表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でもお米が食べたい  作者: 善鬼
第2章  王国辺境_農地開拓編
94/304

閑話 第12話

 油断していた。


 この世界に来てから忘れていた。あの村が温かかったから。最近、魔物の相手ばかりしていたから。


 人の悪意というものを忘れていた。


「よお、新入り(ニュービー)。最近稼いでるようじゃねえか。ちょっとおごってくれよ」


「そうそう!新人は先輩に酒代を渡すって決まってんだぜえ!」


「はははは!あまり脅かしてやるなよ。震えてるじゃねえか!」


 森の中。相手は3人。首から下げているタグは銅。3人とも銅級冒険者だ。

 全員オレよりも背が高く分厚い。まさに荒くれ者という見た目。腰には剣がある。


 戦うのは無謀だ。身体能力では勝ち目がない。

 魔力への干渉も無理だ。高い集中が必要のため、1対1じゃないと使えない。そもそも、目の前の冒険者には効かないだろう。


 ここ最近、小型の魔物を狩って理解した。オレが魔力に干渉できる規模には限りがある。相手の魔力が大きければ干渉できない。

 最初に狩った角兎より、少し大きな個体を相手にしただけで、“手”の手応えには強い抵抗を感じた。

 目の前の3人は、角兎より魔力が多い。干渉は弾かれるだろう。


 どうする。逃げるのは可能か?隙を突けば……。


「おいおい」


「っ!?」


 一瞬で目の前に1人がいた。速すぎる。反応すらできない。


「無視すんじゃねえよ」


「ぐほっ!!」


 メリッと、体が悲鳴を上げる。体の空気が抜ける。オレの腹部に太い足が突き刺さっている。


 為す術なく蹴り飛ばされる。受け身も取れず、無様に草の上を数回転がった。

 地面が柔らくて良かったと、頭の隅で思考した。


 痛い。体が軋む。衝撃が全身を麻痺させている。


 それでも、震える手で体を起こし、立ち上がろうとした。


「そらよ!」


「がっ!」


 顔に衝撃。一瞬だけ、迫ってくる腕が見えた。殴られたらしい。頭が地面にぶつかる。視界が捻じれる。世界が揺れる。

 脳が揺れたみたいだ。平行感覚は行方不明。


「んじゃ、貰ってくぜえ」


 懐に手を伸ばされる感覚。阻止したいが体が上手く動かない。

 仮に動いても、何も出来ずに怪我が増えただけだったろうけど。


「ははっ。意外と貯め込んでるじゃねえか」


「こいつは俺等が有効に使ってやるよ」


「魔力が無えってのは大変だな!雑魚が魔物をチマチマ狩るより、俺たちが魔物を狩る方が効率がいい。お前の分まで狩ってやるから感謝しろよ!」


 笑い声が森に響く。不快な音が、揺れる脳を叩く。足音が去っていく。


「…………」


 悔しい。悲しい。そして、それ以上に、オレは疲れていた。


「痛っ……!」


 衝撃の抜け切らない体を起こそうとして、感じる痛みに諦めた。酷い鈍痛が腹部を支配している。ついでに転がったときに捻ったのか、左足首が鋭く痛む。


 力を抜いて、仰向けに転がった。大の字に寝転ぶ。


「血の味がする……」


 殴られたときに、口の中が切れたのだろう。鉄錆の味がじわりと広がる。


「なんか……疲れたなあ」


 見上げる空は高い。ほとんど雲の無い快晴は、呆然と見ていると空に落ちそうな感覚になる。


「頑張ってる、つもりなんだけどなあ……」


 上手く進めない。簡単には強くなれない。文字を教えてもらうために貯めていた金も、さっき無くなった。

 何も進歩していない。重い泥の中にいるようだ。


 さっきの冒険者3人には、たまに冒険者ギルドで絡まれていた。オレが狙われたのは、一番弱いからだろう。

 肩を組まれるだけでも、オレに魔力が無いのは分かる。いい獲物だったのだろう。少し金を持っていて、反撃される心配はほとんどない。絶滅したどっかの鳥みたいだ。


「疲れた……」


 徒労感に体が沈む。あの村で強くなると誓ったのに、オレはどこにも行けていない。

 無理だったのだろうか。高望みだったのだろうか。強くなりたいという願いは、オレには過ぎたものだったのだろうか。


 ぼんやりと空を眺めていた目を閉じる。


 今は少し休みたかった。森で無防備で寝転ぶなんて危険な行為だけど、立ち上がる気力が湧かなかった。鉛のような疲労が体の奥にある。心の火が消えた。


「……」


 何も考えずに体の力を抜く。何もかもがどうでもよかった。頬を撫でる風が気持ちいい。首元に刺さる草だけが少し気になった。


「……」


「……」


「……」


 ……。


「おい、君。大丈夫か?」


 ふいに声がした。高い、女性の声だ。


「生きているか?」


 億劫だったが目を開ける。眩しさが一瞬目を焼いた。数度瞬きする。


「生きては、いるようだな」


 とても、とても綺麗な女性(ひと)だった。赤みのある金色の髪を風に揺らし、見上げた空と同じ色の瞳でオレを心配そうに覗き込んでいる。


「良かった。動けるか?」


「はい、だいじょ、つうっ!!」


 反射的に返事をしてしまったが、良く考えたら大丈夫じゃなかった。まだ体が痛い。動くのは厳しそうだ。


「無理に動かない方がいい。少し待て」


 目の前の女性がオレに手を伸ばしてくる。その手がオレの胸に触れた。温かな魔力が流れ込んでくるのを感じる。

 熱が全身に広がり、体が活性化していくのが分かる。


「む?魔力が……?この状態で良く生きているな。普通なら意識もないぞ」


「体質、なんです。あの、ありがとうございます」


「ふふふ。気にするな。初歩の治癒だが、これは得意なんだ。職業柄、良く使っていた」


 過去形?女性は鈍く太陽光を反射する鎧を着て、武骨な直剣の鞘を腰に留めている。騎士のような見た目だ。

 ただ、鎧も鞘も、何かを削り取った跡が見えた。


 腹部の鈍痛が引いていく。


「オレ、木級冒険者のコーサクといいます。このお礼は必ずします」


 心地よい魔力が体を動かす。体に熱が戻ってくる。まだ、オレは動けそうだ。目の前の女性のおかげだ。その感謝を伝えたい。


「ふむ。このくらいで礼を貰おうとは思わないが……。貸し1つとしておこう。私に何かあったら手を貸してくれ」


「はい。いつでも。ええと……」


「ああ、まだ名乗っていなかったな」


 そう言って、彼女が名前を告げる。


「私の名はロゼッタだ。君と同じ冒険者で、階級は銀だ。よろしく頼む」


 そう微笑む彼女の瞳は、青空に負けないくらいに魅力的だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よろしければこちらもどうぞ! 『お米が食べたい』シリーズ作品

〇コーサクの過去編 : 『ある爆弾魔の放浪記』  

〇ルヴィ視点の物語 : 『狩人ルヴィの故郷復興記』

シリーズ外作品 〇短編 : 光闇の女神と男子高校生な勇者たち
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ