命体や飛行物体、他にももろもろ不思議~~!ってなれる現象の数々全てがもうたまらなく好きなのだけれど、好きでは足りないな、そう、愛しているのだけれど、この昂りを伝えられる相手がこの学校で見つけられずに困っていたんだよ、人に話すことだけが愛情表現だとは私も思わないし、一人もくもくと読書に耽り己の中で感性と感想を完結させるのも勿論乙なのだけれど、それはやはり限度があるじゃないか!一人はね、限度がある!私もディベートがしたい!そう思っていたところなんだよ、思っていたところといっても思い始めてもう二、三年は経っているけれど、それは些細なことだ!なぜなら!今日から!私は!一人じゃない!ひゃっほう!(早口)(大声)(アディダスの財布)(コーナーで差をつけろ)」
これにはうごくせきぞうも、またうごかないせきぞうに格下げした。
ドン引きである。
このドン引きして思考が停止し、結果硬直するという硬直は、普段自ら好き好んで硬直しているアストロン藤崎にとって、今まで生きてきて初めての硬直のタイプであった。
藤崎青年に突然女子が話しかけてくることは生きてきてまず無かったし、あってもプリント配るときとか、そういう事務的なものであって、この壊れたSLの停車駅になる方法はまるでわからない、許してほしい、そんなコミュニケーション能力があればクラスで孤立などしていない。
もしこの硬直が一目惚れ故で、恋へ発展するような、そんなラブストーリーは突然にな反応ならまだ救いようもあったのだけれど、相手はAPP高めとはいえ、あばれうしどりである。
ノンストップで喋り終え、満足げにガッツポーズをする高山は、ドン引きする藤崎がまるで眼中になく、もう友達ですと言わんばかりに喜び、目を輝かせ、尻尾を振り、また口を開き…。
あとは想像の通り、30分ほどの休み時間が終わる迄、高山は言葉の乱れくちばしを浴びせ続けた。
崇めたまえ、これがサンドバッグ青年の誕生である。
とはいえ、高山の話は藤崎にとって、このまま生きていればまず知り得ることのなかったであろう情報達であるからに、正直面白かったというのが、素直な感想だった。
前述したけれど、藤崎は友達が居ても居なくても変わらないだけで、別に友達という存在が嫌いなわけではないのだ。
高山はこの時から藤崎を本当に友達と思ってしまっていたし、藤崎はそれを悪いこととは思わなかった。
藤崎は知らない知識を得られるし、高山はストレスの発散ができた。
需要と供給がこの狭い世界で何故か成り立っていたのである。
この一件で、クラスメイトからの高山&藤崎への目は一層冷めたものになったけれど、お互いに世捨て人であるし、関わらなければ害もないし、村が別れたという感覚で、別に虐めに迄発展しなかったのは、クラスメイトが良い子達だったからだろうか。
それとも、それだけあばれうしどりとうごくせきぞうのコンビが不気味だったからだろうか。
いずれにせよ、少なくとも高山は幸せだった。
これまで生きてきた十数年で蓄積した話を消費するには、勿論数十分では足らず、放課後も藤崎を拘束し、それでも足らず、話は次の日に持ち越され…。
そして、それを一月繰り返し、今に至る。
時計の短針は、六を回っていた。
高山は未だこれからと鼻息を荒くしてギアをあげ続けていたが、藤崎はおもむろに立ち上がり、帰り支度を始めてしまう。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ、これからが良いところなんじゃないか、不思議な現象を解明したい気持ちと、けれども解明してしまっては不思議ではなくなってしまうジレンマ、このハリネズミな僕らが中庸をとれる良い湯加減はどこかという意見を、いましがた藤崎君に聞こうとしていたところなんだよ。」
「高山さん、完全下校。」
「何を、冗談ぬかしおるわ、今さっき六限目が終わったところだったでしょうに。…おっと。」
高山は振り向いて時計を確認し、「ほほう…。」と、
強がったように、興味深そうに、感嘆した。
何がほほうじゃ、と、藤崎は思ったけれど、特にそれを口に出すことはしなかった、面倒だからである。
高山が「これ、俗に言うゾーンではないか!?これゾーンだよね!?いやぁ私最近毎日ゾーン入ってるなぁ!!」と楽しそうにしているのを尻目に、黙々と帰り支度を進める。
そして支度を済ませると、鞄を背負い。
「じゃ、また。」
「ちょ待っ」
そう告げて藤崎は教室を出た。
藤崎達二年生のクラスは、三階建て校舎の二階である。
踊り場を抜け、一階の入り口前、下駄箱で上履きを履き替えていると、生徒はもうほとんど帰宅し、静まっている廊下に、どたばたと階段を勢いよく降りてくる音が響いてきた。
「わ…、私、が、支度するまで…、待っ…てくれたこと、一度も無いのに…、っ気付いているかな?…藤崎君…。」
「気付くも何も…。」
窓際ボッチには一階分の階段を飛ばすことすら大運動である。
高山は綺麗な髪と、呼吸をぜぇはぁと乱れさせ、恨めしそうに藤崎を見た。
そんな目で見られましても。
僕にそんな義理無いですし。
例に漏れず口には出さないのだが。
高山が恨みを捌けている間も、手を止めずに靴を履き終えた藤崎は、校舎への出入口を出た。
「ここまで言ってもまだ待たんか!!?」
藤崎の背後からもはや怒号が聞こえる。
けれども足は止まらず、家への帰り道につこうとした矢先___
____藤崎の目の前に、空からカエルが降ってきた。
ところでカエルも好きなんですよ、ブサカワ、キモカワの筆頭とあげられることの多いカエルですが、私から言わせれば、カエルは美男、美女であります。
正統派の可愛いであります。
昨今、爬虫類顔というのが流行っているようで、それはつまり、爬虫類がイケメンであるという裏付けとも、取れるのではないでしょうか。
ヒキガエル ツノガエル アメフクラガエル どうぞよろしく。
小説もよろしく。